第13話 鷹宮家の秘儀と、教団の影
京都の山奥、鷹宮家の奥座敷は、昼間でも薄暗かった。
障子越しに差し込む光が、畳に細長い影を落とす。
九条べにへの後継試験が何度かに分けて行われる。
その合間に鷹宮家へ向かうよう命じられ、べには京都の山奥まで足を運んでいた。
べには、正座したまま鷹宮家当主の言葉を聞いていた。
老人の声は、低く、抑揚がない。
「この儀式は、千年以上前に始まった」
巻物がゆっくり広げられる。
古い墨の匂いが、鼻を突く。
「呪術、陰陽道、真言密教・・・・・あらゆる秘儀を集め、五家をまとめる宗家を永遠に守る術を求めた」
「だが、どれも不完全だった」
「そこで、到達した結論が——この世界とは異なる次元から、神の如き存在を呼び寄せること」
べには静かに息を吐いた。
エクレアの姿が、脳裏に浮かぶ。
銀髪、紅の瞳、メイド服の下に隠された圧倒的な力。
(すでに、成功していたんだわ)
老人が続ける。
「儀式は、成功したかに思えた」
「教団の秘伝を借り、魔力の流れを整え、召喚陣を完成させた」
「術者たちは、神の降臨を確信した」
「だが・・・・・神は現れなかった」
老人の瞳が、暗く沈む。
「陣の中心に、何も残らなかった」
べには心の中で呟いた。
(消えていない)
(ご主人様のもとへ、行かれただけ)
(もし、儀式が成功していたのなら、同じことを繰り返しても意味はない)
老人が声を低くする。
「だから、もう一度儀式を執り行わねばならない」
「そのためには、その教団の力が不可欠だ」
「その教団は、長野の山奥に隠れている」
(だけど、本当にそうなのか確認したい。現地の長野へ足を運ぶ必要があるわね)
「新興宗教がひしめく長野の地で、今もひっそりと存在している」
老人が、巻物の端を指でなぞりながら説明を続ける。
「前回は、神が降りた気配を感じたが判然とせぬまま裂け目が閉じた」
「儀式が成功したとは思えん」
老人の目が、べにを射抜く。
「今度こそ、成功させるのじゃ」
「九条べに。お前が、当主の代行として儀式を主宰せよ」
べには静かに頷いた。
「承知いたしました」
胸の奥で、魔力が脈打つ。
エクレアから授かった力。
(成功は、している。ただ、ここにいないだけ)
老人が立ち上がり、
「三日後、長野へ向かう。教団の本部は、深い山の奥。道中、気を引き締めよ」
「次の儀式では、失敗を許されない。失敗すれば・・・・・この家は、千年分の因果を背負う」
べには深く頭を下げた。
「わかりました」
(ずいぶん、大げさなことを言うわね)
座敷を出る。
廊下を歩きながら、べには小さく微笑んだ。
京都の空は、静かに暮れ始めている。
長野の山奥で、何が待っているのか。




