第12話 支社の影と、本家の試験
少し時間をさかのぼって。
ここ、九条の本家では、べにを正式な後継者とする試験が行われていた。
千年以上の歴史を誇る家。
後継の試験にも古臭いしきたりが残る。
特に女性が当主になるのは、歴史上、そう多くない。
気力、体力、精神力が試される試験が続く。
だが、九条べにはすでにエクレアの使徒として目覚めていた。
以前よりはるかに強靭な力。
魔力の流れを操り、疲労を抑え、集中力を極限まで高める。
試験の成績は、異常だった。
「すごい・・・・これが人の身であり得るのか」
見届け人たちが、驚きの声を上げる。
「女性だの何だのと言ってはいられない」
「この者が当主であれば、我々の悲願が達成されるやもしれん」
興奮が、座敷に広がる。
試験の合間。
九条家に先祖代々仕える家、神崎家のお付き、神崎あやめがそっと近づいた。
「べに様、タオルでございます。どうぞ」
べには受け取り、体を拭く。
「いつもありがとう。それで・・・・あの方のご様子はいかが?」
あやめは静かに答える。
「つつがなく過ごされております。何かあっても、私がフォローしておりますゆえ」
実は、この神崎あやめこそ、入社三年目の鈴木の本当の姿。
いつもは目立たず、支社で静かに過ごしているが、九条べにが、ご主人様のために遣わした腹心の部下だった。
べには小さく微笑んだ。
「ありがとう。引き続き私に代わってあの方をお守りして」
あやめは深く頭を下げた。
「もちろんでございます。べに様のご命令のままに」
試験の場に戻るべにの背中は、まっすぐだった。
千年以上の歴史を丸ごと飲み込み、九条べにはご主人様へ全てを捧げようとしていた。




