第11話 「支社長、何者なんすか」
相変わらず、支社の業務はほとんどない。
書類の確認と、事業計画の微調整だけ。
それなのに、入れ替わり立ち替わりで、部長の高橋さんと九条常務が訪れる。
最初、三人の部下たちは「業務の報告か、計画の打ち合わせだろう」と思っていた。
だが、徐々にそうではないことがわかってきた。
高橋さんは俺の机の上の書類を整理し、
「ここ、並び変えておくわね」
と、さりげなく書類を整える。
九条常務は、俺のデスク環境や照明の位置を調整し、
「これで見やすくなるかしら」
と、静かに言う。
佐々木は呆然と見つめ、
「支社長・・・・何者なんすか」
と呟く。
俺は苦笑するしかない。
今日は歓迎会。
支社長の俺を含めて四人しかいない支社だ。
親睦を深めようと、近くの居酒屋を予約した。
特に佐々木とは、同じ男同士、仲良くしないとな。
出発前に、佐々木がLINEのやりとりをしている。
「すいません。今日どうしても女友達がデートっていうもんだから、なだめてたんすよ」
どうやら、親睦会のため女友達にデートの断りのメッセージをしている。
佐々木は複数の女性とやり取りをしているようで、女遊びが激しいという人事の注意事項を思い出す。
居酒屋に入ると、早速佐々木が絡んできた。
ビールを一口飲んで、
「支社長って、どうやってあんなに女を引きつけてるんすか?」
俺は箸を止めた。
「そんなことないよ」
佐々木はさらに酔いが回って、
「いやいや、特に九条常務がありえないっすよ。あんな潤んだ瞳で支社長のこと見るなんて・・・・」
佐藤さんが、静かに睨む。
「ちょっと、さすがにプライベートに踏み込み過ぎじゃない?」
佐々木は肩をすくめて、
「へいへい、すいませんでした」
と返すが、目はまだ俺を観察している。
どうやら、佐藤さんが苦手な様子だ。
鈴木は黙ってビールを注ぎ、
「支社長、お疲れ様です」
とだけ言った。
その所作は、妙に丁寧だった。
その夜、俺は家に帰ってソファに沈んだ。
——ご主人様。
エクレアの声が、優しく響く。
——支社の皆さん、少しずつ、ご主人様に慣れてまいりましたわね。
俺は小さく息を吐いた。
癖のある部下たち。
でも、俺の側にはいつもエクレアがいる。




