第10話 癖のある部下たちと、初日の波乱
支社は、都内にある。
東北地方の案件とはいえ、事務手続きがメインだから本社の近くを用意したらしい。
東北側は現地事務所が別にあり、ここは本社・官庁・金融対応の窓口らしい。
いずれプロジェクトが動き出すと支社が中心となって、現場に指示を出すことになる。
そんなところへ俺は支社長として、赴任した。
事前に人事から聞かされていた注意として、
「部下は少し癖がある」
その言葉が、頭に残っていた。
初日。
まずは、一人ずつ面談。
支社は小さなオフィスで、社員は三人だけ。
一人目は、男。
入社五年目、佐々木。
成果は出すらしいが、私生活に問題がある。
主に女性関係のトラブルが多いと書かれていた。
面談室で向かい合うと、佐々木はウワサとは違い、好青年らしくはきはきと答えた。
「支社長、よろしくおねがいします。」
俺は静かに頷いた。
二人目は、女。
佐藤さん。
同期の佐々木と折り合いが悪いらしい。
いや、一方的に佐々木が避けられているようだ。
面談では、落ち着いた口調で答える。
「業務に支障はありません。ただ・・・・佐々木さんとは、距離を置いています」
理由はなんとなく察しがつく。
同じ勤務地になったのも、きっとそれが理由だろう。
三人目は、入社三年目の女性、鈴木。
身だしなみが整っていて、話し方も落ち着いている。
仕事ぶりも、今のところ問題はない。
「よろしくお願いします、支社長」
丁寧に頭を下げる。
俺は小さく頷いた。
問題が起きなければいいが。
業務内容は、東北の土地を対象にした事業計画。
現時点では、書類仕事がほとんどだ。
上からは、
「時期が来るまでは、無理に動かなくていい」
とだけ言われている。
その言葉が、少しだけ引っかかっていた。
顔合わせのミーティング。
早速、佐々木が口を開き、俺にマウントを取りに来た。
「支社長、本社では失敗係って呼ばれてたんすよね。どうやってここまで来たんすか。どうせ九条常務の推薦でしょ?」
俺は苦笑して、
「そうだよ。失敗をたくさんした。だから、君たちにも失敗せずに済む方法や、失敗してしまったときのリカバリは、自信を持って教えられるぞ」
そう答えると、佐々木の笑みが、一瞬凍りついた。
「・・・・へえ」
それ以上、佐々木は黙り込んでしまった。
隣の佐藤さんはそんな佐々木を見て、ニヤニヤと笑っている。
鈴木はそんな二人を興味なさげに見ていた。
——ご主人様。今の返し、満点でございます。
業務一日目。
午後、部長の高橋さんが突然訪れた。
「気になって来たんだけど・・・・うまくやれそう?」
心配そうな顔。
俺は笑って、
「まだ初日ですよ」
高橋さんは頷きながら、支社の様子を眺める。
佐々木が、高橋さんのルックスに釘付けになった。
高橋さんが帰った後、しばらく俺にまとわりついて、
「支社長、あの部長さん、独身なんすか?連絡先とか・・・・」
俺はため息をついて、
「仕事に集中しろ」
と注意した。
夕方、そろそろ帰ろうかと思った時。
ドアが開き、今度は九条常務が入ってきた。
鈴木がチラリと見る。
その視線だけが、妙に落ち着いていた。
ヒールの音が、オフィスに響く。
「ここは将来、重要なポジションになるから」
と九条べにがキリッとした顔で言う。
がすぐさま、俺に近づき、
「大丈夫?問題はない?」
と心配そうな表情を向ける。
俺はまたもや苦笑した。
「まだ初日が終わってないんですけど・・・・」
彼女は上目遣いで
「ごめんなさい。本当はあなたに会いたくて来たの」
佐々木は、呆然自失で呟く。
「あんな上玉、見たことない・・・・」
すると、鈴木が小声で、
「あんたなんかには無理よ」
とボソッと言ったのを、俺は聞こえてしまった。
佐々木は気づかず、興奮したまま。
九条常務は、俺だけを見て、
「何かあったら、すぐに連絡して」
そう言い残して去っていった。
オフィスに残った三人。
佐々木はまだ放心状態。
佐藤さんも驚いた表情のまま。
鈴木はため息をつき、
「支社長・・・・お疲れ様です」
とだけ言って、自分のデスクに戻った。
俺は窓の外を見る。
空は、静かに暮れ始めていた。
前途不安だな。
——ご主人様。
エクレアの声が、優しく響く。
——新しい職場でも、わたくしがお側にいますわ。
俺は小さく息を吐いた。
癖のある部下たち。
そして、訪れる上司たち。
やれやれ、なんだか先が思いやられる。
エクレアがいてくれて心強いよ。




