第9話 新しい一歩の食卓
その夜、俺の家では昇進パーティーが開かれていた。
早乙女さんと、高橋さんが準備してくれた。
リビングのテーブルには、手作りの料理が並ぶ。
ローストビーフ、サラダ、デザートまで。
二人が、俺の左右に座り、甲斐甲斐しく給仕してくれる。
肉を切り分けたり、サラダを盛り、交互に食べさせてくれる。
俺は気恥ずかしさに耐えながら、二人の差しだされるまま料理を食べていた。
「前に話したとおり、しばらく夜の面倒はあなたに任せるわね」
高橋さんが、分厚いステーキを小口サイズに切り分けながら言った。
早乙女さんが、頷く。
「はい。お任せください。昼間は勉強、頑張ります」
俺は箸を止めた。
「勉強?」
早乙女さんが、少しはにかんで笑う。
「九条さんにも、ずいぶんお世話になりましたし・・・・私、医療事務の資格を取ろうかと思いまして」
高橋さんが、フォローするように続ける。
「ふふ。私が講座やセミナーの情報を教えてあげたの」
「それに、早乙女さんの年齢でも受けられる奨学金は、九条さんが紹介してくれたわ」
「俺の知らないところで話が進んでる・・・・」
俺は驚くも、早乙女さんが、頰を赤らめて、
「いつまでもコンビニだと不安定ですし・・・・。ちゃんと資格を取って、もっとあなたのお役に立ちたいんです」
俺は胸が熱くなった。
二人が、俺のために。
それに、九条さん・・・・九条常務、いつの間にか早乙女さんに将来を見越した道筋を示している。
なんて視野の広い人なんだ。
けど、いつの間に早乙女さんと知り合ったんだ?
早乙女さんと九条常務の関係に驚いている俺に、二人は何も言わなくても、左右から交互に料理を食べさせてくれる。
高橋さんが、フォークで一口を差し出す。
「はい、あーん」
早乙女さんが、次にスプーンで。
「これ、味が濃過ぎないように作りました」
俺は素直に口を開けた。
うまい。
温かい。
孤独だった部屋が、笑顔で満ちている。
——ご主人様。
エクレアの声が、静かに響く。
——おめでとうございます。新しい一歩ですわ。
俺は、二人の女性に囲まれながら、小さく頷いた。
これから、支社長として。
でも、俺の側には、いつも彼女たちがいる。
——すべては、ご主人様の意思のままに。




