第6話 「神は、すでに降りておられます」
そのころの、九条べに。
九条家は、ただの財閥ではなかった。
九条本家の奥座敷で、彼女は静かに座っていた。
今、彼女には後継者争いの最終試験が次々と課せられている。
元々、彼女は優秀だった。
東大首席、MBA取得、常務就任。
だが、今の彼女はそれ以上の能力を持つことになった。
エクレアとのつながりによって、わずかに扱えるようになった「魔力」という超常的な力。
この世界にはない力。
わずかな魔力の流れを操るだけで、判断が鋭くなり、交渉がスムーズになり、疲労が激減した。
試験はすべてパス。
そして、ついに。
九条家の当主が、べにを呼び出した。
「べに。お前が筆頭後継者だ」
重々しい声。
「これから、一宮、二階堂、近宮、鷹宮の四家の当主が集まる。そこで認められれば、お前はこの五家をまとめる宗家の当主となる」
べには静かに頷いた。
幼い頃から繰り返し聞かされた話。
はるか千年以上前。
九条家を含む五家の元祖となる四兄弟が、お家繁栄のための呪い(まじない)をこの国に対してかけた。
呪い(まじない)は成功し、千年以上の繁栄をもたらした。
が、四兄弟たちは呪い返しを受けて死んだという。
「呪いなんて、あるはずがない。その四兄弟は疫病でたまたま死んだのだ」
子供の頃のべには、そう考えた。
”合理的”な考えをもち、呪いという非科学的なものを信じられなかったのだ。
だが、今は違う。
エクレアという存在がいる。
異世界から渡ってきた女神。
魔力という力。
呪いぐらい、あってしかるべきだろう。
当主の言葉が続く。
「宗家の当主となるには、呪いの話を引き継がねばならん。他言無用だ」
座敷の襖が開き、四家の当主が入ってきた。
中でも、鷹宮家の当主は特別だった。
めったに顔を見せない。
呪いの部分を担当する家だからだ。
鷹宮家当主は、古びた巻物を広げた。
「この鷹宮家は、古来より異世界から神を召喚する儀式を研究しておった」
長い歴史。
何世紀にもわたる試み。
「だが、長年研究した結果・・・・失敗じゃ。水の泡じゃ」
当主の声が、低く響く。
「明らかに成功しておるはずの儀式なのに、神が降りてこぬ」
べには、静かに息を吐いた。
彼女の瞳が、わずかに輝く。
(この気配、よく知っているわ。これ、魔力の残り香よね?)
儀式は、成功した。
しかし、神は降りてこないという。
(まさか・・・・神って)
べには、心の中で微笑んだ。
「神は、すでに降りておられます」
小さな声で呟く。
四家の当主たちが、息を飲む。
鷹宮家当主だけは、目を細め、
「そう言うならば・・・・その証拠をもってこい。それができれば文句なしでそなたが当主じゃ」
巻物が、静かに閉じられる。
べには、深く頭を下げた。
千年以上の呪いと、繁栄の果てに、彼女の献身は、始まろうとしていた。




