58.それぞれにできること
三神隊長一人では長くはもたない。
誰かが加勢に行かなくては、しかし、長月さんと五十嵐さんの二人でもう片方の植物UMAを相手している。
(山方小隊長よりもダメージの少ない俺が加勢に行かないと)
そう思うものの、体は思うように動かず、アスファルトの上でただ様子を見ることしかできなかった。
その様子を見ていた長月さんが五十嵐さんに指示を出した。
「五十嵐!こっちは私に任せて加勢に行け!」
五十嵐さんは迷うことなく長月さんの指示に従った。
(五十嵐さんは長月さんの実力を信頼しているんだ)
長月さんなら一人でもある程度時間を稼げると判断したのだろう。
五十嵐さんは三神隊長の方へと加勢に入る。
そして五十嵐が加勢したことで、抑制弾の効き目が出るまで防御態勢で耐える。
「すまないな、2分耐えてくれ。そしたら今度はこちらから仕掛けるぞ!」
三神隊長が攻勢に転じる機会を伺う。
二分間敵の攻撃を耐えることは、五十嵐さんなら問題ないだろう。
問題はどうやって倒すかだった。
五十嵐さんの武器は大剣のため攻撃速度は遅く手数も少ない。
敵は手数が多く受け流されてしまう。
それに、長月さんも一人で押さえ込まなければならない。
(戦闘が長引けば長月さんがもたなくなる。でも、五十嵐さんはこの敵と相性が悪すぎる)
短いようで長い二分が経過した。
「よし、五十嵐。攻勢に転じるぞ!」
すでに三神隊長はボロボロの状態だった。
五十嵐さんのおかげでなんとか凌げたに過ぎない、そんな状態でどうやって勝つのか。
(俺も行かなくちゃ!)
しかし、植物UMAに殴られた箇所は、先端が鋭い枝による太い腕での一突きで、俺の体を貫通し腹部を貫いていた。
「無茶するんじゃねぇ、一ノ瀬」
同じようにアスファルトに横たわっている山方小隊長が、俺が立ちあがろうとしている様子を見て制止した。
「俺の腹も貫かれてるから、よーくわかるぜ。とても戦える状態じゃねぇ。あいつらを信じて見守れ、それが今の俺たちの戦いだ」
「山方さん……」
(悔しい!気持ちではまだ戦えるのに……体力も残っているのに……力が、負傷のせいで、力だけが出ない!スーツの重さ、武器の重さもあってろくに動くこともできない。こんな残酷な戦いをしなくちゃいけないのか!)
仲間を信じて戦うことは今までやってきた。
しかしそれは、自分も戦うという前提でのことだった。
自分は見てるだけで、仲間に全てを託して見守る、そんな戦いがあることを俺はこの時初めて知った。
(これが、仲間を信じて託す、戦い……)
三神隊長が攻撃担当、五十嵐さんが防御担当をしているが、敵は攻撃を受け流してカウンターをしてくる。
五十嵐さんではそのカウンターを防ぐことはできない。
三神隊長自身で対処し切り抜けなければならない。
(あんなにボロボロの三神隊長では、長くはもたない。俺や山方さんと同じ目に合ってしまう!)
俺と同じことを思ったのか、五十嵐さんが突如咆哮した。
五十嵐は持っていた大剣を真っ二つに裂いた。
(何が起きているんだ!?)
普段の大剣とは違い、長く鋭い二刀の剣となっていた。
「俺がやるぜ三神隊長!!あとは俺に任せてくれ!!」
三神隊長を体で押し退けて前へと出る五十嵐さん。
二刀のロングソード、言うならば、デュアルブレードを手に五十嵐さんが植物UMAへと斬りかかる。
二刀となったことで手数が倍に増え、重さも分散されて動きも格段に速くなっていた。
(五十嵐さん、こんなに素早く戦えたんだ)
普段の五十嵐さんは大剣で戦っていて、とても速いとは言えなかった。
しかし、今は違う。
猛スピードで二刀を扱い、植物UMAの枝を切り落としていく。
一刀を枝で受けてももう一刀の攻撃が来る。
その攻撃の受けが遅れて切り落とされる。
威力は十分だった。
ロングソードのため間合いもある程度確保している。
敵のカウンターが命中する前に、五十嵐さんは回避していた。
(すごい!一人で相手をしている。相性が悪かった相手だったけど、今は違う。むしろ相性は良くなった!)
三神隊長は、今が好機と見て五十嵐さんに加勢する。
「五十嵐、一気に決めるぞ!」
「了解!」
三神隊長が間合いを詰めて攻撃を仕掛ける。
敵が三神隊長の攻撃を受けようとしたところを、五十嵐さんが薙ぎ払った。
植物UMAが受けようとした枝が切り落とされ、三神隊長の斬撃が直撃した。
両断。
植物UMAの体は真っ二つになった。
「やったか!?」
山方小隊長が苦悶の表情を浮かべながら、期待のこもった声色で言った。
しばらくの静寂の後、植物UMAは動かなくなった。
「対象、討伐完了。長月に加勢する」
三神隊長が討伐報告をした。
(やった!倒したんだ、あの敵を!いける、これならもう一体も!)
しかし、そう簡単なものではなかった。
長月さんが植物UMAの前で膝をついていた。
「長月!?」
山方小隊長が叫んだことで、全員が長月さんの状態に気づいたのだ。
(あの長月さんですら、一人では対応しきれない相手……まずい!)
三神隊長が猛スピードで長月さんの元へ走る。
植物UMAの鋭い突きが長月さんを襲う。
しかし、間一髪、三神隊長がこれを防いだ。
「無事か長月!?」
「はい、なんとか」
長月さんもカウンターを受けたのか、腹部から血を流していた。
「五十嵐、手を貸せ!もう一度二人で倒すぞ」
三神隊長が五十嵐さんへ呼びかける。
しかし、こっちの個体にはまだ抑制弾を打ち込んですらいない。
奴を抑えて、抑制弾を打ち込むところからやらなければならないのだ。
(抑制弾を打ち込むために押さえ込んで、また二分待たないといけないのか!?そもそも、どうやって抑え込む!?俺と山方さんは戦える状態にない)
俺の考えていたことを知ってか知らずか、山方小隊長が三神隊長に提案する。
「おい三神!五十嵐と二人でそいつを串刺しにして抑え込め!俺がここから抑制弾を打ち込む!」
山方小隊長は吹き飛ばされて、敵とだいぶ距離が開いている。
加えてまともに力が出ず、スーツの重さで動くこともできない状態、それで植物UMAをリボルバーで狙い撃つと言うのだ。
(無茶だ!この距離、ただでさえ離れていて狙うのは大変なのに、今の山方さんの状態で撃てるはずがない)
俺はとてもじゃないが無理だと思った。
さっき山方小隊長が言ったように、自分の状態から山方小隊長の状態も想像がつく。
まともに動けるはずがないのだ。
リボルバーを構えて狙い撃つなんて、出来るはずがない。
「山方さん!無茶です、今の状態でそんな——」
「出来るかどうかじゃねぇ、やるしかねぇんだ。長月は、敵を前に膝をついて動かねぇ。それがどういうことかわかるか?あいつは俺たちより深手を負ってる。だったら、俺たちがやるしかねぇ!」
「そんな、長月さん…!」
「お前の射撃の腕は如月から聞いてるからな、期待はしてねぇ。俺がやる」
ここにきて、俺のノーコンな射撃の腕が山方小隊長のしわ寄せになるとは思いもやらなかった。
「ぐぅ、すみません山方さん…」
「やれる奴がやる、それだけのことだ。任せろ、俺を誰だと思ってんだ?小隊長の山方清四郎だ!!」
凄まじい覇気を放つ山方小隊長。
おそらく自分でも無茶であることはわかっているのだろう。
しかし、自分以外に今やれる者はいない。
自分に言い聞かせるように言っているようにも聞こえた。
俺は山方小隊長の方へと這い寄った。
山方小隊長は足に付けているホルスターからリボルバーを取り出す。
「山方さん、そのリボルバー、俺の身体に預けてください」
「あぁ……?」
「俺の射撃はノーコンですが、動かない銃座にならなれます! 俺の肩に銃を乗せて、照準を固定してください」
力が出ない状況で、狙いを定めて撃つのは難易度が高すぎる。
だが、照準さえ固定できれば、格段に難易度は下がる。
俺は山方小隊長に銃座として俺の体を使うよう申し出た。
すると、山方小隊長の口元が緩んだ。
「お前、よくそんなことを思いついたなぁ。採用するぜ、その提案!」
山方小隊長は這い寄った俺の肩に、持っているリボルバーを乗せた。
「いいか、流れはこうだ。三神と五十嵐が奴を串刺しにして、奴が動きを止めたら狙い撃つ。やることはシンプルだ」
「はい!」
三神隊長が敵の攻撃を惹きつけつつ、適度に攻撃を仕掛けて敵のカウンターを誘発している。
五十嵐さんが隙をつくように攻撃を仕掛けながら、敵のカウンターを防いでいる。
今はまだ植物UMAを不用意に攻撃できない。
隙を作るための攻撃をしつつ、敵の攻撃を防ぐことに集中している。
そして、しばらくの攻防の末五十嵐さんが植物UMAを突き刺した。
「よし、畳み掛けるぞ!」
三神隊長も串刺しにしたが、その時——。
ドスッ!
植物UMAの一本の枝が、三神隊長の腹部を鋭く突き刺した。
「ぐはっ!」
しかし、突き刺した剣を離さず、敵の体をその場に固定している。
「そこだな!……照準を合わせた、撃つぜ一ノ瀬!」
三神隊長が腹部を刺されているが、山方小隊長は微塵も動揺していなかった。
(みんな、覚悟が決まっているんだ)
俺は、三神隊長が腹部を刺されても剣を離さない覚悟、自分の提案で仲間が刺されても動揺を見せない山方小隊長の覚悟を感じた。
狙いを定めた山方小隊長が、抑制弾を撃つ。
しかし、弾丸は発射されなかった。
「……山方さん?」
「すまねぇ……力が入らなくて、撃鉄を引けねぇ」
山方小隊長にはもう、撃鉄を引く力すら残されていなかった。
すかさず俺は自分の手を山方小隊長の手に重ねる。
「俺も一緒に引きます!」
「……っ!あぁ、頼むぜ一ノ瀬」
山方小隊長と共に撃鉄を引く。
「よし、引けたぞ!後は引き金だ、力を貸せ一ノ瀬!」
「はい!」
さらに、引き金を共に引く。
ドンッ!
弾丸は植物UMAに命中した。
「もう1発だ!」
「はい!」
ドンッ!
さらに、次弾も命中。
「全弾撃ち込むぞ!」
「はい!」
ドンッ!
これも命中。
「ぐっ、まだだ。まだ撃たなきゃならねぇんだ!」
徐々に力を失っていき、撃鉄を引くことも、引き金を引くことも困難になってきた。
それでも、俺と山方小隊長は力を合わせて引いた。
ドンッ!
四発命中。
ついに最後の一発まできた。
「次がラストだ、やり切るぞ!」
「はい!」
山方小隊長の手が、指が震えている。
もう力を込めるのも難しいのだろう。
俺は山方小隊長に手を重ね、指を重ね、共に撃鉄を引く。
カチッ
「最後まで、やり切りましょう!山方さん!」
そして、今出せるありったけの力を込めて引き金を引いた。
ドンッ!
植物UMAへ全弾命中させることができた。
「長月と三神がここまで耐えて作ったチャンス、無駄にはしなかったぜ!」
力の抜けた山方小隊長の腕がだらんと垂れて、リボルバーがアスファルトに落ちた。
三神隊長は、全弾命中したことがわかると、剣を抜いて距離を取った。
腹部から激しい出血、俺たち同様もう戦える状態にないかもしれない。
長月さんは敵の前で膝をついたまま動かない。
戦えるのはもう、五十嵐さんしか残っていなかった。




