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55.現在のキズと過去のキズ



 ガイアへ帰還した後、俺は十条さんを探していた。


 今回の戦いで、俺は改めて思った。


 仲間の武器を知れば、その人の戦い方を理解できる。


 真二の斧槍を使えたことで、それを実感した。


(九十九さんのワイヤーは無理でも、十条さんの蛇腹鋸なら再現できるかもしれない)


 俺は十条さんを見つけた。


「十条さん」


 俺の声に振り返る十条さん。


「何?」


「少し聞きたいことがあるんですけど」


 十条さんが俺を見る。


「蛇腹鋸について――」


「……何?」


 十条さんの声が冷たくなる。


「もう任務は終わったけど、まだ私に何か用?」


「いや……その……」


 俺は言葉に詰まった。


「武器について少し聞きたくて……」


「……」


 十条さんは俺を見つめる。


「悪いけど、今はそういう気分じゃない」


 それだけ言って、十条さんは歩いていった。


「……」


 俺はその背中を見送った。


 やっぱり、駄目だった。


(どうして、あそこまで人を拒絶するんだろう)


 俺は以前、三神隊長から聞いた言葉を思い出した。


 十条さんには、母親に関する過去がある。


 それが原因で人を避けるようになった、と。


(……本人に聞くのは、やめた方がいいな)


 でも、知りたい。


 十条さんがどうして蛇腹鋸を武器に選んだのか。


 なぜ、人をそこまで拒絶するのか。


 俺は少し考えた。


 そして――。


(本人に聞けないなら、別の人に聞いてみよう)


 向かったのは、死体処理部隊の区画だった。


 そこには十条さんの父親、死体処理部隊副隊長の十条三弦さんがいるはずだ。


 しかし、俺は十条副隊長が普段どこにいるのか知らない。


「すみません、影浦さんいますか?」


 俺が訪れたのは、普段影浦さんがいる武器の修理開発室だ。


 影浦さんに、十条副隊長が普段どこにいるのか聞こうと思った。


 しかし、姿を現したのは俺が探していた十条副隊長だった。


「ん?君は討伐部隊の」


 武器の部品を整理していた十条副隊長が顔を上げた。


「影浦隊長なら、繭の調査で研究室に籠りっきりだよ」


「あっ、どうも、一ノ瀬タクマです。あのー、実は用があったのは十条さんで。少し、十条琴音さんのことでお話を聞きたくて……」


 それを聞いて十条副隊長が手を止めた。


「娘がどうした?」


「十条さん、その……娘さんのことで、少し聞きたいことがあります」


 十条副隊長の表情が変わった。


「……何が知りたい」


 俺は少し迷ってから口を開いた。


「どうして、十条さんはあんなに人を拒絶するんでしょうか」


 十条副隊長はしばらく黙っていた。


 そして、静かに話し始めた。


「母親を目の前でUMAに殺されてからだ」


「……」


「それ以来、あの子は心を閉ざすようになった」


 俺は黙って聞いていた。


「人と関わることを避けるようになってしまってね」


「それが……今も?」


「あぁ」


 十条副隊長は小さく息を吐いた。


「最初は、ただ人と距離を置いていただけだった」


「……」


「だが、それが少しずつ悪化していった」


 十条副隊長が目を伏せて続ける。


「今では必要がなければ人と関わろうとしない。いや、それどころか、誰かが近づけば拒絶するようになった」


「……そうだったんですか」


「あの子にとって、人と関わることは怖いことなんだと思う」


 俺は何も言えなかった。


 十条さんの今までの行動を振り返った。


 自分から誰かに近づくことはない。


 必要なことだけを話す。


 誰かが近づいてくれば、距離を取る。


 それは、単なる性格じゃなかった。


 過去に受けた傷から、自分を守るために身につけたものだったのだろう。


「……ありがとうございます」


「娘に……何かあったのか?」


「いえ……」


 俺は首を横に振った。


「ただ、十条さんのことをもっと知ろうと思って」


「そうか」


 十条副隊長は、それ以上何も言わなかった。


 俺は死体処理部隊の区画を後にした。


 廊下を歩きながら、俺は考えていた。


 十条さんは、人を拒絶している。


 でも、それは誰かを嫌っているからじゃない。


 相手を傷つけたいわけでもない。


 きっと――。


 自分が傷つかないようにしているんだ。


(……今は、そっとしておいた方がいいな)


 無理に近づいても、きっと十条さんは心を閉ざすばかり。


 俺が知りたいからといって、踏み込んでいい領域じゃない。


 いつか、十条さん自身が話してくれる時が来るかもしれない。


 その時まで待とう、俺はそう決めた。


 そして――。


 右腕を見る。


 再現できる武器は、まだ他にもある。


 でも、武器だけを知ればいいわけじゃない。


 その武器を使う人が、何を想っているのか。


 何を背負っているのか。


 それを知らなければ、本当の意味でその人の力を継承することはできない。


(もっと仲間を理解するんだ)




 数日間、俺は討伐メンバーの武器を再現して訓練していた。


(カメレオンUMAに俺たち三人はなす術なくやられた。九十九さんがいなければ死んでいた……)


 俺は今よりもっと強くなるため、そしてどんな状況にも対応できるように、討伐メンバーの武器を再現する練習をした。


 再現しても使いこなせない武器、そして、そもそも再現できない武器があった。


「斧槍と大鎌はだいぶ使いこなせている自信があるけど、他の武器はまだまだだな……」


 大剣と鎖はそれなりに扱えるようになってきた。


 しかし、斧と双剣や片手剣、そして刀はまだうまく扱えなかった。


 そして、蛇腹鋸とワイヤーに関しては再現することすらできなかった。




 また、UMA討伐のためにブリーフィングルームに集まることになった。


 俺はカメレオンUMAに全滅させられた時のことを思い出していた。


(また、あの時みたいにやられるかもしれない)


 そんな俺の想いをよそに三神隊長の話が始まった。


 モニターに映し出されたのはクモUMAだった。


「市街地であちこちにクモの糸を張って暴れている。こいつの討伐だが――。」


「ちょっといいか、三神」


 三神隊長の話を遮るように山方小隊長が口をはさんだ。


「どうした?」


「俺たちは前回のコウモリUMA討伐の時、討伐直後に別のカメレオンのUMAに襲われた。俺も十条も一ノ瀬もやられた。討伐したのは九十九だ。だが、そのせいで……九十九は別の恐怖を抱えちまって、完全に戦える状態じゃなくなっちまった。もう、三人での討伐には無理がある!」


 山方小隊長は俺も思っていたことを三神隊長に話した。


「そうか……奴らの成長が著しいな。了解した。では、今回から二班に分かれて討伐を行う。五人ずつに分かれて討伐だ」


(五人か、それならまだ安心できる。三人だと、一人が倒れたら連携が一気に厳しくなる)


「まず、長月班。長月、山方、五十嵐、十条、真二の五人で森林地帯へ向かってくれ」


「了解」


「残りのメンバー、桜木、如月、清乃女、一ノ瀬は俺と出撃する。市街地のクモUMAの討伐へ向かうぞ」


(三神隊長も出撃!?ずっと三班の状況確認やメンバー決め、UMAへの対抗策などをここで指揮してきたのに、現場で二班を指揮するのか!?)


 三神隊長がUMA討伐で出撃することになった。


 二班で別れて討伐するとなると、三神隊長も出撃するしかなかったのだろう。


(でも、隊長も戦う上に五人なら心強い)


 俺たちは、クモUMAの討伐に向けて市街地へ向かった。



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