52.斧槍の継承
次のUMAを討伐するためにガイアのブリーフィングルームへと集まった。
俺たち討伐班は、三班に分かれて討伐任務に就いている。
正面のモニターに、俺たち桜木班が討伐するUMAの情報が表示された。
「今回の討伐対象はカニ型UMA。生息地は湖畔山麓の森林地帯だ」
三神隊長が説明を続ける。
「体長は約三メートル。巨大な二本の鋏を持っている。甲殻は硬く、正面からの攻撃は通りにくい。鋏による攻撃力も高いだろう、注意してくれ」
俺はモニターを見つめた。
巨大なカニ。
左右に大きな鋏を持ち、全身を硬い甲殻で覆っている。
三神隊長から討伐目標のUMAについての情報説明が終わり、出撃することになった。
しかし、俺はここ最近ずっと思っていたが、言ってはいけないような気がしていて聞けなかったことを聞いた。
「三神隊長。その……九十九さんを最近見かけないんですが、どうしたんですか?」
三神さんが静かに答えた。
「UMAと、戦いたくないそうだ」
「え?」
「九十九は、UMAが元々人間だったことを知ったことで、自分の手でUMAを討伐することに抵抗を感じている」
「……」
俺は何も言えなかった。
俺だって、最初にその事実を知った時は衝撃を受けた。
でも、それでも戦わなければならない。
そう思っていた。
「でも、今は人手が足りねぇ」
山方小隊長が口を開いた。
「九十九を完全に戦線から外すのは厳しいだろう。戦闘が無理なら、後方支援だけでもいい。飛空船からの支援をさせるべきだ」
「そうだな、山方の言うとおりだ」
どこか気乗りしない表情で三神隊長が頷く。
「今回の任務が終わったら、九十九と話してみる」
山方小隊長が目で何か三神隊長に訴えている、そんな気がした。
「では、各班出撃準備を」
三神隊長の言葉で、三班が出撃準備に入った。
俺は桜木さんと真二とともに、湖畔山麓へ到着した。
今回の戦場は、木々こそ多いものの、戦闘する場所は開けている。
俺は右腕を見る。
そこには、再現した斧槍があった。
(今日は、この武器で戦う)
真二の斧槍。
でも、俺は真二と同じように戦うつもりはなかった。
(長月さんから教えられた、『技や技術というのは、想いが形となったものだ』。俺は真二の想いを知った。そして、それを俺なりに落とし込んで使うんだ)
俺は真二から、斧槍に求めているものを聞いた。
隙の少なさ、状況への対応力。
なら、俺はそれを俺自身の戦い方に組み込む。
「来るぞ!」
真二の声が響いた。
地面が揺れる。
木々の向こうから、巨大なカニUMAが姿を現した。
「でかいねー!」
桜木さんが斧を構える。
カニUMAが左右の鋏を大きく開いた。
「行くぞ!」
真二が真っ先に飛び出す。
斧槍を構え、鋭く突き出した。
カニUMAが鋏を振り下ろす。
斧槍は硬い鋏に弾かれた。
それを見て真二がすぐに斧槍を引いて鋏を回避した。
そして、今度は斧の刃を振り抜く。
――ガキィン!
甲殻と刃がぶつかった。
「硬ぇ!」
真二が後退して距離をとる。
俺は斧槍を構えて、真二と入れ替わるように攻撃を仕掛けた。
カニUMAがもう一方の鋏を振り回し、鋏が迫ってきた。
俺は斧槍で軌道をずらすように鋏を受け流した。
そのまま斜めに踏み込み、間合いを詰めながら鋏をやり過ごした。
そして、そのまま鋏の付け根の関節部分を狙って斧槍を突き出した。
――ガキンッ!
しかし、比較的脆い関節部でも弾かれてしまった。
(やっぱり硬い。正面から攻撃しても、大きなダメージにならない)
その様子を見ていた桜木さんが、ガンスリングに手をかけて散弾銃を左手に握った。
「アンタたち、しばらく回避に専念しな」
桜木さんは一人でカニUMAに距離を詰めていった。
(桜木さん、いったい何をする気だ?)
俺は言われた通り間合いを取って回避に専念した。
桜木さんはカニUMA の攻撃をさばきながら、あの硬い甲殻に散弾を何発も浴びせていた。
とてもダメージがあるようには見えなかった。
(いったい何をしているんだ?)
何が目的かわからないまましばらく様子を見ていた。
すると、カニUMAの甲殻が次第にドロドロと溶け始めているように見えた。
「桜木さん、これなんですか!?」
「名付けて、結合破壊弾!ってとこかな。三神にUMA細胞の結合を弱める弾丸を医療班に作ってもらうように依頼してたんだよ。アルマジロ相手の時に既に完成していたら、もっと楽に倒せたんだけどねー」
(あの時無線で三神隊長に言っていたアレって、これのことだったのか)
どうやらこれで、カニUMAの異常に硬い甲殻を作るUMA細胞の結合を弱めることで、攻撃が通るように突破口を作れたみたいだ。
「元よりはだいぶ装甲は落ちてるはずだけど、過信するんじゃないよ!」
桜木さんが釘を刺す。
(どのくらい柔らかくなったかがわからない以上、攻撃が弾かれない前提で攻めるべきじゃないな。まずは確かめるところからだ)
俺は斧槍を構えて素早く突きを繰り出す。
カニUMAは鋏で攻撃を防ぐが、さっきのように弾かれたりはしなかった。
(攻撃が完全に通るほどじゃないけど弾かれなくなった。これなら戦える)
俺と真二は左右に分かれて突きと斬撃を繰り出した。
カニUMAが左右からの攻撃に対応できずに一瞬だけ体勢を崩した。
(まだだ)
俺は突きを繰り出したまま無理に追撃はしなかった。
(今、無理にパイルバンカーを撃ちに行っても甲殻に阻まれる。斧槍じゃ大したダメージにならない。大きな隙が生まれるまでは……)
カニUMAは鋏による攻撃で応戦してくる。
(攻撃の瞬間だけ関節部がガラ空きになって身体が前へ出ている。その瞬間を狙えば……)
俺はカニUMAが攻撃してくるときにできる隙を狙うことにした。
俺は斧槍による突きを止めなかった。
そして、カニUMAが鋏を振りかざして迫ってくる。
俺は避けようとはしなかった。
「タクマ、下がれ!」
真二が叫ぶ。
「いや――!」
俺は斧槍を構えた。
「ここだ!」
鋏が振り下ろされる。
(今だ!)
推進機構を起動した。
振り下ろされる鋏を俺は斧槍で受け流した。
鋏を受け流しながら推進機構で間合いを詰める。
そして――。
「うおおおおっ!」
左腕のパイルバンカーを、ガラ空きになった関節部に叩き込むように構えた。
「これで――!」
カニUMAがもう片方の鋏を振り上げる。
だが、もう遅い。
「決める!」
パイルバンカーを撃ち込んだ。
ドッガアアァァァァンッッッ!!
カニUMAの巨体が大きく揺れた。
「やったな、タクマ!」
真二が叫ぶ。
俺はすぐに距離を取った。
(無理に斧槍で倒す必要はない)
斧槍は、俺にとって敵を倒すための武器じゃなくていい。
パイルバンカーを当てるための補助武器だ。
中距離から攻撃して、敵の動きを見る。
隙ができた瞬間に、一気に間合いを詰める。
それが今の俺の斧槍の使い方だ。
「よそ見するな!」
桜木さんが叫んだと同時に、斧を振り上げて突っ込む。
カニUMAが立ち上がろうとしていた。
だが、さっきのパイルバンカーで動きが鈍っている。
桜木さんが一気に踏み込む。
「――てぇぇぇいっ!」
斧が振り下ろされた。
――ガァンッ!
カニUMAが鋏で防いだ。
しかし、結合破壊弾で装甲が脆くなっていた鋏は砕け散った。
「まだだ!」
桜木さんがさらに踏み込む。
斧を下から上へと大きく振り抜く。
砕けた鋏が斬り飛ばされた。
もう片方の鋏が桜木さんを襲い、桜木さんは後退した。
カニUMAは残った鋏を振り回し、俺たちを威嚇する。
「真二!」
「任せろ!」
斧槍を構えて真二が駆け出す。
カニUMAが残った鋏で牽制する。
真二は攻撃をかわしながら、一気に懐へ入った。
「そこだ!」
斧槍の穂先が、鋏の関節へ突き込まれる。
カニUMAが大きく身体を揺らした。
真二は斧槍を引く。
そして、もう一度。
「うおおおっ!」
関節へ正確に突き込む。
カニUMAの鋏が力を失った。
突き刺した斧槍を、そのまま横へ薙ぎ払う。
わずかに鋏は繋がっていたが、もうカニUMAは鋏をまともに使えない。
(今なら――)
桜木さんが切断した傷。
そこから、脆い体の内側が見えている。
俺は桜木さんが切り落とした鋏の方へ回り込んだ。
そして推進機構を起動。
「これで終わりだ!」
パイルバンカーを傷口へ向けて構える。
カニUMAは真二の斧槍に付いている鉤爪で突き刺されて拘束されていた。
(真二が逃げられないように鉤爪で抑えてくれてる。これなら!)
ドッガアアァァァァンッッッ!!
今度は体の内側に直接パイルバンカーを撃ち込んだ。
カニUMAが大きく身体を揺らす。
そして、その巨体がゆっくりと地面へ倒れて動きを止めた。
「……討伐完了」
俺は息を吐いた。
「やるなータクマ!」
真二が駆け寄ってくる。
「あそこからパイルバンカーにつなげるのか! すごかったぜ!」
真二が俺の肩を叩いた。
「見事に決まったじゃねーか、このこの!」
「痛いって、真二!」
俺は笑いながら真二の手を払う。
「初実戦でここまで斧槍を使いこなすなんてなー」
真二と俺がそんな話をしていると、桜木さんが斧を肩に担ぎながら近づいてきた。
「なんだい、前に鎖と斧を使った時なんか点でダメだったのに」
桜木さんがニヤニヤしながら茶化してくる。
「桜木さん、刀も全然使いこなせてませんでしたよ、タクマの奴」
真二が笑いながら余計なことを言う。
「そこまで言わなくても……」
俺は苦笑する。
「でも、今回はちゃんと使えてたな」
桜木さんが笑った。
「俺の武器をただ真似たんじゃなくて、自分の戦い方に合わせて使ってたな」
「……」
俺は右腕を見る。
俺はようやく、再現した武器を自分のものとして扱えた気がした。
真二の斧槍を、そのまま真似したわけじゃない。
真二が斧槍に求めていたものを知って、それを俺の戦い方に合わせた。
(もしかしたらそれが、技を、技術を、想いを継承するということなのかもしれない)
「俺、もっといろんな武器を使えるようになりたい。そうすれば、もっと仲間の戦い方を理解できるかもしれない」
「いいじゃねぇか」
真二が笑う。
「一緒に強くなろうぜ、タクマ!」
「ああ!」
俺も笑った。
俺はまだ、仲間たちのことを何も知らない。
でも――。
少しずつでいい。
その人が何を想って戦っているのかを知りたい。
そして、その想いを俺自身の力に変えていきたい。
そうすればきっと、俺はもっと強くなれる。
自分の戦い方で、自分の武器で。
俺はそう思いながら、仲間たちとともにガイアへ帰還した。




