48.攻防一体の敵
そして、UMA討伐遠征の日が来た。
「三班に分かれてUMA討伐へ向かってもらう。まず、市街地に長月、如月、清乃女の長月班。次に、平原に山方、十条、真二の山方班。最後に、山岳地帯に桜木、五十嵐、一ノ瀬の桜木班で向かってくれ」
発見したUMAに合わせて三神隊長が人選した。
しかし、三班それぞれの作戦を立てる余裕はないのだろう。
現場に行って各々で判断するしかないようだ。
(山方さんは正面から戦うことが多かったな。模擬戦でも結構そうだった、あまり作戦を立てて挑まない。対して桜木さんは現場で作戦を立てて挑むよな)
たった三人しかいないから大した作戦も立てられないだろう。
これからのUMA討伐はかなり厳しくなりそうな予感がした。
俺と五十嵐さん、そして桜木さんは飛空船に乗って山岳地帯を目指した。
桜木さんは以前散弾銃と斧で戦っていた。
今回も散弾銃をガンスリングで袈裟懸けして背負っている。
今回討伐するUMAはアルマジロUMAだ。
(甲殻で体は硬いことが予想できる。山岳で足場が悪いがそれは相手も同じ。手数で攻めれば隙ができるはず、そこを重量武器のこのメンバーで叩いて討伐という流れだろう)
飛空船で移動している間に、俺はあらかじめ戦闘シミュレーションをしていた。
「いたぞ、あそこだ。思った以上に図体がでかいな。………五十嵐負けてるぞ」
桜木さんが五十嵐さんの方を向いて茶化している。
「ちょっと桜木さん、さすがにUMAと比較されても勝てませんって」
五十嵐さんは困った表情で応えている。
「冗談はさておき。前回戦ったUMAよりも強い可能性があるから、気を引締めろよ野郎共!」
桜木さんは斧を高く掲げるが、背の低い桜木さんがやると何とも言えない絵面だった。
(これは……さっきと違って、きっとギャグじゃないんだろうな……)
五十嵐さんも苦笑いをしていたが、桜木さんに合わせて遅れて拳を掲げた。
俺も後に続いて拳を掲げる。
「よし、降下するぞ!もっと寄れ」
飛空船は徐々に降下していき、俺たち三人は山岳へと降り立った。
アルマジロUMAがこちらをにらみ、体をこちらへと向けた。
「全員でとにかく攻撃。だけど、あまり深追いするんじゃないよ。まずは敵の手の内を探る」
桜木さんの指示で俺たちは一斉に攻撃を仕掛けた。
五十嵐さんの水平斬り、俺のUMA化した右腕でのパンチ、桜木さんの斧による叩きつけ。
三人で連続で攻撃することでアルマジロUMAは回避が間に合わない。
アルマジロUMAは体を丸めて、体を覆う分厚く硬い甲殻で全身くまなく守った。
ガイィィィンッッ!! ガンッ! ドゴッ!
三人の攻撃をすべてその硬い外殻で防いだ。
(硬い!表面に傷をつけられてはいるけど、外殻が分厚い。このガードの上からじゃ、奴へのダメージはほとんどないぞ)
アルマジロUMAは丸まって攻撃を防いだ後、そのまま後退して転がって突進をしてきた。
ドンッ!
「うぉっ!」
五十嵐さんが吹き飛ばされてしまった。
傾斜が緩やかに続いた斜面。
足元には大小さまざまな岩が転がっている。
山岳地帯で足場が悪く、体勢を崩しやすい。
たとえ踏ん張ったとしても、斜面で滑ってしまい踏ん張りが効かなくなる。
(これは思った以上に厄介な場所だぞ)
俺は転がって五十嵐さんに突進し、止まったところを狙ってパイルバンカーを撃ち込んだ。
ドッガアアァァァァンッッッ!!
アルマジロUMAの外殻を突き刺した。
しかし分厚い外殻で本体にはほとんどダメージが無いようだった。
さらに、俺は反動に耐えるために踏ん張ったが、傾斜で滑ってしまい体勢を崩して転んでしまった。
ズザザザザザアァアァァーーッ! ドサッ!
アルマジロUMAはこちらの攻撃にひるむことなく、再度丸まって転がってくる。
転がっているところを、横から桜木さんが斧を振りかぶって斬りつける。
しかし——。
「何っ⁉」
——ガイィィィンッッ!!
硬い外殻と激しい回転に加えて、加速する突進によって桜木さんの斧は弾かれてしまった。
俺は咄嗟にフレームで防御した。
外骨格フレームで突進を受け止めて、右腕でフレームを支えた。
「ぐっは!」
ものすごい衝撃が体を襲う。
俺も五十嵐さんのように弾き飛ばされた。
(転がっている間は無敵か!?桜木さんの斧ですら通用しなかったぞ)
「無事か二人とも!!」
桜木さんがそばまで駆け付けた。
「はい、何とか」
「大丈夫です」
「奴が転がっている間はアタシの斧ですら弾かれた。奴の回転は止められない。だけど、奴の突進を利用するよ」
(桜木さんは何か策を思いついたようだ)
「この辺にはバカでかい岩がゴロゴロ転がってる。奴の突進する方向を誘導して岩にぶつけるよ」
「なるほど。じゃあ、奴さんと岩の間に陣取れば、突進で突っ込んできた時にまんまと岩に激突ってわけですね」
「あぁ、今はとにかく回避に専念するよ。その間に作戦を考える」
(……?その間に作戦を考えるって、これが作戦なんじゃ?)
俺は不思議に思ったが、とりあえず今は回避に専念することにした。
桜木さんの目論見通り、アルマジロUMAは俺たちに向かって転がって突進してきた。
それをかわす、これで作戦通り岩に激突する。
ドゴオォォォーーーッッン!!
岩に直撃した。しかし、まるで何事もなかったかのようにアルマジロUMAはピンピンしている。
(当たった衝撃でふらついたりしていない。全く気にしている様子もない。無傷だ)
一切こちらの攻撃が通用しない相手。
桜木さんの表情が険しい。
まだ突破口がつかめないようだ。
すると桜木さんはおもむろに無線に手を伸ばした。
「こちら桜木。三神、前に頼んだアレはまだか!?」
桜木さんの声に余裕は一切感じられなかった。。
『すまない。時間がかかっていて、まだ完成していない』
桜木さんはしばらく黙っていた。
少しの沈黙の後、短く覇気のない声で応えた。
「……………そうか」
通信が切られた。
桜木さんが三神隊長に何を頼んでいたのかは知らない。
しかし、この状況を打開する一手となるものだったのだろう。
(何か考えないと、何か!)
俺は必死に打開策を考えた。
(奴が回転しているときはこちらの攻撃はほぼ通用しないとみていい。だとしたら、まずは動きを止めればいい)
俺は奴を捕縛して動きを止めるため、鎖を再現した。
「桜木さん!俺に考えがあります!俺がこの鎖で奴の動きを止めます。その間に全力で攻撃してください!」
桜木さんは俺の右手に握られている鎖を驚いたように見ていた。
「アンタそんな能力持ってたの!?先に言いなさいよ!」
さっきまでの覇気の感じられなかった桜木さんと打って変わり、声に希望が戻ってきた。
「アタシが五十嵐の方へ敵を誘導する!敵が回転して突っ込もうとしてきたら、すかさず距離を詰めて動きを止めろ!一瞬でもいい、動きが止まったらアンタのその鎖で捕縛!その後は袋叩きにするよ!」
桜木さんにいつもの調子が戻ってきた。
(これならいける!)
鎖を回していつでも絡めとる準備をした。
「いくよ!」
桜木さんがアルマジロUMAに突っ込む。
素早く斧で攻撃を仕掛ける。
斧の斬撃を丸まって受け流した。
さらに尻尾を使って飛び跳ねた後、転がって桜木さんを襲う。
「今!」
桜木さんの合図で五十嵐さんが一気に間合いを詰める。
まだ転がり始めで勢いの乗っていない段階だったため、五十嵐さんは何とかその動きを押し留めた。
しかし、傾斜のある足場の悪いところで徐々に五十嵐さんが押されていく。
アルマジロUMAの動きが止まった一瞬、俺は五十嵐さんの体勢が崩れる前に鎖を飛ばして捕縛した。
(やったぞ!!これでこいつの動きを封じられる!)
捕縛できたと喜んだその時だった。
五十嵐さんはついに体勢を崩して倒れた。
アルマジロUMAは巻き付いた鎖をものともせずに、再度丸まって転がり始める。
「うわぁっ!」
ものすごい力で鎖が引っ張られる。
俺はそのまま引きずられた。
そして、捕縛したところを襲おうとしていた桜木さんに向かって突進する。
ドンッ!
「ぐふっ!」
桜木さんが吹っ飛び、俺も回転の激しさで放り出された。
ドズンッ!
「ぐはっ!」
(失敗した、まるで止められなかった)
俺たちは一度体勢を立て直して距離をとった。
アルマジロUMAがこちらを睨む。
「……一ノ瀬」
桜木さんが静かに俺の名前を呼んだ。
「はい?」
俺は桜木さんの顔を見た。
桜木さんはまっすぐアルマジロUMAを見ている。
その横顔からは、先ほどまでの絶望が完全に消えていた。
「今からアタシが言うことって、できるかい?」
(桜木さんは……何か思いついたようだ。一体、俺に何を頼むつもりなんだろう?)




