46.七本目の鎌
四本に増えたことで俺たちは身構えた。
(さっき拘束されたとき、山方さんが捕縛を緩めてくれていなかったら、俺はやられていたかもしれない)
カマキリUMAの攻撃の手数が倍に増えたことで俺たちは攻めあぐねていた。
山方小隊長の鎖による連撃をカマキリUMAは二本の鎌で悠々と対処する。
如月さんの狙撃は一本の鎌で防いでいる。
俺が間合いを詰めようとすれば鎌で攻撃され思うように近づけない。
(少し強引に距離を詰めるか)
俺は鎌による攻撃を回避しながら強引にかいくぐる。
すると、カマキリUMAは山方さんの鎖に対処していた一本の鎌を、俺への対処に切り替えてきた。
俺は鎌がまだ二本の段階で捕縛されてしまった。二本の鎌で対応されればまた捕縛されてしまう。
(くそ、無理はできないか)
山方小隊長の攻撃を二本の鎌で対応できなくなっても、素早い身のこなしで回避している。
無理に二本の鎌で対応しなくても、一本あれば対応できるようだ。
「まずいな、四本に増えたことでこっちの攻撃を完封されちまってる」
山方小隊長が焦りを見せ始めた。
(奴の鎌をフレームで防ぐんじゃなく、パイルバンカーを合わせることで鎌を一本粉砕できないか?)
鎌は細く鋭かった。それを素早く四本も振り回している。
(上手くパイルバンカーを合わせられるだろうか。失敗すれば数秒踏ん張って動けなくなる。この数秒はでかい!)
俺たち三人が攻めあぐねていると——。
ミキッ! メキメキッ! パキッ!
ブチブチブチ!
カマキリUMAの鎌がさらに脱皮をするようにして増えた。
さっきまで四本の前足で、四本の鎌を構えて攻撃を繰り出していた。
今は前足に6本の鎌を携えている。
「……………」
俺たちはその光景を目にして、誰一人言葉を発せずにいた。
おそらく、全員が同じことを感じて、同じことを思っただろう。
(こんなの…………勝てない)
6本の鎌を猛スピードで振り回して攻撃を仕掛けてくる。
「ぐはっ」
俺は避けきれずに攻撃を食らった。
ガイィン! ガイィィィンッッ!!
山方小隊長は鎖を自身の周りで振り回して防御に徹している。
カマキリUMAの鎌が6本に増えたことで、完全に防戦一方になってしまった。
カマキリUMAは6本の鎌を駆使し、素早く攻撃を繰り出し続ける。
俺たちは誰一人、まともに反撃することはできなかった。
(このままでは防戦一方でいずれやられてしまう。何とかしないと)
鎌の連撃をフレームで受け続けながら、攻撃手段を考えていた。
試しに俺は、 鎌による攻撃をフレームではじき、間合いを詰めようとした。
しかし、次の鎌が俺を襲う。
「ぐわっ」
(ダメだ、隙が無い。俺一人でこの攻撃を突破して、間合いを詰めるのは不可能だ)
その時俺は真一さんの言葉を思い返した。
『全部一人で背負い込もうとするな』
(そうだ、俺は一人じゃない。一人で戦っているんじゃない。俺には仲間がいる。 山方小隊長と如月さんがいるじゃないか。なんで俺は、一人で全部やろうと考えていたんだ)
そして気づけば、俺の右手には大鎌があった。
(いつの間に?)
何がきっかけで大鎌を再現できたのかはわからなかった。
だけどこれで、懐に潜るまで間合いを詰めなくても戦う手段を俺は手に入れた。
「山方さん!お願いがあります。奴の攻撃を一瞬、一瞬だけ俺に来ないようにしてください!」
俺はこの真一さんの大鎌で、逆転の道を切り開くことを決意した。
「お前その鎌はあいつの……あぁ、任せろ!俺が一瞬だけお前に時間を作ってやる。決めてこい!!」
「はい!」
無線のインカムから如月さんの声が聞こえてきた。
『タクマくん、私も援護するよー!』
「ありがとうございます、お願いします!」
カマキリUMAの激しい鎌による斬撃の嵐が続く。
俺と山方小隊長の動きを止めるだけじゃない。
ダメージを与える攻撃を繰り出しながら、如月さんの狙撃すら防いでいる。
6本の鎌による攻防をカマキリUMAは繰り出していた。
山方小隊長が一瞬だけこれらすべてを引き受ける。
普通なら不可能だ。
だけど俺は、任せろと言った山方小隊長を信じる。
その間に俺が奴を叩く!
「準備できたか一ノ瀬。いつでもいいぜ、てめぇが走りだしたら開始の合図だ」
俺はカマキリUMAの攻撃を受け続け、間合いを詰めるタイミングを見計らった。
カマキリUMAの攻撃が襲ってくる。
(ここだ!)
俺は素早く横にステップを踏んで回避した。
そして、山方小隊長に言われたように、全力でカマキリUMAへと駆け出した。
「信じて進めや、一ノ瀬!!」
山方小隊長が雄叫びを上げる。
俺は背後で何が起きているのか、一切振り向くことなく信じて突き進んだ。
一本の鎌が俺の方へ向かってくる。
ギャリイィィィィンッッ!!
鎌の先端が鎖に絡め取られ、動きを止めていた。
さらにもう一本が眼前に迫る。
ギイィィィィーーーンッッ!!
しかし、この攻撃も防いだ。
そしてもう一本の鎌が迫ってくる。
視界に映る鎖が波打っている。
ガギイィィンッ!
鎖をうねらせて弾いた。
カマキリUMAが横から鎌を振る姿が見えた。
『走って!!』
無線からの声。
(如月さんの声だ!)
俺は信じてそのまま走る。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
銃声がした。
ギイィンッ!
ガギイィンッ!
ギャリイィンッ!
(如月さんの援護射撃。防御に移ったみたいだ)
すかさず山方小隊長はカマキリUMAの片方の前足を鎖で捕縛した。
一気に三本の鎌が鎖でまとめてグルグルに縛られている。
(すごい!右前足の三本の鎌が鎖で一つに縛られている)
「長くはもたねー!一気に決めろー!!」
ギチッ! ミシッ! ギシッ!
縛り付けている鎖が悲鳴を上げている。
『タクマくん左!』
自由になっているもう片方の前足に生えている三本の鎌が俺を襲ってきた。
ギイィィーンッ!
俺は真一さんの大鎌で鎌を弾く。
次に迫りくる鎌をフレームで受け流し、軌道を逸らした。
そして——。
——スバッ!
俺は大鎌でカマキリUMAの鎌を一本切り落とした。
(いける!このまま攻め切る!)
俺はそのまま次々に斬撃を繰り出した。
スバッ!
さらにもう一本切り落とした。
カマキリUMAの前足の鎌は残り一本になった。
しかし、ここで山方小隊長が拘束していたもう片方の前足の三本の鎌が鎖を振り解いた。
「まずい、一ノ瀬!退け!」
山方小隊長が叫ぶ。
しかし、振り解くために二本の鎌は力を割いていて、俺に迫ってきた鎌は一本だけだった。
(一本なら受けられる)
俺はフレームで攻撃を受けながら飛び退き勢いを殺した。
そして大鎌を大きく振りかぶり切り落とした。
(これで残り三本!)
形勢逆転した。
山方小隊長が必死に作ってくれたチャンスを、そのチャンスを繋げてくれた如月さんの援護を、俺は活かしてここまで来れた。
(大詰めだ。後は奴にまた鎌を増やされる前に倒し切る)
その時、俺の手にはすでに大鎌は消えてなくなっていた。
何が原因で現れたり消えたりするのかはよくわからなかった。
(だけど今は、カマキリUMAを倒すことを考えるのが先だ)
「仕切り直しだな。俺がまた隙を作る、如月は援護。一ノ瀬、お前はトドメを刺せ、今度は確実にトドメを刺すぞ!」
「了解!」
山方小隊長の激しい鎖の中距離攻撃。
カマキリUMAは二本の鎌で捌く。
如月さんの援護射撃を一本の鎌が防ぐ。
これでカマキリUMAの鎌はすべて封じた。
俺は全力でカマキリUMAへと突っ込む。
それを見たカマキリUMAは、鎖に対応していた一本を俺へと向けてくる。
「そいつを待ってたぜ!!」
山方小隊長は鎖による攻撃をやめて、鎖に対応する鎌を叩き落として一本拘束する。
拘束後、すかさず鎖をカマキリUMAに飛ばして捕縛した。
「一ノ瀬!奴は動けねぇ。お前が最後の一本の鎌を掻い潜れば後はでけぇ的だ!」
必死で山方小隊長が腕に力を込めて捕縛しているのがわかる。
「はい!」
(今度は確実に討伐する)
俺はフレームで受け流して距離を詰める。
十分に距離を詰めた俺は、鎌の攻撃をジャンプで回避して一気にパイルバンカーを撃ち込む構えをとった。
しかし、さっきまで如月さんの弾丸を防ぐために、防御に割いていた鎌で追撃をしてきた。
(やばい!空中で回避ができない。受けるしかない!)
ガギイィィンッ!
俺は空中で攻撃を受けて吹き飛ばされる。
空中で吹き飛んでいる刹那、俺の頭ではめまぐるしく考えが廻った。
(せっかくここまで距離を詰めたのに!山方さんが必死で一本鎌を抑えて動きまで封じてくれたのに!)
ここで俺が吹き飛ばされて距離が開けばすべて水の泡だった。
奴はまた脱皮をするようにして鎌を増やせばまた態勢を立て直せる。
だけど俺たちには、そこから巻き返すだけの力はない。
(確実にここで決めなきゃ負ける!)
俺は空中で吹っ飛びながらパイルバンカーの推進機構を使った。
プシュウゥゥゥゥーーーーッッッ!!
猛スピードでカマキリUMAの元へと向かっていく。
俺は空中で必死に態勢を整えた。
(何度も訓練したんだ!態勢を保つ訓練をした。パイルバンカーを撃ち込むまでの態勢なら大丈夫)
問題はパイルバンカーを使用した瞬間だった。
推進機構で前へ進む力に対して、パイルバンカーを使用したときの反動で逆向きに力が働く。
ここでバランスを崩してしまう。
今回は空中で使用するため踏ん張ることもできない。
(かなりの博打だけど、やるしかない!このままパイルバンカーを撃ち込んで確実に倒す!!)
推進機構のガス噴射により、あっという間に眼前にまで迫った。
(くらえーー!!)
ドッガアアァァァァンッッッ!!!
パイルバンカーがカマキリUMAの腹部に突き刺さった。
手ごたえはあった。確実にパイルが腹部に突き刺さった。
空中で使用した俺は踏ん張ることができず、再びカマキリUMAと離れるように吹っ飛んでいた。
(手ごたえはあった、でも、まだあいつは倒れていない!)
脱皮をして硬化したせいか、腹部にパイルバンカーを撃ち込んだが倒すまでには至らなかった。
(ダメだ!確実にここでやらないと!)
俺はもう一度推進機構を使用した。
プシュウゥゥゥゥーーーーッッッ!!
しかし、パイルバンカーはオーバーヒートを防ぐためすぐには使用できない。
俺は右手の拳を握り力を込めた。
(やるしかない!)
推進機構ですぐにまた距離が詰まった。
目の前にさっきパイルバンカーを撃ち込んだ傷跡がある。
(このパイルを突き刺したところに拳をぶち込む!!)
俺は右腕を振りかぶって全力で拳を繰り出した。
パイルバンカーによって開いた傷口へ、拳が叩き込まれる。
ドズゥンッ!!
起動した推進機構は止まらない。
勢いを保ったまま、命中した拳がめり込んでいく。
推進力と拳の衝撃が一点に集中した。
ブチブチブチブチッッッ!!
右腕が傷口を突き破り、そのままカマキリUMAの腹部を貫通した。
ズバアァァーーンッッ!!
俺はカマキリUMAの腹を貫通して転がった。
ドズウゥゥゥーーーン!
カマキリUMAの体が崩れて倒れた。
(今度こそやったのか!?)
腹部にはかなり大きな穴が開いていた。
もはや腹部がどこからどこまでなのかわからないくらい、体が吹き飛んでなくなっていた。
「どてっ腹にこんだけの穴ができたんだ、今度こそやったか!?」
最初に討伐した時みたいに脱皮して立ち上がることはないと思うが、山方さんが近づいて鎖をカマキリUMAの頭部に巻き付けた。
「まぁ、やって損はねぇからな。念には念を」
ゴキッ!
そう言って山方小隊長はカマキリUMAの首をへし折った。




