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44.想いを宿した右腕



 俺たちの体は思っていた以上に疲弊していたようだ。戦闘によるダメージと真一さんの死による精神的ダメージで、数日間戦えるような状態ではなく安静に過ごした。そして、その数日の間繭を調べて分かったことを影浦さんが報告してくれた。


 討伐部隊のメンバー全員と影浦さんがブリーフィングルームに集まっている。


「あの繭ですが、徐々に活性化しつつあります。UMA細胞を取り込んだことで成長していることもわかりました。今のところ何か実害をもたらすようなことはありませんが、UMA細胞を吸収して成長しているため、この繭が成長し終えて羽化したらとんでもないUMAが誕生するでしょう」


(あの禍々しさを放った繭だ、羽化したらおそらくサソリ型以上の脅威になる。その前に何とかしないとやばいんじゃないか?)


 俺はそう思ったが、繭を処理する際に問題が起きないかどうかも調べる必要がある。その点についても影浦さんが説明してくれた。


「しかし、この繭を成長途中で破壊すると、吸い上げたUMA細胞をまき散らす危険があります。繭の中では液化して細胞を作り変えているため、どのような能力を有しているかは不明です。さらに、現在進行形で細胞が作り替えられており、能力そのものが変化を続けているため、どのような現象が起こるか予測できません。」


 どうやら、成長を続けている途中のため、破壊した時に運悪く問題が起こる可能性があるらしい。


「結論を言うと、繭の能力が不可知のため、羽化して一個体となり、能力が固定されるまではどうしようもありません」


 繭を破壊したことでUMA細胞が爆散し、世界中へUMA細胞が拡散する危険を引き起こす可能性を考えると、個体となって羽化するまでは手を出すのは危険のようだ。


「つまり、繭が成長を終えてUMAが誕生するまでは、ガイアで監視するしかないということか」


 繭がもたらす脅威が不明な以上、手出しできないという事実に唸るしかない三神隊長。


「だが、あの洞窟で感じた禍々しさの正体がこの繭だとしたら、あのサソリ型以上の存在が誕生することになる。今のままではまた犠牲者が出る可能性があるぞ」


 三神隊長が繭から誕生するUMAの脅威を危惧する。


「今以上に訓練を積んで、強くなる他あるまい」


 長月さんが冷静に切り込む。


「だが、そう簡単にはいかねーぞ。新人だった奴らは伸びしろがある分成長がはぇーが、俺たちはそう簡単に激的に強くはなれねーぞ」


 現実を突きつけるように山方小隊長が反論する。


「個々の力が及ばずとも、作戦を立ててこちらが有利な状況で連携して戦えば、個の強さなど覆せる」


「そうかもしれねーが、あの時みたいに敵の数が多けりゃ連携もできねーぞ」


 桜木さんが山方小隊長を言い負かすが、山方小隊長も食い下がる。


「少なくとも、強くなるための努力は今以上にやっていくしかない。そして打てるだけの策を練って連携して戦う。それは今も変わらん。俺たちにできることはもう既にやっている。自信を持て!継続していくことが最も大事だ」


 三神隊長が全員をまとめた。誰も反論する者はいなかった。


(そうだ、すでに俺たちはできる限りのことをしている。あとはこれを続けていくことだ。俺たちは一人じゃない。全員で目標に向かって一つになり、力を合わせれば乗り越えられるはずだ)


 俺は真一さんが託してくれた想いを無駄にしないためにも、仲間の力を信じて戦う決意が固まった。一人で抱え込む必要はないのだ。みんなで協力して力を合わせて戦えば、一人では勝てない相手にも勝てる。俺はそれを真一さんから教わった。


「では、繭については引き続きこちらで調査します。何かわかったことがあればまた報告しますね」


 影浦さんはそういうと、繭についての報告は終わり各自自室へと戻っていく。そんな中影浦さんが俺を呼び止めた。


「タクマくん、ちょっといいかな」


「……?はい」


 俺にだけ用があるなんて一体何だろうかと思った。


「君の右腕、サソリ型のUMAを討伐した戦場で見かけたときから気になっていたんだが、真一くんの死と遺体の回収、それに繭の調査もあってタイミングがなくてね」


(そうか、俺の右腕UMA化してしまってもう普通の腕じゃないんだった)


 真一さんの死で頭がいっぱいになっていた俺は、すっかり自分の右腕のことを忘れていた。


「君の右腕はすでにUMA化していて、もう人間のそれではないようだね。それだけ聞くと、君は右腕を犠牲にしてしまったように聞こえるかもしれないけど、これは君を完全にUMAになることを真一くんが引き留めてくれたことで生まれた右腕だ。云わばその右腕は真一くんの形見、真一くんの想いが具現化したものだ。素晴らしいことだよ」


(この右腕が真一さんの想いの具現化?)


「君のその右腕には何か能力があるはずなんだ。何か特殊なことは起きなかったかい?普通ならあり得ないことが」


(そういえば、気づいたら右手に真一さんの大鎌を握っていたな。真一さんは最後二刀鎌にしていたから拾ったものではないはず。それに急に大鎌も消えちゃったな)


「そういえば、気づいたら右手に真一さんが使っていた大鎌を握っていたんです。そして気づいたときには手に持っていた大鎌も消えていました」


「素晴らしい!君が真一くんを想うことで具現化したのでしょう。そしてその鎌はやがて君の右腕の中に取り込まれた。真一くんの想いは君の右腕に宿っているんですよ。君が真一くんを想うことで手に入れた力です。想いが力となって発現した、人の想いは美しいですね」


 いつになくやたらと熱く影浦さんが語る。しかし、もし本当に真一さんの想いが俺の右腕に宿っているのなら、俺は本当に真一さんの想いと共に生きているんだな。


 影浦さんの熱は収まらず話を続ける。


「そういえば、先ほどタクマくんは真一くんが二刀鎌にしたと言っていましたね。大鎌を二刀鎌にしたんですか?」


「はい、急に柄が半分にちぎれるように二つに分かれました。あれはいったい何ですか?」


「武器にもUMA細胞が使われています。UMA細胞の筋肉が伸縮することで硬度が変わります。それゆえ、強度は通常の武器とは違って外側は固く鋭く内側は柔軟でしなやか、まさに日本刀のような性質の武器をUMA細胞で再現できるんです。このUMA細胞が分裂することで二つの鎌へと分かれたのです」


「そんなことができるんですか?」


「えぇ、君のパイルバンカーが念じれば起動するように、UMA細胞は想いを形にするのです。君がパイルを撃ち込みたいと思えばUMA細胞が撃鉄代わりとなり火薬を爆発させる。真一くんは二つに分けて二刀鎌にしたいと念じたから二つに分かれたのでしょう」


「そういうことだったんですか」


 俺は新たな発見をした。UMA細胞が想いに反応することは如月さんから聞いていた。スーツに使われているUMA細胞が侵食したときにポジティブであれば同化は進行しない、と。


(そうか、形状変化もするのか)


 しかし、俺の武器であるパイルバンカーは撃鉄代わりに使っているため、形状変化といっても武器としての形態を変えるようなことはない。それを知って少しショックだった。俺も今よりもっとかっこいい使い方ができるかもしれないと期待したからだ。


 そして、影浦さんはそんな俺を見抜いてか追い打ちをかけてトドメを刺してきた。


「その点、君のパイルバンカーは形状変化の恩恵を受けられるような武器ではありませんね。強いて言うなら、その形状変化とUMA細胞の強度のおかげでパイルバンカーという武器が成立しているといったところでしょうか」


「ですよね……」


「しかし、君にはその右腕がある。その右腕が真一くんの大鎌を作り出したと考えるのが自然です。だとしたら、真一くん以外の人が使っている武器も作り出せるはずです。それができれば君一人であらゆる武器を使いこなすことができる。しかも、いつも武器を持ち歩く必要はありません。その右腕だけで済みます」


 そうか、もしこの腕が大鎌を作ったのなら、他の武器だって作れるということになる。


(俺一人でいろんな状況に適応できるようになるということか)


 俺はそれを聞きみんなの武器を作れるようになりたいと思った。そして繭が羽化した時に、一人の犠牲者も出さずにその脅威を排除するんだと決意した。


「ありがとうございます、影浦さん。俺、目標が見つかりました」


 そう言うと、影浦さんは嬉しそうに微笑んだ。


「そうですか、役に立てたのなら何よりです。真一くんの遺体の傍で大声で泣いていましたからね、心配だったんですよ。真二くんより余程悲しみに支配されている様子でしたからね」


 どうやらあの時すでに影浦さんは見抜いていたようだ。


(俺が立ち直れるように励ましてくれていたんだな)


 俺のことを心配してくれる人がいる。


 友と思ってくれる人がいる。


 仲間だと思ってくれる人がいる。


 それだけで戦える。勇気が湧いてくる。


 

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