42.追悼の戦場
サソリ型のUMAを倒しても、周りを取り囲む大勢のUMAはなおも暴れていた。まだ、安心するには早い。俺たちは眷属化が解除されて暴れているUMAたちの討伐に移った。
五十嵐さんと十条さんが九十九さんを守りながら戦っている。俺と真二は二人に加勢した。
「五十嵐さん、大丈夫ですか!?」
「助かるぜ坊主、九十九がダメになっちまった、早いとこ周りの奴らを何とかしねーと」
眷属化が解除されてから、周りのUMAたちの力が増している。ただ暴走しているというわけではなさそうだ。
(まるで生ける屍のように、命令されたらその通りに動く意志を持たないUMAたちだったのに、今は自分の意志で動いているように感じる。それに、今までは直線的な攻撃ばかりだったのが、いろんな攻撃手段を使ってこちらの隙を作ろうとしてくる)
明らかにUMAたちの動きが違っていた。今まで戦ってきたUMAたちのように考えて戦っている。サソリ型の眷属にする能力で操られていたせいで、本当の力を発揮できていなかったのかもしれないと思った。
清乃女さんがサソリ型の背中から双剣を引き抜き、俺たちに加勢してくれた。
「まだこないに残っとるなんて」
この数が相手で取り囲まれているとなると、清乃女さんの武器である機動力が活かせない。相手の攻撃をほとんどその場で回避するしかなく、圧倒的に不利な環境だ。
(もし眷属化が解除されたことで知性を取り戻して戦っているなら厄介だ)
パイルバンカーを打ち尽くした俺は、右腕を振るってUMAたちを蹴散らす。いろいろ危惧していたが、サソリ型に大量生産されたUMAたち一体一体はそこまで強くはない。ただ、それが洞窟中を埋め尽くすほどの数存在することがまずい。
そんな時だった。
『こちら桜木、カブトムシ型のUMAを討伐完了。三神に加勢する』
どうやら桜木さんがあのカブトムシ型UMAを一人で討伐したようだ。
『了解。こちら三神、討伐完了次第山方、長月と加勢に移行する』
『了解。さすがにこいつをタイマンで倒すのはきちーぜ』
山方小隊長の息が荒い。正面からあの化け物と戦っているのだろう。
『了解、私のほうは最後で問題ない』
長月さんの声には余裕があった。おそらくほとんどの攻撃をかわしたり受け流したりしたのだろう。ほとんど息が上がっていない。
俺は、周りのUMAを倒しながら、サソリ型のいた高台から下の様子を少し伺った。
長月さんの刀では甲殻で滑ってしまい、ほとんどダメージを与えられず倒すのに苦労しているのだろう。三神隊長は素早さを生かして攻撃を避けている。山方隊長は正面からカブトムシ型と戦っていた。
十条さんと五十嵐さん、そして俺と真二と清乃女さんが加勢して五人で戦っているおかげで、かなりUMAの数が減ってきた。俺たちが加勢したことで、襲ってくるUMAを俺たち二人が引き受け、十条さんが蛇腹形態で戦えるようになり、多くのUMAを攻撃できるようになって効率が上がった。
五十嵐さんも攻撃に専念できるようになり、大剣の武器の大きさを生かして一気にUMAを蹴散らす。俺と真二と清乃女さんは襲ってくるUMAたちに専念して戦った。
『こちら三神、カブトムシ型討伐完了。山方に加勢する』
『了解、やっと倒しやがったか』
加勢報告があったことで、山方小隊長の声はどこかさっきよりも余裕を感じる声色だった。
「よし、だいぶ数が減ってきたな。もうじき全滅だ、気合い入れろよー!」
五十嵐さんが俺たちを鼓舞してくれる。
そしてついに最後の一体を討伐した。
(やった、あれだけの数を討伐しきった。何とかなったぞ)
俺は強敵との戦闘に加え、連戦に続く連戦で疲弊しきっていた。それは真二も同じだった。むしろ、俺以上に前衛として戦い続け、UMAになった真一さんとも戦っていたのだ。俺なんかよりよっぽど心も体も疲弊しているに違いない。
『こちら三神、カブトムシ型討伐完了。最後の一体の討伐に移る』
『了解』
(向こうも最後の一体のようだ。四人で戦えるからすぐに討伐完了するだろう)
そう思った俺はこれですべて終わったことを確信して、自然と洞窟の高台になっている方へ足を運んだ。真一さんの遺体を前にする。もうその体はUMAとなってしまったが、俺は最後に真一さんに結果報告と、気持ちの整理をつけてお別れを告げることにした。
(真一さん、あなたが作ってくれたチャンスのおかげで、尻尾を切り落とせた。真一さんと同じ犠牲者を増やさずに済みました。真一さんが自分で言っていた、まだ未熟な二刀鎌で戦う覚悟をしてくれたおかげで、俺たちは勝利してここまで来ることができました。親玉を倒しましたよ)
俺は膝をついて真一さんに語り掛けた。俺は涙をこらえることができなくなっていた。涙が頬を伝い、次第にあふれていく。
真二が俺に気づき、歩み寄ってきた。他のみんなはカブトムシ型の討伐に加勢に向かったのだろう。
「俺、真一さんから戦い方を教わりました。技術を学びました。背中で語る真一さんから戦場で戦う覚悟を学びました。一人で背負わず、仲間を信じて戦うことを学びました。もっともっと、いろんなことを教わりたかった。もっともっと教えてほしかった。真一さん………!」
俺は嗚咽を漏らしながら、想いを口にしていた。今まで必死に抑えていた悲しみが、決壊したダムのように止まらなくなり溢れ出す。俺は真一さんの亡骸に顔をうずめる。
俺の隣で立っていた真二から、小さく涙をすする音が聞こえてくる。
「兄貴、俺頑張ったよ。うっく、最後まで倒れずに戦っだ…。俺、兄貴の想いに応えられたかな?うっうぅ……」
そしてついにカブトムシ型UMAの討伐も終わったようだ。
『こちら三神、討伐完了。洞窟内の全UMAの討伐確認を行い、問題なければ帰還する』
みんなが討伐確認で下の階と上の階、そして上階へ上がるまでの通路を確認する。上階へ十条さんと三神隊長が上がってくる。三神隊長はあたりを確認し十条さんがこちらへとやってきた。
俺はやってきた十条さんの方へと顔を向ける。
すると、俺の様子を見た十条さんは息をのみ驚いていた。次第に顔が青ざめていく。絶望を目撃したような顔。まるで、真一さんがUMAになってしまったのを見た時の俺のような顔。
「…………!だから、だから一人の方が楽なんだっ!!」
顔を伏せるように下を向きながら、大声で叫ぶ十条さん。体は小さく震え、拳をぎゅっと握っていた。震える足を強引に動かし、十条さんは下の階のほうへと顔を背けたまま走り去ってしまった。
声を聞きつけてみんなが駆け寄ってきた。
「何かあったのか一ノ瀬?」
真っ先に三神隊長が聞いた。俺はなぜ十条さんがあんなに拒絶したのかわからなかった。怒っているのか恐れているのか悲しんでいるのか、何もわからなかった。ただ、起きたことをありのまま三神隊長に話した。
「そうか、十条は過去にトラウマを抱えていてな。俺も深くは聞かないようにしているからわからないんだが、きっかけは母親の死だと思う」
(十条さんも俺と同じように過去につらい経験をしているのか。でもどうしてあんなに起こった様子だったのだろう。わからない)
悲しみで満たされていた俺の心では、十条さんが何を思い何を抱えているのかわからなかった。駆け寄った如月さんは何も言わずに、ただ憂うようにじっとUMAになった真一さんの亡骸を見つめていた。
俺たちの様子に気づいてか、三神隊長が話し始めた。
「真一のことは本当にすまなかった。俺の考えが、準備が甘かったせいだ。取り返しのつかないミスをした、すまない」
三神隊長が頭を下げる。隊長のこんな姿は見たことがなかった。そして、隊長の謝罪に皆黙り、しばらく沈黙が流れる。
隊長が悪いわけじゃない。敵の力量など測りようがない状況で戦わざるを得なかったのだ。誰も隊長を責めることなどできない。みんな、危険を覚悟で戦ったのだ、死んでしまうことを覚悟した上でこれまでUMAと戦うことを選んできたのだ。いつかこうなってしまうことは覚悟していたはずだ。
「真一さんは!強敵を相手に、一歩も引かなかったんだ。最後まで戦い抜いた!自分がUMAになることがわかってもなお、その闘志を燃やし続けて戦ったんだ!真一さんはすごいんだ!!UMAになる恐怖に負けず最後まで人間として戦ったんだ!うう、うわあぁぁぁぁぁ!あああぁぁぁ……うぅ」
俺は真一さんの最後の武勇を語った。きっとUMAになることに恐怖しただろう。UMAになって仲間を襲ってしまうことも考えただろう。弟の真二に、自分を殺すことを頼むのは心が苦しかっただろう。UMAになる前にサソリ型を倒し切れなかったことは悔しかっただろう。
俺は語りながら、その時真一さんが感じていたであろう感情を想像する。真一さんの感情が流れるようにして自分も感じ取れた、そんな気がした。
覚悟はしていた。真一さんがUMAになってしまうことを。
だが、実際に直面すると自分の覚悟が甘かったことを認識させられる。感情まではコントロールできない。どれだけ覚悟していても、悲しいことは変わらない。
きっとこれは、覚悟が足りなかったという話ではないのかもしれない。誰かを思えば思うほど、失った時の悲しみは大きい。それを頭ではわかっていても感情は抑えられない。
そんな俺を見て如月さんが慰めてくれた。
「タクマくん。きっと真一くんは、天国で私たちを見守ってくれてるよ。この戦いも、最後まできっと見てくれてる。真一くんに、勝利を届けられたね。きっと、真一くんは褒めてくれてるよ」
そう言った如月さんの眼は、赤く腫れぼったい眼だった。
真一さんはもういない。どれだけ悲しくてもこの現実を受け入れるしかない。現実から逃げたって、逃げ場所など、どこにもない。現実しかないのだ。
(だから、俺は真一さんから託された想いを受け継いで生きていく。真一さんの想いだけは死なせない。俺が真一さんの生きた証になる、真二とともに!俺たちのこと、見守っていてください……)
俺は真一さんに別れを告げた。そして、真一さんの想いを背負い、真一さんの想いと共に生きていくことを決めた。
気づけば討伐部隊の面々はほとんどが帰還したようで、死体処理部隊の人たちが飛空船でやってきた。続々と洞窟へと降りてくる。そこにはあの影浦さんの姿もあった。影浦さんは死体処理部隊隊長なのだから当然かもしれないが、俺は普段の影浦さんから聖人君子の大人の人で、すごい技術者というイメージを持っていたから場違い感を禁じ得なかった。
「おやおや、タクマくんに真二くんまでいるとは、何かありましたか?」
三神隊長が俺たちに気を使ってくれたのか、代表して応えてくれる。
「実は今回、真一が戦死しました」
影浦さんはその言葉を聞き驚いた表情をしていた。そして、顔を曇らせて残念そうな表情をした。
「そうでしたか。惜しい人を失いましたね。彼は技術も信念も持ち合わせた素晴らしい人でした」
影浦さんが真一さんの遺体にゆっくり歩み寄り、膝をついて話しかける。
「真一くん、お疲れさまでした。ゆっくり休んでください。君の死は無駄にはしません。私が次へつなぎます。それに、どうやら君の想いは次の代へと受け継がれているようですよ」
ガイアにいるときの技術者としての影浦さんではなく、現場の影浦さんを初めて見た。これが死体処理部隊隊長の想いなのか。死を無駄にせずに次に繋ぐ、それがこの部隊の思想。
(討伐部隊だけじゃない、死体処理部隊も医療部隊もみんな思想を持っている。みんなそれぞれの持ち場で戦っているんだ)
影浦さんが丁寧に真一さんの遺体を回収した。




