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38.タイムリミット



 今まで戦ってきたUMAも強かった。何度も追い詰められた。それでも、必ず勝つ方法はあると思っていた。仲間と力を合わせれば乗り越えられる。そう信じていた。


 だが、目の前の存在は違った。


「来るぞ!」


 真一さんの声で我に返る。


 サソリ型UMAの尾が地面を叩いた。


 次の瞬間。


 俺たちのいた場所が大きくえぐれる。ただ尾を振り下ろしただけ。それだけで地面が砕けた。


「冗談みたいな威力やな……」


 清乃女さんの意識が戻ったが、まだ立ち上がれない。


 五十嵐さんと十条さんが九十九さんを守りながら周りのUMAを相手にしているが、サソリ型UMAの存在感だけで戦場全体が支配されているようだった。


「真二!」


 真一さんが叫ぶ。


「俺たちで隙を作る!」


「おう!」


 真一さんと真二くんが同時に動く。左右から挟み込む。真一さんの大鎌。真二くんの斧槍。二方向からの同時攻撃。普通なら避けるしかない。


 しかし——。


 サソリ型UMAは動かなかった。右手で真二くんの斧槍を受け止める。左手で真一さんの大鎌を止める。


「……」


 言葉が出ない。二人の攻撃を。片手ずつで止めている。


「まだだ!」


 俺は横へ回り込み、パイルバンカーを構える。


 しかし。


 サソリ型UMAの尾が俺へ向いた。攻撃ではない。ただの牽制。しかし、俺が踏み込めば確実に迎撃するための動き。


(こいつ……俺を見ながら二人を相手にしている)


 どの方向から攻めても、どう回り込んでも同じ。背筋が凍る。俺たち全員の動きを見ている。誰が何をするのか。どのタイミングで攻撃するのか。全部理解している。


「如月さん!」


 だが。


 如月さんもやはり撃てない。


 サソリ型UMAは戦いながら常に位置を変えている。俺たちを盾にするように、味方を射線上に置くように。


「くそ……!」


 如月さんが悔しそうに呟く。


「完全に読まれている」


 その言葉がさらに焦りを生む。


 攻撃できない。


 近づけない。


 隙がない。


 サソリ型UMAの尾が真二くんに迫る。真一さんが真二くんを押し飛ばし、二人で回避する。


 しかし、その瞬間。


 サソリ型UMAのハサミが迫った。真一さんが大鎌で受け止める。


 ギィィィン!!


 金属音が響く。


 だが、押し負けている。


「っ……!」


 真一さんの足が地面を削る。


 このままではまずい。俺は焦った。


(どうする……?)


 このままじゃ勝てない。何か変えないと。


 その時。


「ちっ……仕方ねぇな」


 真一さんが小さく呟いた。


「兄貴?」


 真二くんが見る。真一さんはサソリ型UMAから距離を取った。


「今まで実戦では使わないようにしていた」


 大鎌を握り直す。


「練度が足りねぇからな」


 真一さんの表情は険しい。


「でも……」


 サソリ型UMAを見る。


「このままじゃ勝てねぇ」


 大鎌を構える。


「攻め方を変える!」


 次の瞬間。


 大鎌の柄が分離した。


 一本だった武器が、二本の鎌へ変化する。


「二刀鎌……」


 真二くんが呟く。初めて見る形。俺も息を呑んだ。


「これが俺のもう一つの戦い方だ」


 真一さんが走る。


「仕掛けるぞ真二!」


 先ほどまでとは動きが違う。一撃の威力を重視した大鎌ではない。左右から繰り出される連続攻撃。手数で押し込む戦い方。サソリ型UMAの表情が初めて変わった。


 サソリ型UMAの対応が遅れる。片方を防げば、もう片方が迫る。二方向から絶え間なく襲ってくる攻撃に、完全には対応できない。


 ザンッ!!


 サソリ型UMAの腕に傷が入る。


「入った……!」


 俺は思わず声を漏らした。初めて、攻撃が通った。


「ほぅ」


 サソリ型UMAが傷を見ながら呟く。


「速いなお前」


 楽しそうだった。まるで新しい玩具を見つけたように。


「次はこちらから行くぞ」


 その瞬間。


 サソリ型UMAの動きが変わった。さっきまで余裕を持って受けていた。


 だが、今度は積極的に攻撃してくる。


「来るぞ!」


 真一さんが叫ぶ。


 尻尾が迫り、真一さんは二本の鎌で受け流す。


 しかし、真一さん自身が言っていたが、まだ二刀鎌での戦闘に慣れていない。


 一瞬、動きが遅れた。


「しまっ——」


 ドスッ。


 嫌な音がした。


「真一さん!」


 サソリ型UMAの尾が真一さんの体を突き刺していた。


「兄貴!!」


 真二くんが叫ぶ。しかし、真一さんは倒れない。両手から鎌を落とし、突き刺さった尾を掴んだ。


「……まだだ」


 苦しそうに息を吐く。


「真二、切れ」


「分かった!」


 斧槍を振り上げる。そして、サソリ型UMAの尾へ振り下ろした。


 ズバァッ!!


 尾が切断される。サソリ型UMAが初めて大きく後退した。


「カレン!」


 真一さんの声を合図に如月さんの狙撃が行われた。如月さんはすでに狙っていた。銃口が光り、轟音が洞窟内に響き渡る。弾丸がサソリ型UMAの頭部へ見事に直撃した。


 ガァイィィンッッ!!


 さらに。


「タクマ!」


「はい!」


 俺は走る。パイルバンカーを構えて、全力の一撃を込める。


「これで……!」


 脇腹へ叩き込む。


 ドッガァァァァン!!


 爆発音と共にサソリ型UMAの巨体が吹き飛び、岩壁へ叩きつけられる。


 そして、静寂が訪れた。


「……倒した?」


 思わず呟く。勝ったと思った。だが、すぐに思い出す。あのUMAの尻尾に刺された真一さんのことを。


「真一さん!」


 俺は振り返る。真一さんは片膝をついていた。そして、自分の腹部に刺された尾の傷を見ていた。


「……」


 その表情は、さっきまでの余裕とは違っていた。


「まずいな……」


 真一さんが呟く。その言葉に、俺の胸が嫌な予感で締め付けられた。


 サソリ型UMAが吹き飛んだ後、巨大な体が岩壁へ叩きつけられ、洞窟全体に衝撃音が響き渡った後、しばらくしても、サソリ型UMAの動く様子はない。


 あれだけの攻撃を受けたんだ。尾は切断した。頭部には如月さんの狙撃。最後に俺のパイルバンカーを直撃させた。


(これで倒せていなければ、一体どうすればいい)


 そう思った。しかし、真一さんの容体も気になる。


「真一さん、大丈夫ですか!?」


 俺が声をかける。


「……問題ねぇ」


 そう言いながら立ち上がろうとする。しかし、体がふらついた。


「兄貴!」


 真二くんが支える。真一さんは自分の傷を見て、小さく息を吐いた。


「こいつは……思ったよりもまずいかもな」


 その言葉に全員が反応する。


「まずいって……」


 俺の声が震える。真一さんは無線を手に取った。


「御剣隊長に連絡する」


 その言葉に嫌な予感がした。


「UMA化する可能性がある」


「……!」


 一瞬。


 時間が止まったように感じた。


 UMA化。


 それは俺たちにとって最も恐ろしいものだった。人間ではなくなる。今まで何度も戦ってきた存在。それになる可能性がある。


『了解、医療部隊を呼ぶ』


 新地資産が三神隊長へ報告を行い、三神隊長の返事が無線から聞こえた。


 如月さんがライフルを構える。そして天井へ向けて撃つ。岩盤が崩れ、飛空船へ繋がる穴が開いた。


『御剣隊長、聞こえますか?』


 三神隊長が通信を入れる。


『あぁ、聞こえている。状況を』


『真一がサソリ型UMAの攻撃を受けた。UMA細胞を直接流し込まれた可能性がある。体を診てほしい』


 通信の向こうで少し沈黙があった。


『……了解。すぐそちらへ向かう』


 無線での連絡を終えたところで。


「まだ終わっていないぞ」


 声が響いた。全員が声のした方へ振り向く。


 岩壁。そしてそこに、サソリ型UMAが立っていた。


「……!」


 倒れたはずの巨体がゆっくりと起き上がっていた。


 体には傷がある。


 切断された尾。


 額から流れる血。


 脇腹には大きな損傷。


 それでも、立っている。


「嘘だろ……」


 真二くんが呟く。サソリ型UMAは自分の傷を見る。


「この俺にこれほど抗うとは思わなかった」


 静かな声。


「貴様らは弱くない」


 しかし、その表情に焦りはない。


「だが」


 こちらを見る。


「人間程度が世界の王である俺を倒すには強さが足りない」


 サソリ型UMAが歩き出す。


「どれだけ努力しようと、どれだけ集まろうと、貴様ら人間では、俺には届かない」


 怒りが湧く。


 命を。


 仲間を。


 全部否定されたような気がした。


「……ふざけるな」


 真二くんが斧槍を構える。


「俺たちは道具じゃねぇ」


「そうだ」


 俺もパイルバンカーを構える。


 その時、穴からラダーが降りてきた。


 医療部隊隊長の御剣さんと、副隊長の立花さんが上空でとどまる飛空船から姿を現した。真一さんはラダーにつかまり急いで戦線離脱した。


 そして、無線で飛空船内の医療部隊の二人のやり取りが聞こえてくる。


『状態を確認します』


 御剣さんが真一さんを見る。


 傷を確認し、すぐに処置を開始しているようだ。


「……」


 俺たちは戦場に残ったまま、無線越しにその様子を聞いていた。


(真一さんが戻るまで時間を稼ぐ)


「今度は撃てるように私も動く」


 如月さんが言う。


「分かりました」


 如月さんが位置を変える。今までとは違う。俺たちの後ろから狙撃するのではなく。自分から射線を作りにいく。


 そして、サソリ型UMAへ向かっていく。


「来い」


 サソリ型UMAが笑う。


「どれだけ足掻けるか見せてみろ」


 戦闘が再開する。


 真二くんが正面から斧槍を振る。俺は横から接近する。如月さんはサソリ型の周りを距離をとりつつ駆け回りしながら発砲し、直撃させられるタイミングをうかがっている。


 だが。


「ぐっ……!」


 真二くんが吹き飛ばされる。


「真二!」


 サソリ型UMAのハサミ。受け止めるだけで精一杯だった。しかし、片方のフレームで防ぎながらもう片方でパイルバンカーを撃ち込む。


 しかし、これを尾が邪魔する。切断されたはずの尾。それでも残った部分だけで十分な威力だった。俺が攻撃しようと腕を伸ばしたところを、素早く尾ではじかれた。


「くそ……」


(強い。傷を負っている。それでも、まだ全然戦える)


 その時。


『……そうですか』


 無線から声が聞こえた。


「真一さん?」


『状態確認が終わりました』


 御剣さんの声。


『処置によって進行を遅らせることはできます』


 少し間が空く。


『しかし』


 嫌な沈黙。


『完全に止めることは、できません』


「……」


 俺の手が震える。


『体内に侵入したUMA細胞が強すぎます』


『このまま時間が経てば……』


 言葉の続きは聞きたくなかった。


『真一さんは、UMA化します』


 その瞬間。


『なら』


 別の声が入る。


 真一さんの声だった。


『俺は戻る』


「兄貴!」


 真二くんが叫ぶ。


『止められねぇなら』


 真一さんの声。


 いつも通りだった。


『なる前に終わらせる』


「……」


『俺が最後まで人間でいる間に、あいつを倒す』


 通信が切れる。


 そして。


 上空から、穴の開いた天井から一つの影が落ちてきた。


 真一さんだった。


「兄貴!」


 真二くんが叫び、真一さんは笑いながら応えた。


「心配かけたな」


 しかし、俺には分かった。いつもの真一さんとは違う。少しだけ、苦しそうだった。


「無線で聞いていたと思うが」


 真一さんはサソリ型UMAを見る。


「一応言っておく」


 大鎌を構える。


「俺は長くは戦えねぇ」


 全員が沈黙する。


「だから」


 真一さんが続ける。


「ここで決める」


 真二くんが斧槍を構える。俺もパイルバンカーを構える。如月さんが銃を構える。


「行くぞ」


 真一さんが走る。大鎌が、再び二つに分かれる。


「王だろうが何だろうが」


 二刀の鎌を構える。


「人をコケにするテメーは」


 サソリ型UMAへ斬り込む。


「俺たちが倒す!」


 サソリ型UMAが初めて目を細めた。


「……まだ抗うか。いいだろう、最後の瞬間まであがいて見せろ!」


 戦いが始まる。真一さんの二刀鎌、真二くんの斧槍、俺のパイルバンカー。そして、如月さんのアンチマテリアルライフル。


 三人の攻撃が同時に迫る。如月さんもさっきとは違い自分から積極的に動いて狙撃の機会を作る。サソリ型UMAは右手で真二くんの攻撃を受け止める。左手で真一さんの鎌を防ぐ。


 そして、尾で俺を狙う。


「……!」


 まだ、余裕がある。


「ほぅ」


 サソリ型UMAが笑う。


「まだ人間の肉体を維持するか」


 真一さんを見る。


「お前がいつ限界を迎えるのか、楽しみだな」


 しばらくの攻防戦が始まる。如月さんの狙撃は何発か命中した。怯んだその隙に俺もパイルバンカーを撃ち込んだ。確実にサソリ型を追い詰められている。


 しかし、残酷にも終わりの始まりが訪れた。真一さんの体がわずかに震えていた。俺は気づいてしまった。真一さんの腕。


 そこには、人間ではない変化が。少しだけ現れ始めていた。



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