32.クールな仮面の内側は
しばらく長月さんとの模擬戦の日々が続いた。指摘されたことを意識して、何度も挑戦し続けるが、長月さんから一本取るのは難しかった。
「だいぶ意識してやれるようになったじゃないか。振りの遅さ、攻撃の軽さ、判断の遅さ。それを改善しているのがよくわかる。これが無意識にできる体になるまで、体に覚えさせることだ」
何という途方もないことを言うんだこの人は、と正直思った。今やっていることを意識せず自然と戦場でできるようになれだなんて。
しかし、これが出来なければ格上相手の戦闘では相手にならないのだろう。長月さん相手の模擬戦のようなことが戦場でも起きる、そうならないようにするには、自然にできるようになる必要があるのだろう。
こちらが隙を見せればすぐに一撃叩き込まれる。攻撃の手を緩めれば攻撃される。長月さんとの模擬戦で、嫌でも体で学んだことだ。だが、もう体は限界だった。
「長月さん、少し休ませてください」
「何だ、もう根を上げたのか。仕方ない、パフォーマンスが落ちている時に無理しても、いい結果は出ないからな。続きはまた今度にするか」
厳しく鍛える一方で、無理に続けさせようとはしない。長月さんは根性論ではなく、効率を優先する人なのだ。
(た、助かった〜。もう限界だ)
「よし、なら食事でもしようか。行くぞお前たち」
普段より早く訓練を終えて長月さんと共に食事をすることになった。
「しっかり食べてしっかり寝て、体力つけないといかんぞ。体調不良や寝不足空腹で戦闘に支障が出ては困るからな」
やはり、こういった基本的な部分はみんな意識して気をつけているみたいだ。ガイアに来てからよく耳にする話題だ。
「長月さんはどうしてこんなに強いんですか?何か特別な訓練をしてきたんですか?」
「私は武士の家系でな、代々剣術道場の師範を継いでいたんだ。私も継ぐ予定だった。だから剣術は一通り仕込まれてきた」
(それで武器が刀なのか。剣術道場の師範である長月さんが直々に指導してくれるって、これは実際贅沢なことなのでは!?)
俺の武器は刀じゃないから剣術を活かすのは難しいかもしれないが、基礎的な部分は役に立つかもしれないと思った。
「剣術道場の師範なら五十嵐さんはピッタリですね。武器も大きいとはいえ剣だし」
「そうかもしれないな。けど、流石にあの大剣を長月さんのように素早く振り回すのは難しいぜー」
「何だ五十嵐、随分弱気だな。初めから諦めているのか?」
弱気な五十嵐さんに追い打ちをかけるように長月さんが問い詰める。
「いやいや、そんなことはないですよ。でも、俺が長月さんみたいになれるのかなーって思っちゃいます」
普段明るく元気な五十嵐さんにしては珍しくテンションが低い。
「まぁ、あまり気負うな。誰もいきなりは上達せん。私だって、初めから強かったわけじゃないんだぞ?」
少し励ますように優しく微笑む長月さん。前に如月さんに対して、合同訓練場で見せた表情に似ていた。
「長月さんも、強くなるまで俺たちみたいに訓練続けたんですか?」
真二くんも長月さんに質問をした。
「そうだ。私も構えや姿勢、足運びや体重移動に加えて相手との間合いなど、戦い方や武器によらず戦う上で必ず気をつけるべき基本から学んだ。それを意識しながら稽古を続け、試合の間無意識に気をつけられるようになって、私も上達を実感した。今のお前たちと同じことを、私もして強くなったんだよ」
その話を聞いて、俺だけでなく真二くんも五十嵐さんもやる気がみなぎっていた。今やっていることは無意味なんかじゃない、強くなるための大事な一歩なんだと思えた。何より、長月さんがそれを実践して強くなったと言う話を、長月さんから直接かけたことが大きかった。
「よし、俺飯食ったらまた訓練に戻るわ!」
「五十嵐さん、俺も付き合うぜ!タクマはどうする?」
「うん。俺もやる!」
「そう来なかっちゃな!」
「ならば、私も付き合おう。指摘する者が必要だろう?」
長月さんは、ニッコリと微笑んだ。初めて会った時は無口で静かで、怖くてちょっと冷たい人かと思っていた。でも、こんなにも笑顔が似合う人だったんだと知った。
しかし、四人で訓練に戻ろうとしたその時——
『——緊急警報、緊急警報。戦場跡にUMA出現。繰り返します、戦場跡にUMA出現』
スピーカーから大音量で流れる、機械的なアナウンス。
『全討伐部隊員は、速やかにブリーフィングルームに集まってください』
UMAは俺たちのことなどお構いなしで現れては暴れる。四人はすぐにブリーフィングルームへと向かった。
ブリーフィングルームに全メンバーが集まり、三神隊長がUMA発見映像をモニターに映した。
「発見場所は第一次UMA大戦戦場跡地周辺だ。発見したUMAは今までと違って人の形をなしておらず自然界の生物に近い形状で、見た目は狼のようなUMAだ。主な攻撃手段は牙と爪と予想できる」
今までと違って人の形をした生物のUMAではなく、生物の形をしたUMAのようだ。例外としてアリ型がいたが、今まで人の形をしているのが当たり前だった。
(今回のUMAはアリ型に近いのだろうか?それと第一次UMA大戦って何だ?)
今までにないタイプのUMAが相手なのと、聞いたことのない不安な言葉に俺は少し困惑していた。
「出撃メンバーは——」
三神隊長が続きを言おうとした時、長月隊長が遮った。
「——三神隊長、すまないが今回は少し私のわがままに付き合ってくれないか」
「・・・・・どうした、長月?」
あの三神隊長ですら、長月さんの遮りが予想外だったようで、驚きの表情が露わになっていた。
「まず五十嵐と真二と一ノ瀬の3人だけで討伐させて欲しい。もし3人での討伐では無理と判断した場合は助太刀に入ってもらって構わない、その時は私も加勢する」
「わかった。では、五十嵐、真二、一ノ瀬、長月、俺、九十九、真一、山方でいく。以上だ」
出撃命令が出て各自準備に取り掛かるが、山方小隊長が長月さんに近づいていく。
「長月、お前急にどうした?あいつら三人だけに任せるなんてよ」
「危険ではあるが、少し.......な」
長月さんが何を言っているのか聞き取れなかったが、何か意図があるのだろう。
準備を終えて広間で待機した。そして、出撃メンバーが集まり飛空船で発見現場へと向かう。
飛空船の中で俺は疑問に思っていたことを三神隊長に質問した。
「あのー、第一次UMA大戦って何ですか?」
「ガイアでの呼称だが、そうだな、順を追って説明しよう。初めてUMAを発見した時ガイアはまだ創設されていなかったんだ。そのUMAの討伐を機にガイアが設立されたからな。そのUMAの討伐に当たったのは、陸上自衛隊だ。そして、そのUMAとの戦いを第一次UMA大戦と呼んでいる」
「え?最初に発見されたUMAの討伐は軍隊で、その戦いの戦場跡近くに、今回UMAが発生したってことですか?」
「そうだ。結局そのUMAを討伐できたかどうか、確認することはできなかったがな」
「まさか、今回そのUMAが現れたんですか!?」
「いや、そのUMAとは明らかに別個体だ」
(ん?まるで三神隊長は最初のUMAがどんな奴だったか、知っているような口ぶりだ)
俺は如月さんから、三神隊長は元軍人だと聞いていた。
(もし知っているなら、三神隊長自身がそのUMAと対峙したことがあるということになるんじゃないか?)
俺はそれも三神隊長に聞いてみることにした。
「三神隊長は、最初のUMAがどんな奴だったのか、知ってるんですか?」
「あぁ、俺は奴と戦ったことがある。見た目は鬼ように2本の角が生えており、体は真っ赤で左右で異なる形状の翼が生えていた」
(やっぱり、三神隊長はそのUMAと戦ったことがあるんだ!でも、まだガイア創設前で特殊な装備はない。軍事兵器を使った討伐だったんだろう)
「討伐確認ができなかったって、何でですか?」
「軍事兵器による爆発で、地形まで歪ませる程の戦いを繰り広げたからな。跡形もなく消し飛んでしまったのか逃げられたのか、確かめようがなくなってしまったんだ」
軍隊が討伐に苦戦する相手、討伐確認をするためにもそういった兵器を使わない方が良いこともあってガイアが創設されたのだろう。
そんなことを考えていたら長月さんから喝を入れられた。
「一ノ瀬、お前はこれからUMAと戦うんだ。そろそろ集中しろ、もうじき到着するぞ」
「はい!」
(そうだ、相手の力量もわからないUMAを俺と五十嵐さんと真二くんの三人で戦うんだ)
俺は気を引き締めて集中することにした。
「よし、この辺りだ。上空から目標を捜索するぞ」
三神隊長が飛空船から地上を確認して、狼UMAを探す。俺も探したが、眼下には爆発で抉られたような地形が広がっていた。
しばらく飛空船から捜索を続けていると、黒い物体が素早く視界を通り過ぎるのが見えた。
「いました!あそこです!」
俺は指を刺しながらUMAが駆け抜けている場所を知らせた。
「よし、総員降下するぞ」
三神隊長の合図で飛空船が徐々に高度を落としていき、降下可能なところまで高度が下がり全員で降下した。
しかし、狼UMAは猛スピードで走っているため、着地してから全員で追いかけた。
狼UMAは追いかけられていることに勘づき、急に立ち止まり、こちらを向いて姿勢を低く構えた。
先頭を走る三神隊長が『止まれ!』と合図を出して、右手を横に伸ばして前方を遮る。
「五十嵐、真二、一ノ瀬。任せたぞ」
「了解!」
俺たち三人は三神隊長の前へと出て、狼UMAへ武器を構えた。
(やっぱり今までのUMAと違う。明らかに人の形ではなく動物の形をしている。それに言葉も発していない)
俺は長月さんとの模擬戦で指摘されたことを意識しながら、狼UMAの討伐を始めた。




