31.復活!長月
ここ一週間、ずっと推進機構を使った練習を一人でしていた。間合いを詰めている間バランスを保ち、パイルバンカーを撃ち込んだ瞬間の反動時もバランスを保つ。ここが未だにうまくいかない。
(たまにうまくいく時があるってくらいで、ほぼほぼパイルバンカーを撃ち込んだ時にバランスを崩すなー)
推進機構を使った時のリスクが大きく、実戦ではまだ使えない練度だった。
そして、合同訓練の時間になり、三神隊長が口を開いた。隣には長月さんが立っていた。
「諸君、今日から長月が復帰する。ただ、もう以前のような戦い方はできない。これからは長月を加えた連携を進めていく」
(長月さん、もう戦えるだけ回復したんだ。良かった!)
俺は長月さんが苦悶の表情を浮かべながら、UMA細胞に侵食されている姿を思い出した。もうあんなことが起きないように強くなるんだと、俺は再度決意を固めた。
「長月、くたばってねーみたいで何よりだぜ!お前がいねーとどうにも張り合いがねーからよー」
「だからアンタ!一度でもアタシに勝ってから言いなっ!」
山方小隊長が熱烈な歓迎をする中、桜木さんが噛み付く勢いで文句を言う。
「時雨ちゃん、無事で良かったよー。本当に心配したんだからねっ!バカバカバカー」
如月さんが涙を浮かべながら長月さんに近づき胸をポカポカと叩く。
「すまない。どうやら、無茶・・・・し過ぎてしまったみたいだ」
長月さんはどこか申し訳なさを含んだような、はにかんだ笑顔で応える。
「た、隊長!もう、もう体は大丈夫なんですか!?」
普段は豪快に笑いながら話す五十嵐さんが、恐る恐る聞く。
「あぁ、もう大丈夫だ。以前のように厳しく指導するぞ、五十嵐」
長月さんは不敵な笑みで応えた。
「一ノ瀬はまだ長月と訓練したことがなかったな。いろいろ教わると良い」
「はい、よろしくお願いします!」
「良い返事だ。戦場で会った時はまだ武器も持たない子供だったが、どうやら私が寝込んでいる間にいい面構えになったようだ。これから厳しく鍛えていくから覚悟したまえ」
まっすぐに俺の目を見る。まるで俺を見透かすような、そんな眼差しで長月さんは言った。
「長月はんの訓練はほんま厳しいさかい、覚悟しときや」
耳元で清乃女さんが静かに呟いた。厳しいのは正直嫌だけど、長月さんの強さは本物だ。あの人の強さを少しでも吸収したい。
その日は、長月さんと真二くんと五十嵐さんの四人で訓練することになった。
「一ノ瀬の実力を知っておきたい。何より、お前たち二人の成長も見たいからな」
俺たちは長月さんと三対一で模擬戦を行った。
「五十嵐、攻撃が遅い!隙を減らして次の攻撃に繋げ。真二、一撃が軽い!もっと踏み込んで攻撃しろ。一ノ瀬、判断が遅い!敵は待ってくれんぞ」
俺たちの攻撃は全て長月さんに受け流されてしまった。
「いいか、よく覚えておけ。戦場で連携が想定通りに完璧に決まることはほとんどない。敵の方が上手だった場合、まず理想の連携は決まらない。だから完璧に連携を決めようとするな。相手に攻撃を何度も仕掛けて隙を作り、連携を仕掛ける中で連携を組み立てろ」
(予め決めておいた連携が決まることはなかなかないから、連携で攻めながら次の連携をその場で組み立てていくのか)
理屈はよくわかるが、実際その場で攻めながら連携していくのはかなり難しい。しかし、そのための合同訓練なのかもしれない。俺はそう思い、その場で連携を立てられるように、仲間と息を合わせることを意識した。
しばらく長月さんとの模擬戦を続ける。
「踏み込みが甘い!」
真二くんの攻撃を軽く受け流されてしまい、逆に攻撃した隙をつかれて反撃されてしまった。
すぐさま五十嵐さんが長月さんへ攻撃を仕掛ける。しかし、長月さんはそれを軽くかわした。
そして、かわすと同時に五十嵐さんの胴に一撃を入れた。
「遅い!」
俺は真二くんが反撃されたのを見て、五十嵐さんの後に続いて攻撃を仕掛けにいった。
しかし、俺が間合いを詰め切る前に、長月さんは体勢を立て直してカウンターを決めた。
「グハッ」
「一ノ瀬、判断がワンテンポ遅いぞ。五十嵐と同時に仕掛けられていれば、敵は一瞬どちらに対応するか迷ったはずだ。だが、お前が遅いから順番に処理された。一瞬の遅れが戦場では命取りになる、分かったか」
さっき長月さんに指摘されたことがそのまま原因となって敗北した。攻撃が軽いから受けて反撃され、攻撃が遅いからかわされて反撃され、判断が遅いから攻撃する前にやられた。
戦いながら俺たち三人の欠点を見抜いて指摘して実演までしている。長月さんは三対一でそれをするだけの余裕があるのだ。
(やっぱり、この人はすごい)
そして、自分たちの欠点を改善するため、意識しながら模擬戦を続けた。
三方向から同時に攻めたり、時間差で連続攻撃を仕掛けたり、工夫して攻めるが全て受け流されてしまい、攻撃を一度も当てることができなかった。
「うむ、だいぶ動きが良くなったな。今日はこれまでだ」
長月さんはそう言って去っていった。こうして俺の今日の合同訓練は終わった。
「は〜、坊主。この後飯でもどうだ?」
合同訓練を終えてヘトヘトになりながら五十嵐さんが声をかけてきた。
「そうですね。俺も腹減ってるんで行きましょう」
「俺も行くぞー」
「よし、じゃあ三人で行くか!」
そして、合同訓練を終えて真二くんと五十嵐さんの三人で食堂へ向かった。
「それにしても、長月さんの訓練厳しかったですね」
「あぁ、ほんとに長月さんの訓練は厳しいぜ。あれが定期的に行われるなんて、恐ろしい!」
五十嵐さんは大袈裟に心配しながら料理を口に運ぶ。
「でも、長月さんまだ病み上がりじゃん?あんなに体こき使って平気なのかな?」
真二くんが心配する。そして、俺もそう思っていた。しかし、あんな状態の長月さんを目にして治療していた御剣さんや立花さんが、簡単に許可するとは思えなかった。
「訓練に参加しているってことは、普通に戦う分には問題ないってことなんじゃない?」
「坊主の言う通りだ。それでも心配なものは心配だけどな」
三人で食事をしていると如月さんが食堂へやって来た。
「あれ、三人で食事?私も同席していいかなー?」
「どうぞどうぞ」
如月さんは大量の料理を持って席についた。
(そういえば如月さんと三神隊長って合同訓練に参加してないよな。なんでなんだろう?)
俺は如月に直接聞いてみることにした。
「如月さん、なんで如月さんと三神隊長は合同訓練に参加しないんですか?模擬戦にも参加しないですよね」
「あー、隊長は連携や戦闘スタイルを見て、誰と組ませるかとかどういう作戦がいいか考えてるんだよ。私は遠距離狙撃がメインの戦い方だから、合同訓練との相性が悪いんだよね」
(なるほど。狙撃は位置が分からない。模擬戦で再現するのは難しいってことか)
「じゃあ、如月さんはどうやって狙撃訓練してるんですか?」
「あはは、まあそうなるよね。一度タクマくんの射撃適正を測るために射撃施設に行ったの覚えてる?あそこは通常の銃火器の狙撃しか出来ないけど、さらに地下に私のアンチマテリアルライフルでの狙撃に耐えられる施設があるんだ。そこで一人で射撃訓練してるよ」
武器を初めて使う時に、死体処理部隊区画の地下射撃施設のさらに地下にある施設のようだ。
(そういえば、俺に射撃適正がないからそのまま切り上げたな。さらにその地下にそんな施設があったのか)
食事をしながら話をしていると真一さんがやって来た。
「お?真二、お前も来てたのか」
「兄貴!長月さんとの合同訓練がキツかったから、訓練終わって三人で飯食ってたんだ。如月さんも一緒で」
「そうか、長月さんはかなり厳しいからな。ちゃんとついていけてるか?」
「なんとかね。学べることが多いし、基本的なことを指摘してくれるから、俺でも意識すれば改善できると思うと何とか頑張れてるよ」
「そうか、良いことだ。強くなれよ」
「兄貴の方はどう?強くなってる?」
イタズラっぽく真二くんが聞く。
「まだまだだ。もっと強くならねーとな」
(真一さんですらまだまだだなんて、すごい向上心だ。俺も見習わないと)
「それじゃ、俺は先に部屋に戻るぜ」
真一さんはすぐに食事を終えて自室へと戻っていった。
俺も明日からまた訓練するために、食事を終えた後早めの就寝をした。




