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強制連行された場所はUMA討伐組織〜仲間の想いを異形の右手に込めて全てのUMAを殲滅する〜  作者: マッキー
UMAに全てを奪われた少年、秘密組織ガイアで戦う覚悟を決める
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3. 【理不尽な二択】



 インカムに向けて短くそう告げた男の声を合図に、張り詰めていた街の空気が、ふっと緩んだような気がした。


(終わった……。あの化け物が、死んだんだ……)


 もう、危機は去った。そう直感した俺は、全身のゴミの悪臭に耐えかねて、勢いよくゴミ箱の蓋を押し上げた。


「ぶはっ……! くっせぇ……! はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 外の空気を貪るように吸い込む。


「!? ーー生存者か」


 男が鋭い眼光をこちらに向け、驚いたように声を漏らした。俺はゴミ箱から這い出し、アスファルトの上に力なく膝をつく。


「あ、あぁ……はい。あの化け物から逃げて、ここに隠れてました……」


「そうか。見た限りでは、もうこの周辺に生存者はいないな。戦闘中もこちらの様子を覗き見るような気配はなかった。皆、避難できたか……それとも、死んだのだろう」



 ――死んだ。



 男のその言葉が引き金だった。


 脳裏に、あの虎の化け物が笑いながら人々の身体を引き裂いていた光景が、鮮明な映像となってフラッシュバックする。母さんの首が宙を舞った瞬間。父さんの腕が落とされた音。


「うっ……! げほっ、ごめ、なさい……気分が……っ」


 猛烈な吐き気が込み上げ、俺は口元を両手で押さえて激しくうずくまった。


 隠れている時は生き残ることに必死で、脳が恐怖を麻痺させていたんだ。だけど、脅威が去って安全になった途端、抑え込んでいた残酷な記憶が、容赦なく俺の心をズタズタに引き裂きにやってくる。涙と冷や汗が止まらない。


「すまない。辛いことを思い出させてしまったな」


 男は少し申し訳なさそうに声を和らげ、俺の背中にそっと手を置いた。鎧のようなスーツ越しなのに、不思議とその手の温もりが伝わってくる。


「とりあえず、場所を移そう。ここではなんだし、それに……目撃者である君の話も詳しく聞きたい。一緒に来てくれるか? ――と言っても、君に拒否権はないんだがな。すまん」


 男はそう言うと、上空に向けて無線を飛ばした。



 ゴオオオオ



と風を切る重低音と共に、雲の隙間から先ほどの巨大な飛空船がゆっくりと高度を下げ、近くの広場へと着陸する。


 ハッチが開き、中から一人の若い女性が小走りで降りてきた。


「隊長お見事でしたー! まさか本当に一人でやっつけちゃうなんて思いませんでしたよー! やりますねー隊長っ!」


 さっきまで殺戮を楽しんでいた化け物と死闘を繰り広げていた現場には、およそ不釣り合いなほど、やたらと明るくてテンションの高い声だった。


「もしかして、生存者はその男の子だけですかー?」


「あぁ、このエリアでは彼だけだ。今から彼を『ガイア』へ連れていく。如月きさらぎ、悪いが到着までに事情聴取を済ませておいてくれ」


「ええっ!? ガイアに着くまでにって、隊長それ無茶言わないでくださいよ! 絶対に終わらないじゃないですかー!」


「お前は直接戦闘してないんだから、それくらいやってくれ」


「嫌ですよー! っていうか、私だって役に立ちましたよ! バズーカ撃ってあいつの動きを止めたの私じゃないですか!」


「安全圏から何のリスクもなく、誰にでもできることをやっただけだ。誇るな」


 そう言うと、隊長と呼ばれた男は、如月さんの頭を容赦なく拳骨でゴツンと殴りつけた。


「いでっ!? ほんっとに人使いが荒いんだから!」


 如月さんはプンスカと分かりやすく怒りながらも、俺の肩を優しく叩いて飛空船の中へと促した。


 二人のやり取りをぼんやりと見つめながら、俺は言われるがままに飛空船のタラップを上る。


 ふと振り返ると、地上に残った隊長が、一人静かに呟く声が微かに聞こえた。


「……あらかじめ敵の能力を完全に把握し、万全の対策を敷いた上で、この結果、か」


 隊長は、横たわる虎の化け物の巨体と、無惨に折れ曲がった自らの剣を、苦々しげに見つめ直していた。


「隊長ー! もうそろそろ死体処理部隊が到着する頃ですよー! 邪魔になるんで早く乗っちゃってくださーい!」


 飛空船のハッチから身を乗り出した如月さんが、地上に向けて声を張り上げた。


「あぁ、今行く!」


 隊長が地を蹴り、タラップを駆け上がってくる。俺たち3人を乗せた飛空船は、重低音を響かせながらゆっくりと浮上し、謎の組織『ガイア』へと向けて進路を取った。


 ぐんぐんと高度が上がっていく。俺は窓の外に目をやった。眼下に広がる街並みは、あの化け物によって無惨に破壊され、ところどころから黒い煙が立ち上っている。


 たまらなくなって、俺は隣に座る如月さんに声をかけた。


「あの……『ガイア』って、一体なんですか? それに、俺の父さんと母さんは……無事なんですか?」


 俺の問いかけに、如月さんは少しだけ表情を曇らせ、窓の外の凄惨な景色を見つめた。


「君のご両親については、今の段階ではわからない。これから別の部隊が被害のあったエリアの生存確認を徹底的に行うから、無事かどうかはその後に判明するよ。……ただ、正直に言うね。あの状況だし、あまり期待はしない方がいいかもしれない」 


淡々とした、だけどプロとしての現実的な言葉だった。


 俺は何も言えなくなり、膝の上で拳を強く握りしめた。息が詰まるような沈黙が、俺たちの間に流れる。


(……わかってる。本当は、最初からわかってたんだ。目の前にあの化け物が現れて、二人は身を挺して俺を庇ってくれた。そのあと、あの化け物が俺を追ってゴミ箱までやってきたってことは、つまり、父さんと母さんはもう……)


 最悪の結末が頭をよぎり、胸が引き裂かれそうになる。そんな俺の様子を察してか、如月さんが努めて明るい声で話しかけてくれた。


「あ、でも『ガイア』についてなら、いくらでも教えてあげられるよ!」


 如月さんは指を一本立てて、丁寧に説明を始める。


「簡単に言うとね、ガイアはさっきみたいな化け物を専門に倒す組織のコミュニティなんだ。組織の中には、化け物を狩る『討伐部隊』と、戦場の後片付けや情報隠蔽をする『死体処理部隊』、それから負傷者の治療を行う『医療部隊』の3つがあってね。討伐部隊にはさらに3つの小隊があって、出撃状況や、化け物との戦闘相性なんかで、誰が出撃するかをパパッと決めてるんだよ」


 如月さんの話によると、実はあの虎の化け物と遭遇したのは今回が初めてではないらしい。


 以前、別の隊員たちが対応したものの、圧倒的なスピードで逃げられてしまったのだという。だからこそ今回は、その速さに対抗できる「討伐部隊の隊長」であるこの男が出撃したのだ。


「……他にも戦える大人がたくさんいるなら、なんで、もっと大勢で化け物退治に来なかったんですか?」


 俺の素朴な疑問に、答えたのは如月さんではなかった。


「目撃情報から、以前逃げられた虎型の化け物だと判明していたからだ」


 医療部隊の隊員さんに傷の手当てをしてもらいながら、化け物を仕留めた張本人――隊長が、シートに深く背を預けたまま口を開いた。その鋭い視線が俺を真っ直ぐに捉える。


「あらかじめ奴の能力を知っていたからこそ、対策を絞った。あの虎型のスピードに付いてこられない者を連れていけば、ただの足手まといにしかならないからな。だから今回は、俺たち二人だけで討伐に向かったんだ」


「ごめんねー! 時間ないから事情聴取を始めちゃったけど、そういえば肝心の自己紹介がまだだったね」


 如月さんが「あはは」と人懐っこい笑みを浮かべた。


「私は如月カレン。よろしくね!」


「あ、はい……一ノ瀬タクマって言います。よろしく、おねがいします」


(俺はとりあえず、大人の顔色を窺うような返事を返した。)


「そんでー、あっちで仏頂面して座ってるのが、うちの部隊長の三神優みかみ すぐる。その隣で手当てをしてくれてるのが、医療部隊の副隊長、立花六花たちばな りっかさん」


「あ、ど、どうも……」


 紹介された二人に軽く会釈を返す。とりあえず助けてもらった恩はあるけれど、こんな物々しい人たち、聴取が終わったらすぐにさよならなのに...。


 胸をざわつかせる嫌な予感から必死に目を背けた。



 そうこうしている間に、飛空船は目的地へと到着した。



 重厚なハッチが開く。目の前に現れた『ガイア』と呼ばれる施設は、何重もの強固なセキュリティに守られた、不気味なほど物々しい要塞だった。


 促されるまま施設の中へと入り、エレベーターで奈落のような地下へと深く、深く降りていく。長い無機質な通路を進んだ先で、俺たちは広大な大広間へと出た。


 不意に、前を歩いていた三神隊長がピタリと足を止め、振り返った。その冷徹な眼光が、俺の身体を射抜く。


「一ノ瀬と言ったな。――君には、二つの選択肢がある」


 三神隊長は淡々と、だが取り付く島もないほど重い声で告げた。


「ここの牢屋で一生を過ごすか。あるいは、俺たちと共にあの化け物どもと戦うかだ。好きな方を選べ」


 唐突に突きつけられた、あまりにも狂った2択。頭が真っ白になり、声が裏返った。


「へ? ……冗談、ですよね? 俺、これから帰れるんですよね? だって、聞かれたことは全部話したし、これ以上俺がすることなんて――」


 必死に言葉を紡ごうとする俺を、三神隊長の声が冷酷に遮る。


「君が目撃したあの化け物を、ここでは『UMA』と呼んでいる。あんな化け物が世の中に存在していると知れば、国家は大混乱に陥るだろう。それを避けるため、政府は非公式にこのUMA討伐組織ガイアを設立した。端的に言えば、秘密裏にすべてのUMAを駆逐せよ、ということだ。だから――君が外で見たことを話されては困る」


 三神隊長は一歩、俺へと近づく。


「目撃者が一人なら、頭のおかしい奴のホラ話で処理できる。だが、何人もが同じ証言を始めたらどうなる? 分かるだろう。君はもう、今までのような普通の生活には戻れない。だが――戦う道を選ぶか、自由のない檻を選ぶか、その選択の権利だけは君にある」



 世界が静まり返ったかのような、長い、長い沈黙が訪れた。



 三神隊長の鋭い視線が、じっと俺の答えを待っている。


「戦うことを選べば、さっきのような化け物と今後、死ぬまで戦い続けなければならない。命がいくらあっても足りないだろう。まともな人間なら、檻を選ぶ。そんな選択をするのは愚か者だけだ」


 三神隊長はそこで言葉を一度区切り、眼光の奥に熱い何かを宿らせた。


「だが……戦う『理由』があるなら話は別だ。俺にはそれがある。だからここにいる。――君はどうだ? 命を懸けて戦う理由が、そこにあるか?」


 俺は、ただただうつむくことしかできなかった。


(そんな理由……俺に、あるわけないだろ)


 爪の先から血の気が引いていく。


 なんて理不尽な2択だ。

 どう考えたって、死ぬ危険のない牢屋の方がマシに決まっている。


 これまでの人生、やりたいことも、目指すべき目標もなかった。ただ漠然と、流されるように毎日を過ごしてきただけの、普通の高校生なんだ、俺は。


 最初は、本気で逃げるつもりだった。檻の中で一生を過ごす方が、あの恐怖を二度と味わわずに済む。


 なのに。


 暗闇に閉ざされた胸の奥底で、何かが激しく、狂ったように叫び声を上げた。



『タクマ、振り返らずに走れ!』



『ここはお母さんたちがなんとかするから!』



 頭の奥で、お父さんとお母さんの最後の声が響く。悲鳴を堪えて、俺を逃がすために肉を引き裂かれたお父さんの顔が、涙の向こうに浮かび上がってくる。


(二人の想いを……あの命を、無駄にしてたまるか……っ!)


 逃げて生き延びるだけの人生なんて、絶対に嫌だ。


 俺はもう、俺みたいな無力な犠牲者を、絶対に増やしたくない。


 俺も、あの二人のように――誰かを守るために戦うんだ。


 それが、どんなに絶望的で、過酷な茨の道であろうとも。


「……あんたみたいに、覚悟が決まった立派な理由なんて、俺にはない」


 俺はゆっくりと顔を上げ、涙を袖で乱暴に拭った。


 震える拳をこれ以上ないほど強く握りしめ、三神隊長の目を、真っ直ぐに見据える。


「立派な理由なんてないけど……俺は戦う! 最後まで足掻いて、戦って、生き延びてやる!」


 腹の底から、絞り出すような咆哮が響いた。


「俺は戦う! あの化け物どもを全部この手でぶっ倒して、こんな最悪な悪夢は、俺が絶対に終わらせる……!!」


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