25.鉄壁要塞——陥落
空中で吹っ飛んだ俺の体を、五十嵐さんがしっかり受け止めてくれた。
(奴の甲羅は砕けたのだろうか?)
手応えはあったが、反動で吹っ飛んでしまったため、どうなったかまではわからなかった。
「大丈夫か、坊主!?」
「はい、ありがとうございます、五十嵐さん。ただ、3発使うとリロードしないといけなくて、しばらく動きが止まってしまうんです」
「任せろ!俺の後ろに下がっとけ」
五十嵐さんの後ろに下がった。パイルバンカーを3発打ち込んだためリロードする。自動で前腕部分のフレームが中折れした。
プシュゥゥゥゥーーーッッ!!
高熱の蒸気が噴き出す。火薬の爆発によってかなりの熱を帯びている空薬莢を3つ排出した。
カラン、カラン、カラン
俺は腰につけた予備のカートリッジを鷲掴みにして、強引に留金を引きちぎった。
バリィィーーン!
金具が弾け飛ぶ。そして、スピードローダーでカートリッジを素早く押し込みリロードした後、俺は無造作に空になったスピードローダーを放り投げた。
ガン!カラカラカラン
最後に左手で前腕の開いたフレームを閉じる。
ガシャアァン!
リロードを終えた頃、煙も晴れて敵の姿が見えた。辺りには甲羅が散らばっており、どうやら無事に亀型の甲羅を砕くことに成功したようだ。
(よし、これでもうさっきの技は通用しないぞ)
亀型UMAはこちらを鋭く睨んでいた。その顔はものすごい剣幕で、殺意が隠しきれず表に滲み出てきているのがわかる。
「こちら五十嵐、奴さんの甲羅を砕くことに成功。しかし、相当怒らせてしまったらしい。ここから本気になって何か仕掛けてくるかもしれません」
『了解。奴の戦闘スタイルが変わらないようなら、同じ戦法でいけ』
「了解」
三神隊長への報告をした後、亀型は砕け散った甲羅の破片を捕食し始めた。
「何をやってるんだ、奴さん?」
五十嵐さんが理解できない様子で、その捕食を見ていた。
次の瞬間、切り落とした亀型の両腕の切断面が沸騰したようにボコボコと細胞が膨れ上がっていく。切断面から徐々に細胞が構築されていき腕の形になっていく。
「再生している!?」
やがて亀型の両腕は完全に再生した。しかも、再生した腕は甲羅と同じ色艶で、パッと見たところ甲羅と同じ成分でできている腕のように見えた。
(まさか、捕食した甲羅を取り込んで、失った部位を捕食した成分で再生した!?)
「こちら五十嵐、奴さんの腕が再生した!砕けた甲羅を捕食した後——」
三神隊長へ腕が再生したことを報告中、鈍足と思われた亀型が一気に間合いを詰めてきた。
ガキィィィンッッッ!!!
激しい金属音が鳴り響き、五十嵐さんの足場が踏ん張りによって猛烈に凹んだ。
ボゴンッッ!!
「奴さん、急に早くなりやがった!?」
亀型は再生した両腕で激しく、五十嵐さんに拳を連打する。
ガガガガガガガガガッッッッッ!!!
五十嵐さんはガードしていて反撃できない、このままだと押され続けてしまう。
途中で無線のやり取りが途切れたことを異変に感じて、三神隊長から連絡が来る。
『こちら三神、五十嵐大丈夫か!?今如月を次の狙撃地点へ向かわせている。なんとか耐えてくれ』
(俺がパイルバンカーで仕掛けるしかない!)
五十嵐さんへ激しいラッシュを繰り出す亀型の脇を狙うように、俺は飛び出してパイルバンカーを撃ち込む。
「くらえぇーー!」
それを見て亀型は左腕の硬質化している再生部位で防いだ。
ドッガアァァァァァーーーーンッッッ!!
左腕で塞がれてしまったが、防いだその左腕は完全に砕け散った。
(防がれたけど、これでラッシュスピードは落ちる)
撃ち込んだ後すぐさま距離をとって下がった。
亀型がパイルバンカーを受けた衝撃で一瞬動きが止まった隙に、五十嵐さんも距離を取る。
「一ノ瀬、俺の大剣に乗れ。離れた位置から攻撃するにはこれしかない」
「大剣に乗るんですか?」
何をするのか疑問に思いながら、言われた通りに乗る。
「さっきの奴さんの一気に間合いを詰める動き。足じゃなくて再生した腕で地面を蹴るようにして、前に飛び込んだんだ、オランウータンみたいに」
亀型は五十嵐さんが言ったように、今度は片腕だけだが地について構えている。
「いくぞ、坊主!」
五十嵐さんは思いっきり大剣を亀型へと振りかぶり、俺はものすごい勢いで亀型へと飛んでいった。
(はやい!一気に間合いが詰まった、もう構えないと)
気づけばもう亀型がすぐ目の前まで迫っていた。亀型もこちらが一気に間合いを詰めてくるとは思っていなかったのか、反応はしたが対応できていなかった。
俺は腕を突き出しパイルバンカーを亀型の胸に撃ち込んだ。
ドッガアァァァァァーーーーンッッッ!!
パイルバンカーからものすごい蒸気が噴射されている。
プシュゥゥゥゥーーーッッ!!
パイルバンカーは決まった。しかし、胸はさらに表面が硬く貫くことはできなかった。それでもダメージは入ったのだろう、亀型は衝撃で後ろに転がるように倒れ込んだ。
「やったか!?」
五十嵐さんが期待するが、撃ち込んだ俺には手応えでわかっていた。
(まだだ、まだ終わっていない。残り1発、確実に奴を倒せるところに撃ち込まなければ。絶対に外せない...)
6発あったパイルバンカーのカートリッジは、もう残り1発のみ。次で仕留めなければとプレッシャーを感じる。
俺はまた距離を取り五十嵐さんの後ろまで下がる。
「坊主!奴さん、倒したか?」
「いえ、まだです。まだ奴は生きてます」
「そうか、ならもういっちょいくか」
五十嵐さんが横に並び立ち、大剣の先を俺の足元の方へ向けるように下ろした。
「実はさっきの2発、撃つまでの間が早かったため今オーバーヒート気味です。しばらく冷却のために間を空けないといけません」
パイルバンカーからまだ蒸気が噴き出している。そして、亀型がゆっくり立ち上がり、前傾姿勢に構える姿が見えた。
「そうか、なら次撃てるまで俺が時間を稼ぐ」
そう言って、五十嵐さんが俺の前に出て大剣をまっすぐ構える。
「時間はどのくらい必要だ?」
「おそらく20秒から30秒くらいだと思います」
「結構長いな。仕方ない、坊主は俺の後ろに下がっておけ」
亀型は右腕を地につけると、腕の力を使って一気に間合いを詰めてきた。そして、その勢いに乗って右拳を繰り出す。
ガキィィィンッッッ!!
右腕の再生部位も甲羅と同じ成分でできているのだろう、大剣と衝突してものすごい音が鳴り響いた。
亀型が突っ込んできた勢いで、五十嵐さんが地面に食い込むように踏ん張る。
しかし、先ほど両腕によるラッシュを防いでいたため、かなりの疲労が溜まっているのだろう。衝突に耐えているが徐々に踏ん張りが効かなくなって後ろに下がっていく。
(まだ10秒も経っていない。このままじゃまずい。でも、俺に攻撃手段はない。クソッ、我慢だ耐えろ、五十嵐さんを信じて耐えるんだ)
俺は後ろで戦闘の様子をただ眺めることしかできなかった。
亀型は右腕だけだが、止まることなく殴り続ける。正面から五十嵐さんが大剣で防いでいる。
10秒くらいが経ち、亀型は決着をつけようとした。一度下がり五十嵐さん目掛けて勢いよく飛び掛かる。そして、上から叩き潰すように拳を繰り出した。
ドゴオォォンッッ!!
五十嵐さんはこれを防ぐが、地面が衝撃で割れる。大剣を頭上に構えて左手で支えるようにして耐えている。
「ふんぐぐぐぐぐぐっっーーああぁぁーー!!」
五十嵐さんが全力でこれを耐えた。
(すごい!上からのあの衝撃を受け止め切るなんて。これなら間に合いそうだ、あと10秒くらいだ)
10
しかし、亀型はそのあとスマートに着地して次の攻撃に移る。右腕の裏拳が五十嵐さんの脇腹を襲う。
ドゴォン!
五十嵐さんは上からの衝撃を耐え切ったが、もう次の攻撃に対応できるだけの力は残っていなかった。払われるようにして、五十嵐さんの体は勢いよく俺の視界から消え去った。
「五十嵐さん!」
亀型がこちらを睨みつける。
「これで邪魔者はいなくなった、死ね!」
亀型が大きく息を吸い込み口を膨らませた。その瞬間水流ビームが来ると直感した。
5
(このまま距離をとっていてもビームを撃たれ続けて負ける。ここで一気に仕掛けるしかない!)
俺は勢いよく走り出してビームを避けた。
そのまま、右側から回り込むようにして間合いを詰める。
(残り1発。狙うなら、確実に仕留められる頭だ!)
3
亀型が右腕で攻撃を仕掛けてくる。俺は一度飛び退き回避した。
ズドォーーンッ!
2
(このまま突っ込んでも撃てるかわからない。けど!信じてこのまま突っ込む!)
亀型にパイルバンカーを撃ち込むため、まっすぐ突っ込む。
1
「くらえぇぇぇーーーっっ!!!」
もうパイルバンカーが届く距離まで詰まり、拳を繰り出そうとした。その瞬間、敵の右ストレートの完璧なカウンターが飛んできた。
(このままだと先に奴の攻撃をくらって吹っ飛ぶ。そうなったら、俺のパイルバンカーはまた空振りで終わる。そして、これが最後の1発だ。もう倒す術はなくなる)
亀型の拳が届くまでの一瞬で最悪の場合の考えがよぎった。
しかし、その絶望を撃ち貫く一筋の弾丸が放たれた。
ダン!
音が聞こえた時には亀型の腕は引きちぎれて吹き飛んでいた。
0
「いっけぇぇーーーっっ!!」
俺は拳を突き出し、亀型のこめかみに当たる瞬間——パイルバンカーが起動した。
ドッガアァァァァァーーーーンッッッ!!!
腹や胸とは違い、亀型の頭にはパイルが貫くように突き刺さった。手応えからも、これで勝ったと確信した。
(よし!決まった、確実に仕留めた!)
なんとかオーバーヒートから次弾を撃つまでの時間を稼ぎ、決定打を打ち込むことができた。
そう思った時だった。
亀型が右足で強く踏ん張った。
ズザザザザァァァッッッ!
踏ん張って立ち止まった後、パイルの衝撃で仰け反ったままこちらをゆっくりと睨みつけた。
ゾクッ
俺はゾッとした。確実に仕留めた、その手応えはあった。しかし、こいつはそれでもなお倒れずにこちらを睨みつけている。
俺は恐怖で体が動かなくなり頭が真っ白になっていた。
(なんで倒れない!?もうパイルバンカーは撃ち尽くした。打つ手はない)
俺は動けずに、ただただ亀型の睨みつける目を見ているだけだった。
『.....くん!タクマくん!早くそいつから離れて!こっちからだとタクマくんが亀型に隠れて見えない!』
亀型の右手側から如月さんは狙撃していたようで、今如月さんと亀型と俺が一直線に並んでいる。俺の体が亀型で隠れてしまっていて、誤射を避けて撃てないみたいだ。
だが、如月さんの声のおかげで正気に戻った。
(こいつ、死んでいる・・・)
この亀型はもうすでに死んでいた。立ったままこちらを睨みつけて死んでいたのだ。すでに亀型の目からは光が消えていた。
「こちら一ノ瀬、亀型討伐完了しました」
『よかったよータクマくん!はぁー、間に合ってよかったー』
如月さんが三神隊長よりも早く返事を返した。そして、遅れて三神隊長が応える。
『了解。一ノ瀬、真一を頼む。俺は真二を回収する。如月、五十嵐の回収を頼んだ』
俺はそこで、ずっと倒れ込んだまま立ち上がらなかった二人のことを思い出した。極限状態ですっかり忘れていた。
「真一さん!真二!」
俺は急いで真一さんの元へ駆け寄る。
(よかった、息があるし脈もある)
ビームによる体の傷はあるが、なぜかもう傷はほとんど塞がっていた。
(まさか、UMA細胞で肉体の強化だけじゃなくて傷の修復や再生までしているのか!?)
もしそうなら、自分の体はもうほとんど化け物と同じなのかもしれない。そんなことを考えてしまった。
三神隊長も合流し、真二くんを担いだ。俺も真一さんを担ぎ、如月さんが五十嵐さんを担いできた。
飛空船からラダーが降りてきて、順番に搭乗した。ちょうど真一さんの意識が戻った。
「・・・倒したのか?」
「はい、倒しました」
「フッ、そうか。やるじゃねーか」
真一さんは、弱々しくそう言った。
飛空船の簡易治療室で3人が治療を受ける。真一さんと真二くんはほとんど傷が塞がっていたためすぐ終わった。
五十嵐さんは、筋断裂や骨折をしていたため、少し長い応急処置を施されていた。
(みんながここまで繋いでくれた。真一さんが右腕を真二が左腕を負傷させたことで五十嵐さんが両腕を切り落とせた。そして最後まで俺を守ってくれたことでここまで来れた。如月さんの狙撃のおかげでトドメの一撃を決められた。)
みんなが勝利に導いてくれたことを実感しながら、俺のパイルバンカーを使った実戦は幕を閉じた。




