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15.シールドだけの戦闘劇


 鳥型がふたたび油酸を吐き出すと直感し、山方小隊長と九十九さんの身を守るべく、すかさず巨大なシールドを前方へ構え直す三神隊長と清乃女さん。



 ――しかし、怪物の嘴から放たれたのは、緑色の濁流ではなく、爆音を伴う紅蓮の『炎』だった。


(……え!? 嘘だろ!?)


 ビル影の狙撃地点から見ていた俺の視界が、一瞬で真っ赤に染まった。


 戦場は一瞬にして逃げ場のない大爆発と、凄まじい炎の海へと変貌を遂げた。


『ぐわあああああーーーッッ!! ぐっ、ふ……あ、熱い……っ!!』


 インカムから、前線のメンバーたちの悲痛な絶叫が響き渡る。


 隊長たちが身を挺してシールドを構えていたおかげで、炎の直撃そのものは避けられたようだった。


 しかし、周りに溜まっていた油酸が猛烈に引火して足元を焼き、空気を、そしてメンバーの肉体を限界まで加熱していく。


『このままでは熱でスーツが持たない! 総員、一旦退避だッ!!』


 三神隊長の苦渋に満ちた号令。山方小隊長と九十九さんは無念の表情で鳥型の身体を縛っていた鎖とワイヤーを解放し、全員が猛火から距離を取るために飛び退いた。


 自由を取り戻した鳥型が、勝ち誇ったように巨大な翼を広げる。

 炎の渦を背に受けながら、再び上空へと逃れるべく力強く羽ばたき、宙へと飛び立った――その、瞬間だった。




 ――ダン! ダン! ダン!



 俺のすぐ真隣で、鼓膜が破れそうなほどの激しい銃声が3連続で轟いた。硝煙の匂いが鼻を突く。スーツの力でものすごい反動を強引に押さえつけていた。


「――逃がさない……っ!!」


 このまま空へ逃せば、もう二度と捕縛することはできない。そう瞬時に判断した如月さんが、飛び立つ鳥型を逃すまいと、アンチマテリアルライフルの引き金を凄まじい反動と共に限界まで引き絞ったのだ。


 弾丸は敵の急所こそ外したものの、凄まじい質量の一撃は3発すべてが鳥型の巨大な羽へと正確に命中していた。


『ギエェェェェーーーッッ!?』


 翼をズタズタに引き裂かれた鳥型は、空中で激しくバランスを崩し、再び地上へと真っ逆さまに墜落していった。


『九十九! 奴の逃走経路をこれ以上広げるな、ワイヤーで絞れ! ――絶対に、ここで奴を仕留めるぞッ!!』


 墜落の音を聞くやいなや、山方小隊長が咆哮した。彼は三神隊長の手から半ば強引にシールドを奪い取ると、なんと一人で激しく燃え盛る炎の海の中へと真っ直ぐに突っ込んでいった。


『クソっ、無茶しやがって! 俺たちも炎を迂回して奴を追うぞ!!』


 隊長の声が響く。


(……そうか。あの人は、最速で化け物を殺すためなら、自分の命すらチップにして突っ込める人なんだ。迂回して時間をかければ、それだけ街の被害が増える。それになにより、化け物が如月さんへ向かえば如月さんのリスクが増える。自分の肉体を犠牲にしてでも、1秒でも早くUMAを仕留める――それこそが、山方さんの『最小限の犠牲』の形なんだ……っ!)


 一人で猛火を突っ切る山方小隊長は、奪ったシールドで正面からの炎を防いでいたが、高熱のせいで特殊スーツが限界の悲鳴を上げているのが無線越しにも伝わってくる。


『チッ……! もうこのシールドはダメか!』


 高熱によってグニャグニャに折れ曲がり、真っ赤に赤熱してドロドロに溶け始めたシールドを、山方小隊長は容赦なく地面へと投げ捨てた。


 炎の向こうでは、墜落した鳥型が苦しげに悶えていた。如月さんの放った大口径の弾丸により、奴の右翼は完全に機能を引き裂かれ、右腕にも3発の銃創が深く刻まれて血を流している。


『流石は如月だ。捕縛すら完全に外れたあの最悪の状況で、よく逃さずに3発も撃ち込みやがった!』


『狙撃手まで隠していたとはな……。人間如きが、用意周到なことだ……っ!』


 鳥型が右腕の痛みに耐えながら、鋭い眼光で俺たちの立てこもる廃ビルを睨みつける。


『如月が残してくれたこのチャンス、絶対に無駄にできねえええぜッ!!』


 山方小隊長が武器を構え、満身創痍の鳥型へと猛然と突っ込んでいく。しかし、鳥型は正面からの攻撃をすべて紙一重でかわしてみせた。


『どうやら……俺にとって本当の脅威は、目の前のお前らではなく、あの遠くに隠れている狙撃手のようだな。――先にそいつから、跡形もなく始末させてもらう!!』


 化け物は山方小隊長の胸元へ強烈な蹴りをお見舞いして弾き飛ばすと、狂気に満ちた瞳を完全にこちらへと固定した。


 そして――自身を撃ち抜いた銃声の方向へ向けて、凄まじい地響きを立てながら猛ダッシュを開始した。


『まずい……ッ!! 奴のターゲットが変わった! 如月の方に行ったぞ、全員追えッ!!!』


 迂回していた三神隊長たち3人が、血相を変えてこちらへと進路を反転させる。


 だけど、遠すぎる。炎を避けて遠回りしている隊長たちじゃ、あの速度で突っ込んでくる化け物には絶対に間に合わない。


(くる……こっちに、あの化け物が突っ込んでくる……っ!!)


 ドスドスと地面を揺らす足音が、急速に俺たちのビルへと近づいてくるのを感じる。

 一番安全だと思っていたこの狙撃地点が、一瞬にして、戦場で最も危険な最前線へと変貌を遂げていた。


 心臓が痛いほど脈打つなか、俺は震える手で、背負っていた巨大な大型シールドのグリップを、全力で、がっしりと前方に構え直した。


「如月さん、まずいです! こっちに向かって真っ直ぐ走ってきてます! 早く逃げないと……!」


 しかし、如月さんは取り乱すことなく、冷静にライフルのボルトを引いた。


「そうだね。でも逃げるのとは少し違うよ、タクマくん。鳥型がこっちに正確に向かってきたということは、さっきの狙撃で大体の『方角』を把握されたってこと。でも、流石にこの広さじゃピンポイントな位置までは分からないはず。……私たちが今いるこの部屋を、逆に上から狙撃できる別の建物へ先回りして移動するよ!」


(すごい……! ただ怯えて逃げるだけじゃなくて、そのあとにどうやって敵をハメるかまで瞬時に考えてる。如月さん、やっぱり本物のプロだ……!)


「――はいッ!」


 俺たちは姿勢を低くしたまま、廃ビルのキャットウォークを猛スピードで駆け抜け、隣接する別の商業ビルへと素早く身を潜めた。


「よし、ここからならさっきの屋上を一望できる。奴が顔を出した瞬間を撃ち抜くよ」


 如月さんが新たな狙撃ポイントに銃口を据え、俺たちは息を殺して怪物を待った。……しかし、十数秒が経った頃、如月さんの身体が不自然にこわばった。


「まずい……っ! 私たちの動きが、奴に完全にバレてる! こっちの位置が完全に筒抜けだわ……なんで!? なんでバレたの!?」


 俺の隣で、如月さんが初めて見せる激しく取り乱した様子、そしてその顔は青ざめていた。


 窓の外を見ると、満身創痍の鳥型は元いた屋上なんかには目もくれず、今まさに俺たちが潜んでいるこのビルへと、凄まじい勢いで向かってきているのが見えた。


(なんでだ? 姿は見せてないはずなのに。……あッ!)


 先の戦闘で三神隊長が言っていたことを思い出した。


「お、落ち着いてください如月さん! もしかして奴は、隊長が言っていた『音』を聞いてるんじゃないですか!?」


「――そうか! 九十九くんの見えないワイヤーを避けていたのも、風を切る音を聴いていたから……! 私たちの足音だわ! このスーツ、耐衝撃や耐熱耐酸性のための素材のせいで、スーツだけで30~40キロもある! それに君のその大型シールドに、私のアンチマテリアルライフル……。音で位置がバレているなら――その耳の良さを、逆手に取ってハメてやろう。タクマくん、こっからのやり取りは全部ひそひそ話ね」


 如月さんは不敵な笑みを浮かべ、俺の耳元で素早く作戦を囁いた。


 ひとまず俺たちはその場から静かに移動を開始する。二手に分かれる廊下に差し掛かったところで、俺たちは一度、右側の通路へと力強く足を踏み出した。


 そして、俺は通路の左側へとさらに移動した。




 ドサドサドサッ、と階段を破壊しながら、鳥型UMAが俺たちのいるフロアへと駆け上がってくる。


『どっちだ……? どっちが、あの忌々しい狙撃手だ? 右か、左か……』


 怪物の鼻息が、廊下の角の向こうから聞こえてくる。俺の心臓は爆発しそうなほど跳ね上がっていた。


『……ふん、音からして、左へ向かった足音のほうが圧倒的に重く、大きかったな。あれだけの火力を出す大口径の弾丸だ、携行するライフルも相当な重量があるはず。だとしたら――左が本命かッ!!』


 鳥型は二手に分かれる通路の分岐点まで来ると、左側に狙撃手がいると確信して勢いよく首を突っ込んできた。


 しかし、そこにいたのは。


「――そこまでだ、化け物」


 大型シールドを全力で地面に固定し、覚悟を決めて立ちはだかる、俺の姿だった。


『チッ……ハズレか……っ!』


 鳥型は舌打ちするなり、俺の足元へ向けて大量の油酸を吐き出した。その後間髪入れずに嘴を素早く擦り付けて、火花を散らして油酸を吐いた。それは火花に引火し、紅蓮の炎となって吹き付けた。



 ドガァァァンッ!!



と、俺の目の前で激しい爆発が起きる。シールド越しに凄まじい衝撃と高熱が全身を襲い、俺は歯を食いしばって衝撃に耐えた。


『これで邪魔はできまい。狙撃手は右の通路だったかッ!』


 目の前に猛烈な炎の壁を作り出し、俺を隔離したと確信した鳥型は、今度こそ如月さんを殺害するために右側の通路へと直接距離を詰めようとした。


 奴が背中を向けた、まさにその瞬間、俺はハンドサインを出した。



 ――ダン! ダン! ダン!


 俺の後方――つまり、鳥型が「俺以外誰もいない」と思い込んで背を向けていた左側の通路、その先の部屋に潜んでいた如月さんが、炎の壁越しに鳥型の位置を瞬時に推測して発砲、如月さんのアンチマテリアルライフルが激しい火を噴いた。


 大口径の弾丸が炎の壁を猛烈な勢いで貫通し、3発のうちの1発が、鳥型の無防備な背中へと深々と命中した。


『ガハッ……!? な、ぜだ……なぜ、そっちにいる!? お前たちは右と左に、二手に分かれたはずでは……っ!?』


 背中を撃ち抜かれ、どす黒い血を吐きながら鳥型が驚愕に絶叫する。


 背後から、硝煙を纏った如月さんの凛とした声が響いた。


「一度右側の通路へ二人分の足音を響かせたあと、タクマくんに私の身体を丸ごと担いでもらって、一人分の足音で左側の通路へ移動したのよ! だから、右側の通路には最初から誰も残ってないわ!」


 スーツ2人分と超重量のライフル。その合算された凄まじい重量の足音が左側へ向かったからこそ、鳥型の鋭い耳は「重いライフルを持った狙撃手が左へ行き、囮が右に残った」と誤認したのだ。


 確かに狙撃手は左側にいたが、鳥型は左右に一人ずついると誤認していたため、シールドを持った俺を見て如月さんが右にいると判断したのだ。


 大きな武器を持たず、シールドしか持っていない俺だからこそ成立した、敵の特性を完璧にハメ殺す知略の勝利だった。


『だから……左へ向かう足音が、やけに大きかったのか……っ!』


 化け物は悔しそうに歯ぎしりをする。


 如月さんと俺のいる奥の部屋は完全な行き止まり。しかも、俺の目の前で起きた大爆発のせいでこの部屋唯一の出口が激しい炎で塞がれてしまった。


「ごほっ、ごほっ……! やばいです如月さん! 炎に空気を奪われて、どんどん酸素が薄くなってきてます!」


「よし! タクマくん、ここから脱出するよ!」


 如月さんはすかさず、部屋の大型窓ガラスに向けてアンチマテリアルライフルを至近距離でぶっ放した。轟音と共にガラスが粉々に砕け散り、外の世界への強引な出口が切り開かれる。


「如月さん、ここビルの6階ですよ!? 流石にここから生身で飛び降りたら、無事じゃ済まない気が――」


「タクマくん! 君の持ってるそのシールドを『ソリ』代わりにするの! ビルの側面を削りながら滑り降りるよ!」


「なるほど……っ!」


 その言葉に、シールドを戦闘での盾としてだけでなく、脱出用途で摩擦による衝撃緩和に使うおうとしていることに気づいた。


「シールドをソリにして、ビルの壁面を削りながら落ちれば、摩擦で減速出来る!しかも、この強度のシールドなら壊れずに落下の衝撃もかなり抑えられる! 完璧ですよ、如月さん!」


「いくよ、タクマくん! 私の身体をしっかり支えて!」


「――はいッ!!」


 俺たちは二つのグリップを死に物狂いで握り締め、巨大なシールドの裏側に身を隠すようにして、割れた窓からビルの外壁へと決死の跳躍を敢行した。



 ガガガガガガガガガガッッッ!!!



 鼓膜を引き裂くような、凄まじい金属の摩擦音が夜の街に響き渡る。


 ビルの壁面が激しく削れ、目の前を真っ白な火花が星のように埋め尽くしていく。全身の骨に響くような凄まじいガタガタとした衝撃に耐えながら、俺たちはシールドをソリにして、垂直の壁面を猛烈なスピードで滑り降りていった――。



 ガガガガガガガッ!



 ドーーンッッ!!



凄まじい衝撃と共に、俺と如月さんはビルの壁面を削りながら地表へと着地した。シールドのおかげで落下の衝撃は見事に抑えられ、俺たちは無事地上へ生還した。





 その頃、俺たちが脱出した6階の奥部屋では、背中を撃ち抜かれた鳥型UMAがどす黒い血を吐きながら焦燥に駆られていた。


『くっ、まずい。こっちの部屋も酸素が薄くなってきている。それに、下からあの忌々しい奴らが登ってきている……。ここを脱出せねば!』


 危機を察した鳥型は、即座に自身の周囲の床へ大量の油酸を吐き散らし、コンクリートをドロドロに融解させ始めた。


 直後、部屋の外の通路へ、下層から炎を迂回してきた三神隊長、清乃女さん、九十九さんの3人が猛スピードで辿り着く。


『――6階最奥通路、右側の部屋だ!』


 三神隊長が、移動中に如月さんが入れていた無線連絡を元に、迷わず部屋の扉を蹴り開けた。


『あこやわッ!』


 清乃女さんが双剣を構え、黒煙のなかに鳥型の姿を捉える。


『逃がさない……!』


 九十九さんが両手を広げ、部屋の出口を塞ぐように極細のワイヤーを一瞬で張り巡らせた。


『もう逃げられんぞ、化け物!』


 三神隊長が2本の片手剣を構え、トドメの一歩を踏み出す。


 だが、知略に長けた鳥型は不敵に嘴を歪めた。


『一足遅かったな、人間ども。さらばだ!』


 鳥型は油酸によって腐食し、強度の落ちた床をおもいっきり踏み抜いた。バリバリと音を立てて床が崩壊し、奴の巨体は九十九さんのワイヤーに触れることなく、下の階へと脱出したのだ。


『追うぞッ!』


 三神隊長が咄嗟に崩れた穴へ飛び込もうとした、その瞬間。

 床の穴の向こうから、凄まじい爆炎が吹き上がった。鳥型が下の階へ降りた刹那、自分が床を破壊するために放った油酸に向けて、炎のブレスを吹き付けたのだ。


『クソッ! 遅かったか! 階段だ、下の階へ降りるぞ!』


 3人は急いで通路へ引き返し階段へと向かうが、下層から猛烈な勢いで競り上がってきた炎の壁が、すでに彼らの行く手を完全に阻んでいた。


『――すまん、こちら三神。敵の罠に阻まれた。目標をロスト!』


 インカムから悔しげな隊長の声が響く。


 すでに別のビルの中へと移動し、安全を確保していた俺と如月さん。報告を聞いて如月さんが拳を握り床を叩いた。


「了解、隊長。まだ奴はビルの中にいます! 今、4階から内階段を猛スピードで下りているところです!」


『了解した。……なら、今度は俺がそっちへ向かってる。もう着くぜ』


 無線に割り込んできたのは、あのシールド片手に炎の海を真っ直ぐ掻い潜った、山方小隊長の声だった。



 ドゴォン!



と1階のガラス扉を突き破り、満身創痍の鳥型UMAがビルから外の通りへと飛び出してきた。翼はズタズタで右腕からも血を流し、さらには背中と腹部からも血を流して、息は完全に上がっている。


 その怪物の目の前に、全身から凄まじい闘志のオーラを放つ一人の男が立ちはだかった。


『……またお前か。しつこい奴だ』


「俺は諦めが悪くってよお……! テメェにコケにされて、蹴飛ばされたままじゃあ、終われねえんだわ!!」


 山方小隊長は太い鎖をブンブンと恐ろしい音を立てて振り回しながら、ゆっくりと、確実に化け物へと近づいていく。


『懲りない奴め、死ねぇッ!!』


 鳥型が反撃のために大きく息を吸い込む


 だが、奴の嘴から酸や炎が放たれるよりも早く、山方小隊長の放った鋼鉄の鎖が、目にも留まらぬ速さで鳥型の巨体を締め付けた。


「させねえよ! ボロボロのお前には、もう何もできやしねえんだよ!! このまま全力で締め殺す!!」


 山方小隊長が両腕の筋肉を爆発させ、さらに強い力で鎖を引き絞る。


『ガ、ハ……っ……!』


 それでも無理やり何かを吐きつけようとする鳥型の動きを察し、小隊長は吐き出させまいと、手元の鎖を奴の喉元へと容赦なく巻き付けた。


 片方の先端は喉を、もう片方の先端は胴体を完璧に雁字搦めに締め上げ、鎖の中間地点をがっしりと掴む山方小隊長。そのまま、化け物の巨体を自分の方へと力任せに引き寄せる。


「もうテメェに、俺の鎖を突破するだけの力は残ってねえ。――死にな」



 メキメキメキッ!!!



 静まり返った街に、化け物の骨が木の枝のように粉砕される、悍ましい音が響き渡った。喉の骨を完全にへし折られ、鳥型UMAから抵抗する力が失われる。


 奴の巨大な首が、だらんと力なく垂れ下がった。


「テメェが脅威とも思わず見逃したザコに、トドメを刺される気分はどうだよ?...って、もう聞いちゃいねぇか。」


山方小隊長は一息ついた後、鳥型UMAの討伐報告をした。


『……ふぅ、終わったぜ。三神、報告よろしくな』


 インカムから、山方小隊長の荒い息遣いと共に連絡が入る。


『了解した。……こちら討伐隊、目標の討伐を完了。これより帰還する』


 三神隊長の冷静な声が、インカムの通信を締めくくった。

 その瞬間、俺の全身から一気に緊張の糸が抜け、その場にへたり込んだ。


(前線で、どんな凄まじい戦闘を経てあいつを倒したのか、その一部始終は俺の位置からは分からなかった。だけど……)


 俺は、自分の両手でしっかりと抱えていた大型シールドを見つめた。

 自分専用の武器すらまだない、シールドしか持ってないただの無力な新人だったけれど。敵の特性を見抜いて罠にハメたり、6階からの決死の脱出経路を確保できたり――。


(俺も……少しだけでも、みんなの役に立てたんだな……!)


 どっと押し寄せる強烈な疲労感と達成感のなかで、俺は確かに、自分の本当の初陣が幕を閉じたことを実感していた。


 家族を失ったあのゴミ箱の暗闇から、俺は一歩、確かに前へ進んだんだ。


 こうして、一ノ瀬タクマの本当の初陣は、静かに幕を下ろしたのだった。


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