13.真二との訓練の日々
それから数日間にわたり、俺は真二くんと地下の個人訓練場に籠もり、泥臭く基礎訓練を続けた。
戦闘のための訓練なんて、これまでの人生で一度も経験したことがなかった。自室に戻るなり、襲い来る猛烈な疲労感のままベッドへ倒れ込み、泥のように眠りにつく――そんな限界ギリギリの日々が続いた。
そんな過酷な日常の合間、俺は自室のベッドの上で、真二くんと話し合って絞り込んだ『理想の武器』の条件について、一人でじっくりと熟考していた。
今は仮の装備として汎用ロングソードを借り、敵の攻撃を受け流す練習を繰り返している。けれど、そろそろ自分の武器をちゃんと決定し、実戦への一歩を踏み出したい。
条件は出揃っている。素人の俺でも扱えるリーチの短さ。そして、化け物の硬い装甲を打ち破り、致命的なダメージを叩き出せる圧倒的な火力。
自分に扱えるか不安だったが、覚悟を決めた。
「……よし、決めた。俺の、俺だけの武器はこれだ」
天井を見上げ、拳を強く握りしめる。
俺には三神隊長や長月さんのような、洗練された剣の技術も軍人としての経験もない。だけど、そんな高度な技術がなくても使えて、一撃の質量が恐ろしく重く、前線の火力に確実に貢献できる武器。その具体的なビジョンが、脳内で明確な形を結んだ。
「早速、技術班に武器を作ってもらおう」
翌朝
俺は自分の武器の発注書を胸に抱き、以前如月さんに連れられて訪れた『死体処理部隊』の区画へと向かった。
いくつかの厳重なセキュリティゲートを抜け、影浦さんのいる開発室の前に立つ。
「すみません! 影浦さん、いらっしゃいますか!」
開け放たれた扉の向こうへ声を張り上げると、白衣を揺らしながら、奥の部屋から死体処理部隊長の影浦さんが顔を出した。
「おやおや。君は確か、前にカレンくんと一緒に来た新人くん……だったかな」
相変わらず、耳に心地よいとても穏やかで丁寧な声だった。なのに、その佇まいからは、自然と背筋が伸びてしまうような独特の圧力と存在感がひしひしと伝わってくる。
「はい! 一ノ瀬タクマと言います。今日は、俺の専用武器を作っていただきたくて伺いました」
「ふむ。もう自分の使いたい武器を決めたんだね。それで、一体どんな武器なんだい?」
俺は少し緊張しながらも、真二くんと考えて消去法で行き着いた武器のアイデアと、それを戦場でどのように使いたいのかを、身振りを手振りを交えて細かく説明した。
影浦さんは俺の拙い説明を遮ることなく、優しい笑顔のまま、深く頷きながらじっくりと聞いてくれた。
「なるほど、素晴らしい着眼点だ。……ただね、君が望むその一撃を実際に巨大なUMAに放った場合、ただ直接腕に取り付けただけだと、肉体にかかる反動や衝撃が強すぎて君自身の腕が粉砕されてしまう。だからね、衝撃を逃がすための構造上、少しサイズが大きくなってしまうけれど……そこは実戦の支障にはならないように工夫するから、安心してくださいね。タクマくんが戦場で何か複雑な操作をする必要はない。君の要望通り、自分のパンチを放つ感覚そのままの、直感的に扱える武器に仕上げてみせますよ」
「本当ですか!? よかった……っ、ありがとうございます!」
プロの技術者の太鼓判を押され、俺は胸のつっかえが取れたような解放感で、大きく息を吐き出した。
「いえいえ、これが私の仕事ですから。……ただ、君の腕をまるごと覆う特殊な『外骨格フレーム』の構造になるからね。専用のUMA細胞の適合調整も含めて、武器の完成には少しばかり時間がかかりそうだ。それだけは、あらかじめ承知しておいて下さい。――では、私は早速、設計と作成に取り掛かりますね」
影浦さんは楽しそうに微笑むと、俺の発注書を大切そうに抱えて、数々の機材が眠る奥の研究室へと戻っていった。
(……やっと、俺だけの専用武器ができる。これで俺も、あの化け物どもと対等に戦えるようになるんだ)
自動扉が閉まるのを見届けながら、俺は自分の右手をじっと見つめ、来るべき初陣への決意を新しく固めていた。
影浦さんの開発室を後にした俺は、その足で地下の訓練場へと向かい、今日も真二くんとの猛訓練に汗を流した。
「なにいっ!? タクマ、お前もう武器の注文出してきたのかよ! なににしたんだよ、教えろよ~っ!」
休憩中、真二くんがものすごい勢いで顔を近づけてしつこく問い詰めてくる。
「へへへ。それは武器が完成してからのお楽しみ。秘密だよ、ひ・み・つ!」
「ちぇー、ケチだなあ。一緒に考えた仲じゃんか、気になるだろ!」
「いいから、それより特訓再開しようぜ。俺も早く強くなりたいんだ。まずは最低限みんなの足を引っ張らないように、自分の身は自分で守れるようにならないとな!」
「……そうだな。俺だって、いつまでも兄貴に守られるばかりじゃいられねえしな!」
俺たちは再び汎用ロングソードと斧槍を構え、受け身や回避、相手の攻撃を武器の腹でいなす『受け流し』をメインにした実戦訓練に没頭した。
「そういえばさ、真二。討伐部隊って3つの小隊に分かれてて、扱う武器に合わせて所属が決まるって如月さんが言ってたけど、具体的にどういう分け方をしてるんだ?」
一歩下がり、息を整えながら疑問をぶつけてみる。
「ああ、分かりやすく言うなら基本は『武器のリーチの長さ』だな。近距離、中距離、遠距離で一応の班分けがされてるんだよ。……とは言っても、小型武器と大型武器じゃ戦闘スタイルがまるで違うからな。スピードと手数を活かして翻弄する戦い方と、一撃必殺の重い一撃で肉体を粉砕する戦い方じゃ、戦略も立ち回りも180度変わってくる。だから、ガチガチに規則で決まってるわけじゃねえんだよ」
「へえ、そうなんだ。ちなみに真二はどこの小隊に所属してるんだ?」
「俺は長月さんがいる小隊だな。長月さんは2メートル超えの長刀、俺の斧槍もリーチの長い武器だろ? 同じ長物なら間合いの取り方や取り回しのコツも似てくるからさ。……あとの二つの小隊は、山方清四郎小隊長と、桜木八重小隊長の小隊だな」
「あの長月さんか……。サイ型の時の実戦、マジでめちゃくちゃ強かったよな」
「ああ、あの人はまさに『武の達人』そのものだよ。足音もさせずに一瞬で距離を詰めてくるし、どんな化け物の攻撃も平然と受け流しちまう。間近で見てて本気で鳥肌が立ったぜ。……まぁ、いいことばかりじゃなかったけどよ」
真二くんの表情が、一転して少しだけ暗く沈んだ。
「……そうだね。あんな凄まじい状態になるまで、身を削って戦ってたなんて、俺はここに連れてこられるまで知りもしなかった。俺たちの着ているこのスーツは、化け物と戦えるほどの強靭な力をくれる。だけど同時に、いつ自分が化け物になるか分からないリスクを孕んだ、呪いの装備でもあるんだ……。長月さんのあの痛々しい姿を間近で見てなかったら、きっとまだどこかで他人事みたいに考えてたと思う」
長月さんの身体に網目状に張り付いていた、あの紫色の脈打つUMA細胞の悍ましさが脳裏を過る。
俺の言葉に、真二くんは強く、強く拳を握りしめた。
「俺たちが――あそこまでの領域には届かなくても、戦場で確実に役に立てるくらい強くなれば、誰もあんな思いをせずに済むはずだ! だから、頑張ろうぜ、タクマ」
「うん! そうだね。みんながそれぞれ強くなれば、誰か一人に全部を背負わせて、無理をさせる必要なんてなくなるんだ」
俺たちは互いの決意を確かめ合うように頷き合い、ふたたびロングソードを固く握り直した。
――しかし。その努力の時間は、唐突に打ち切られることになる。
ウーーーッ!!! ウーーーッ!!!
地下の訓練場に、すべてを掻き消すようなけたたましい警報サイレンが激しく鳴り響いた。
一瞬にして、世界が赤色のフラッシュに染まる。『――緊急警報、緊急警報。管区内にUMA出現。繰り返します、管区内にUMA出現』
スピーカーから響く、冷徹な機械音声。『全討伐部隊員は、速やかに第一ブリーフィングルームに集まってください』
顔を見合わせる俺と真二くん。
まだ、俺の専用武器は完成していない。手元にあるのは、影浦さんから借りているこの汎用のロングソードだけだ。
だけど、化け物は俺たちの都合なんて待ってはくれない。
俺はロングソードを床へ置くと、まだ見ぬ敵への恐怖を覚悟でねじ伏せ、真二くんと共に、あの作戦会議の部屋へと向かって全力で走り出した――。




