上京
短編と重複している部分があります。
祭典の警備の間だけ王都勤務になり、寮に入ることにした。
少し遠い実家から通うこともできたが、短期決戦で仕事で目立つ活躍をしたい。それに、寮に入った方が、事務官との接点が増えるだろう。
残念ながら、入寮の手続きや警備用の腕章の配布などで、「幼なじみの彼女」を見つけることはできなかった。
休日に、王都勤務の悪友と飲むことにした。彼女の情報はこいつが教えてくれる。
まず、乾杯をした。お互いの近況報告を……と思ったら、身を乗り出して小声で話し出す。
「お前、なんかヤバいことになってるぞ」
俺は枝豆を口に入れながら、「なんのことだ?」と訊き返した。
「昔、告白するって嘘を吐いただろ。あれで、彼女が男性不信になったらしいぞ」
「へえ、だったら責任取って俺が結婚してやるよ」
半分本気でそう答えたら、悪友が呆れたような顔をした。
「田舎者は呑気でいいな。お前は祭典が終わったら帰るんだから、気楽でいいよな。
俺は王都で、彼女の親兄弟と同じ部署になるかもしれないんだ。あの場に俺もいたことがバレたらヤバイ。
悪いけど、反省する気もないなら、今日でお前と縁を切らせてもらう」
「なにビビってんだよ」
「俺は後悔している。子どもの悪ふざけですむと思ってた。
けど、彼女は告白されても、からかわれてると思うらしい。あのせいで……って知ったら、笑えないだろ。
真面目に告白した男たちにも、どうやって謝ればいいかわからないよ」
「それはさ、ほら。他に本命がいるってことじゃねぇ?」
たとえば、俺とか。
悪友は俺の顔をじっと見た。
「お前には伝わらないんだな。
他の奴らも、お前とは縁を切りたいって。今日はジャンケンで負けたから、俺が代表してきたんだ。バレたら彼女の弟に半殺しにされるぞ。
あの一族は、軍の貴族にも平民にも顔が利く。何代も続けて騎士爵を授与されているから、男爵位の叙爵の噂もある。彼女の母親も、軍の婦人会で活躍している。
はっきり言って、睨まれたくない」
「逆に言うと、彼女は優良物件ってことだろ?」
俺は嬉しくなって、ニヤリと笑った。獲物に不足はなし。
「ほんっと馬鹿だな。つきあいきれないわ」
悪友は大げさにため息を吐くと、金を置いて店を出て行った。
三年ほど地方にいただけなのに、あんなに馬鹿にされるとは……縁切り上等。こっちから縁を切ってやるよ。
さりげなく周囲を見渡したり、文官棟に寄り道したりして、出会えるように行動した。あっちは仕事として俺の情報を知っているだろうから、会いに来ればいいのに。照れ屋で臆病なままなのかな。
そして、ついに幼なじみと出くわした。
女だてらに眼鏡をかけ、茶色の髪を引っ詰めている。相変わらず地味だな。
けど、働く女性の凜々しさが眩しい。冗談が通じないのがあれだけど、真面目でいい奥さんになりそうだ。
「よお、これから俺もここで働くから、よろしくな」
握手のために手を差しだし、さりげなく左手の薬指をチェックする。
――ない。よし!
……久しぶりに会った幼なじみだというのに、反応が薄い。もっと、こう……嬉しそうな表情になるものじゃないか?
恥ずかしがっているのか。ここは俺が積極的にいってやらないといけないのかもな。
「再会を祝して飲みに行こうぜ」
「……仕事中ですので、そのような発言はお控えください」
気のせいか、うっすら軽蔑されたような……? いや、気のせいだろう。
「なんだよ。幼なじみに会って嬉しくないのかよ」
緊張しないでいいのに。
「そのような認識はしておりません。忙しいので失礼します」
機嫌が悪かったのか、俺の横を通り過ぎる。
なんだよ。つれないな。
ああ、ここは職場だから公私混同しないとか、そういうのか。
「じゃあ、仕事が終わったら『鉄鍋』って店で。待ってるからな」
先日、歓迎会で連れて行ってもらった店だ。少しうるさい店だが、あの緩い雰囲気が緊張をほぐしてくれる。
引退した兵士がやっている店だから、彼女も安心して飲めるだろう。
彼女は立ち止まって振り返った。だが、鼻にしわを寄せて、睨んできた。
なんだ、その顔?
「ふざけているんですか? 行きません」
そう言うと、今度は振り返ることもなく、角を曲がっていった。
俺が何かしたのかよ?
まあ、いい。来ないと言っても義理堅いから、顔を見せるくらいはするはずだ。
酒を酌み交わしながら、話を聞いてやろう。
ところが、彼女は来なかった。
つい飲んだくれてしまい、俺は二日酔いで出勤することになった。




