次の日
前半は短編と重複しています。
二日酔いのまま出勤した俺は、上司に怒鳴られ、水をぶっかけられた。
王都で華々しく活躍するはずだったのに、ケチがついたぞ。くそ。
着替えるために寮に戻る途中、文官棟に寄り道をした。運良く廊下を歩く彼女を見つけたので、早足で追いついた。
「おい、なんで昨日来なかった?」
「なんのことでしょう?」
彼女はこちらを見ずに、歩みも止めない。
「昨日! 俺は待ってたんだぞ」
「行くとお返事していませんが」
すごく冷たい言い方をされた。何を怒っているんだ?
「それでも来るのが誠意のある人間ってもんじゃないのか!」
俺はこんな扱いを受けたことなんてない。不誠実にも程がある。
彼女は、心底うんざりという顔を見せ、ようやく立ち止まった。
「では、言います。あなたと個人的に出かけることなど、絶対にありません。
あなたのお誘いは、すべて『罠』だと認識しています。仕事のこと以外で話しかけないでください」
そう言い捨て、彼女は背中を向けた。
「え、なんでだよ……」
広い廊下に、俺は取り残された。
立ち尽くす俺に「廊下が濡れています。早く着替えた方がいいのでは……」と掃除夫が声をかけた。
「うるさい。掃除夫の分際で」
怒鳴りつけた俺に、掃除夫はなぜかニタリと嫌な笑いを向けた。
掃除夫は、男が去ってから濡れた床を拭いた。
それから自分の担当の区域を順に掃除していく。渡り廊下を掃いているときに、弟を見かけた。
目が合ったので、掃除夫は親指と人差し指をすり合わせて合図をする。
弟は同僚に断りを入れて、掃除夫のところに走ってきた。
「何かネタが?」
「嬢ちゃんを傷つけた男、見つけましたよ。祭典の警護に招集された、地方所属の兵士です」
弟はうなずくと、ポケットから銀貨を取り出して掃除夫に渡した。
「飲みに誘って断られて、逆上していました。要注意です」
「うわ、最悪。無駄に積極的な奴か」
弟は首に手をやった。
「同僚にも嬢ちゃんの周辺に注意するよう言っておきますわ」
「それは助かる」
「嬢ちゃんは子どもの頃から行事の手伝いをしてましたからね。私らにとって、親戚の子みたいな存在なんです」
「姉貴は愛されてるな」
弟は目を細めた。
「でも、ちょっと可哀想でしたよ」
掃除夫は、箒を地面に丸を描くように動かした。
「何が?」
「他の子は試合したり遊んだりしているのに、ずっと働いていて。愛想笑いはしていましたけど、心からの笑顔じゃなかったと思います」
「……俺は試合に出ていたから、そんなの気がつかなかった」
弟は衝撃を受けていた。
「それが普通の子どもですよ。嬢ちゃんは気がつきすぎた。……子どもらしくは、なかった」
掃除夫は文官棟の方に視線を向けた。




