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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第一章 嘘告

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飲み会

短編と内容が重複しています。

 しばらく経って、飲みに誘われた。祭典の警備で同じチームになる十名で、親睦を深めようと言われた。王都勤務が二名、それ以外は地方から集められたチームだ。


「もう慣れたかよ」

 と、チームリーダーに酒を注がれる。


 俺は地方勤務になったが、王都に近い街の出身だ。帰ってきたという感覚の方が強い。

 田舎者たちは警備や道案内のために、地図を片手に道を覚えようと必死になっている。ご苦労様なことだと、優越感に浸っていた。


 俺は子どもの頃から武芸大会に参加して、貴族の子弟とも顔見知りだったりする。

 今回、そんな幼なじみたちと再会することを切望していた。もしかしたら、「地方に帰らずに、王都で活躍してくれ」と言われるかもしれない。

 これから俺は出世する。手柄を立てたら、騎士爵も夢じゃない。


 そんな希望に満ちた日々の中で、不満があるとしたら……先日の、素っ気ない幼なじみのこと。つれない態度で、飲みに誘ってやったのに、すっぽかされた。

「擦れてないのもいいですけど、限度があると思うんですよね」

 そう、幼なじみのことを愚痴った。


 親しげに肩に手を置いていたリーダーが、すっと体を引いた。

「あー、犯人はお前か。祭典で上京した中に候補がいるって聞いていたが、よりによって俺の配下かよ」


「何のことです?」


 リーダーが呆れた顔をして、もう一人の王都勤務の奴が睨んできた。

「彼女が『自分はモテない』って思い込んだきっかけだよ。

 お前が子分に『告白したいと言ってる子がいる』って、呼びに行かせたんだろう?」


 昔、武芸大会の子どもの部に参加したときの、ちょっとした思い出を……なぜ、知っている? 思い出を踏みにじられて、俺の中に不快感が湧いた。


「呼ばれて来た彼女を取り囲んで『ああ言えば、のこのこ来ると思ったぜ』って、指をさして嘲笑ったんだってな?」

 もう一人の方が、肉の塊にフォークを突き刺した。


 地方勤務の奴らが、「なんの話をしているんだ?」と、ざわつき始めた。


「子どもの頃の、ちょっとした出来心じゃないですか」

 半分くらいは、告白してもいいと思っていた。いざとなったら恥ずかしくなっただけで。


「出来心か。ずいぶんと軽く考えているんだな。

 ――彼女の気持ちを考えたことがあるか?

 嬉し恥ずかしでドキドキしながら行ったら、罵倒されて、惨めな思いをさせられたんだぞ。

 子ども時代の心の傷が一生治らないことだって、珍しくないだろ」

 リーダーは俺を悪者だと決めつけて、酒を飲んだ。


 ええ……?

 そんな深刻に捉えなくてもいいだろうが。彼女に会ったら、誤解を解かなければ。


「彼女は親に『恋人はできたか』と訊かれて、『絶対にできない』と答えたそうだ。見合いを勧めたら、『結婚相手が見つかるわけない』と泣いたそうだぞ。

 そこで不審に思った家族が調べて、昔の出来事が判明したらしい」

 リーダーは、俺に説教をするつもりらしい。聞けば、彼女の兄と同じ部署だったことがあるという。


「健気ですよね。親に泣きついたらそんな小僧は一ひねりなのに、黙って耐えて……彼女の兄弟が調べなければ発覚しなかった」

 もう一人の男は、彼女の父親の部下だったことがあるそうだ。犯人なんて、大げさな。よくある照れ隠しじゃないか。


 畜生。こいつら完全に彼女の味方だ。知り合いの娘だから、忖度しているに違いない。


「お前、栄転するチャンスを掴むって意気込んでたけど、地方にいた方がいいぞ」

 先輩が無責任なことを言って、俺の人生を決めつけてくる。ジョッキの酒を頭からかけてやろうか。


「絶対に、お前だけはありえないって、わかるか? お前に嘆く資格はない。

 ただ待ちぼうけにされただけなら、優しい対応だと感謝しろよ」

 もう一人の男が忌々しげに言う。こいつ、あの子に惚れてるのか?


 なんで俺がここまで責められなきゃいけないんだ。もう、我慢ならん。言い返してやる。


「好きな子にちょっと意地悪しちゃうって、あるじゃないですか? 子どもの頃の、ほんの出来心ですよ。いつまでも根に持つ方が、どうかしてる。

 気になるから、ちょっかいをかけるんですよ。もう、いい大人なんだし、少年の照れくらい理解して、好意を汲み取るべきだ」

 俺、なんかいいこと言った気がする。


「お前、マジでそれ言ってる?」

 田舎者が会話に口を挟んだ。

「でも、物語ではそれを謝って結ばれるとか、ありません?」

 別の田舎者がいいことを言った。それだよ、それ。

「ああ、それな。ないとは言わないが、『一生許さない』っていう子もいるぞ」

 リーダーが男のロマンを否定する。


 憮然とした俺の顔を見て、リーダーは口角を片側だけ上げた。

「果てしなく自分に甘いんだな。深く傷つけた男が好かれるなんて、期待するな。

 とにかく、これ以上何かしたらお前――社会的に潰されるぞ」

 リーダーは最後の忠告だと、縁起でもないことを言って脅してきた。


「幼なじみがカッコよくなって、友情が恋愛になるって、王道じゃないですか」

 俺はムキになって言い返した。思い出がある分、有利なはずだ。だって、彼女は地味だし。


 周囲がどっと湧いた。

「お前、自分で自分を格好いいとか……ウケる」

「だから、それはいい思い出がある場合だろ」

「年に二回武芸大会で顔を合わせる関係って、ただの顔見知りじゃん」

「え、それは幼なじみと言わないのでは?」


 くそ、勝手なことを言いやがって。俺は顔が赤くなるのを感じた。そういうのは、他人が端から見てどうこう判断するものじゃないだろう。

 お互いが幼なじみだと思えば、幼なじみだ。


「あの一家は基本的に平民だけど一代騎士爵が何代も続いている。そろそろ男爵になるんじゃないかって噂があるくらい、注目株なんだよ」

 もう一人の男がさらりと言った。それは……いい情報だ。彼女の価値が上がるかもしれない。


「男爵にならなくても、怪我に動じない女性ってありがたいよな。

 遠征も理解してくれるから、安心して仕事ができる」

 リーダーは妻帯者だから、見る観点が違う。彼女は思った以上に優良物件なわけだな。


「田舎と違って、ここでは軍の品位を重視している。下の者を理不尽に扱ったら密告されることがあるから、気をつけろよ。

 二日酔いでふらふらとか、そういう細かいところも上司はちゃんと見て把握しているからな」

「僕は気をつけてますって。庭師とか調理師とか……掃除夫とか」

 もう一人の王都の兵が意味ありげに言う。そして、何が面白いのかわからないが、王都の二人は笑った。

 俺と彼女のことにイチャモンをつけておいて、いい気なもんだぜ。


「お前はマイナススタートで、とてもじゃないが勝負の舞台にすら乗れないだろうな。

 大人しく、指をくわえて見ていろ」

 リーダーが俺に人差し指を向けて、命令した。ムカつく。

「『幼なじみ』が、強敵どころか馬鹿でよかった」と、もう一人の男が笑った。


「いや、これは自称『幼なじみ』で、彼女にとっては毛虫以下だろ」

 リーダーがひどいことを言う。


 田舎者たちも、俺から距離を取ってひそひそと話している。なんか気分悪いな。


 ――子どもの頃の出来心が、俺の将来をずたずたにしたと言われた。

 だが、そんなに悪いことをしたか? 悪気はなかったんだぞ。


 そうだ。明日、花束でも持って謝りに行こう。


発言者が誰か、わかりにくい台詞があったので追記しました。(2026年5月28日)

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― 新着の感想 ―
思い出を踏みにじられて、ってその"思い出"自体が彼女を踏みにじったものなのにどの口が… こいつ自己愛モンスターすぎません?
「健気ですよね。親に泣きついたらそんな小僧は一ひねりなのに、黙って耐えて~」それはね、親に言っても無駄だと諦めてたからじゃないかな……。 ダメだ、どうしてもクズ男君より母親へモヤモヤが向かってしまう。…
どこまでも自分に甘いやつですなー、こいつ。俺様系ナルシストですかね…… >掃除夫 つい先頃八つ当たりで怒鳴り付けたやつがなんか言ってるぞ…… 主犯だったこいつは覚えていたけど、当時取り巻きというか…
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