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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

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番外編 偽りの愛

 夫から面会依頼が来た。本来、模範囚とならなければ外部との接触は認められない。

 私はまだ模範囚になっていないため、少し不思議に思った。だが夫は地主なので、便宜を図ってもらえたのかもしれない。


 化粧も髪を整えることもろくにできず、どんどん女として衰えていく気がする。それでも髪に櫛を入れて、できるかぎり美しく見えるように努力した。

 前日はワクワクして、寝付きが悪かったのが悔しい。結婚する前のデートを思い出し、思わず口元がニヤけた。


 職員に案内されて、小さな部屋に入る。面会する人とはガラスで仕切られていた。

 夫と教会の助祭が一緒に座っている。少し、嫌な予感がした。

「離婚の手続きに来た」

 元気かと尋ねることもなく、夫はいきなりそう言った。


「なんですって? たったの十年でしょう。少しだけ、待っていてちょうだい」

 離婚されるなんて、考えたこともなかった。だって、息子の敵討ちよ? 愛し合っている夫婦は支え合うのが当然でしょ?


「ああ、まったく。お前となんか結婚しなければ良かった」

「ひどいことを言うわね。社交界の華が、金持ちだけど平民のあなたと結婚してあげたんじゃない。あなただって私にメロメロで――大きな花束を抱えてプロポーズしてきたの、忘れたの?」

 とてもロマンチックだった。

 貴族の子息に比べたら野暮ったかったけれど、一途なところを評価してあげたんだわ。


「あの当時は、可愛いと思ったんだがな。お袋の言うとおり、やめておけばよかったよ。

 貴族社会でやらかして、結婚してくれる相手がいなくなっただけだろうが」

 何なの、そのため息は! そして、二十年以上前のことを持ち出すなんて、嫌な感じだわ。


「すみません。離婚しますか、しませんか」

 助祭が夫婦の会話に割り込んできた。

「お忙しいところ来ていただいたのに、すみません。

 犯罪者になったお前を、十年後に受け入れるつもりはない」

 夫は助祭に詫びてから、私の顔を睨みつけるように見た。


「だって、子どもたちは? あなたがそんな勝手なことしたら、悲しむでしょ」

「……怒ってるよ。みっともないって」

「は?」

「長男が国家反逆罪で処刑された上に、母親が逆恨みで刃傷沙汰だ。

 そんな母親なら、いない方がいい」


「あんたが、そう言わせたんだろ?」

 私は思わず立ち上がった。

「お前、本当に貴族のご令嬢だったのか?

 自分によく似た長男だけ可愛がって、俺に似た子たちを邪険に扱っていただろう。お前なんか母親じゃないってさ」


 どうしてそんなひどいことを言うの?

「お腹を痛めて産んだのよ」

「下の子たちは、顔立ちがはっきりしてから面倒を見てきたのはお袋だ。長男と差をつけられて、母親に愛されるのを諦めてるよ。

 まだ、長男が死んだ後に下の子たちを見るようになっていたら、違ったかもしれないけど」


「家族なのに……長男を殺された怒りはないの? 子どもを亡くした母を労ろうって優しさはないわけ?」

 そう訴えたが、夫の心には響かなかったようだ。

「お前が愛用していた化粧水を持ってきた。サインをするなら差し入れとして置いていく」

 ああ、お肌が潤うバラの香り!


「係の方にその書類をお渡しして、奥様にサインをもらうといいですよ」

 助祭が無慈悲に離婚の手続きを進めようとする。

 ガラスで遮られて書類のやり取りができないので、職員を通して離婚の署名をすることになった。


 夫だった人は、署名済みの書類を受け取ってから、化粧品を職員に渡した。本当に用心深いことだ。


 化粧水の瓶を手にして、嬉しいのか悔しいのか複雑な気持ちになった。

 これじゃあ、私に手切れ金を渡し逃げた貴族たちと変わらないじゃない。


 部屋に戻ったら、その場で部屋のボスに取り上げられた。

 そうだ。なんで忘れていたんだろう。このババアに見つからずに使うなんて不可能だった。

 こんなことなら、離婚しなければ良かったわ。


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― 新着の感想 ―
この浅はかさとどこまでも自分に都合のいい解釈を続ける人格……中身も長男そっくりですね。
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