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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

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もう、よくわからない

 子爵の家に辿り着いたときは、日が暮れていた。


 私が事情聴取を受けている間に、母は父に連れられて帰宅。

 兄夫婦は新婚旅行へと向かった。心配だと言っていたが、この件については部外者だし、船に乗り遅れるからと追い出した。

 弟が最後まで付き添ってくれた。魔術師が迎えに来て、子爵家の馬車に私が乗るのを見届けると、安心したように手を振った。


 なんだろう……母は相変わらずだけど、母が主導権を握って好き勝手している感じが薄くなっている?

 兄が結婚して、弟にその分の負担が加わらないといいんだけど。お姉ちゃんなのに、逃げてごめんね。

 ズキズキと痛み出した腕に触らないようにして、遠ざかっていく弟を案じた。


 その日の入浴はメイドさんに手伝ってもらって、とても恥ずかしかった。

 貴族の方々は、これが日常なのよね。よく平気だなぁと、自分たちとの違いを強く意識した。


 翌日には予定どおり、馬車で勤務地へ戻ることにした。四日もかかるので、腕の傷くらいで休んでいられない。

 ところが、熱が出てしまった。途中の宿場町での滞在を余儀なくされる。


「ごめんなさい。あなたは先に戻ってください」

 魔術師にそうお願いしたが、聞き入れてくれなかった。

「職場には連絡を入れたので、大丈夫ですよ。心配しないで休んでください」

 そう言って、額を魔導具で冷やしてくれる。


「絞ったぬれタオルと比べてどうですか?」

「気持ちいいです。寝返りを打って枕元に落ちたりしないのも、いいと思います」

「冷たすぎたりはしませんか?」

「……ちょっと、そうかも」

「温度を調節して、作り直しますね。用があったら、ベルを鳴らしてください」

 そう言うと、部屋を出て行った。

 隣の自分の部屋に戻ったのだろう。


 ほうっ……と息を吐く。あまりかいがいしく側にいられても、気が休まらないのだ。

 寝つくまで手を握っていてほしいとか、そういう気持ちになったことがない。子どもの頃からそういう経験がないせいか……?


 普通だったら、生活拠点と違う場所で寝込むのは不安になるだろう。

 けれど、もし王都にいたら母が駆けつけてくる危険性がある。予定どおり出発して良かったと思ってしまった。


 兄の結婚式で母が私を庇うようにしたこと。あれを芝居じみていて気持ち悪いと思う私は、性格が悪いのだろう。

 犯人が取り押えられていたからいいものの、他に仲間がいたら危なかった。抱きつかれていたら反撃できないし、狙いやすい的になってしまう。

 いい母親と思われそうなことは、張り切ってやるのよね。


 ――駄目だわ。こんな意地悪い見方をしてはいけないはず。

 熱が出て、悪い方に考えているだけ。考えないで寝てしまおう。それがいい。



 この街で臨時に雇った小間使いの子に体を拭いてもらい、寝間着を着替えた。

 小間使いの子と入れ違いに、魔術師がパン粥を持って入ってくる。


 利き手を怪我したせいで、食事を介助してもらうはめになった。とっても恥ずかしいのですが。

 よく噛んで、ごくんと飲み込んでから、気になっていたことを尋ねた。

「そう言えば、どうしてあなたまで休暇を取ったの?」

「……たまには実家に帰ってもいいかと思って。馬車を乗り継ぐより、うちの馬車の方が楽でよくない?」

 次の一匙に息を吹きかけて冷ましてから、自信なさげに質問を返された。


 確かにそれは、そうなのだ。平民の乗合馬車と貴族の家の馬車など、比べものにならない。

「……助かってます」

「本当? よかった。はい、あ~ん」

 差し出されたスプーンを口に入れる。もう、何をやっているんだろうと、我ながらよくわからなくなってきた。

 ……熱があるから、いろいろ、仕方ないのだ。たぶん。


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― 新着の感想 ―
母に絆されなくて良かった……。 しかしなし崩しに魔術師受け入れていってるね。こいつ人の弱みにつけこむのうまいな……。まぁ、落ち込んでる時に優しくするのとか恋愛の王道な気はしますね。ちょっとやりすぎな気…
なるほど、母親の行動はパフォーマンスでしたか。いきなり人格が変わったのかと違和感を覚えましたが納得です。 ところで主人公は結婚する気あるのかな? ここまでお世話になってるんだし交際はしてるんだよね?…
 うむ主人公の価値観?被支配の鎖?が変容しつつあるような印象。  まず疑問を持つ事が大事ですね、「あれ何かおかしいな?」って。  そこから他者のパターンをみて一般的平均的な環境を知ることで解放されるの…
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