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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

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バラの花束

※ 暴力的な描写があります。

 兄の結婚披露パーティーが終わる。

 会場の入り口に新婚夫婦が立ち、参加者にお礼を言って見送っていく。

 普通なら私は親族として後片付けを手伝うのだが、弟に「客に紛れて帰っていいよ」と言われた。


 母と同じテーブルにいるだけで、ものすごく消耗してしまった。子爵家からお迎えの馬車も来たようだし、そうさせてもらうことにした。



 何台も並んだ馬車の横を歩いていると、ふいに名前を呼ばれた。立ち止まってそちらを見ると、赤いバラの花束を持った年配の女性が立っている。

 知り合いにこんな人はいただろうか? 少なくとも、今日の出席者ではない。


 その女性の目がギラついているように見える。左手を右手で触り、薬指の指輪に気がついた。そうだ。変なことをされたら、空砲を撃てばいい。

「なんでしょうか?」


「あなたに、ぜひこの花を受け取ってほしいのです」

 ずいっと胸元に花束を押しつけられた。嫌な既視感。

「いや……ちょっと、どういう意味ですか?」

 後ろに下がろうとしたが、通りかかった人にぶつかってしまう。

「あ、すみません」

 ぶつかった人に顔を向け、女性から目を離した。花束が足元に落ちる。


「この売女がぁ!」

 そう女性が叫び、腕に痛みが走った。彼女が手に握っているナイフが、赤く染まっている。

 私の腕から血が流れている。切られたのか。

 え、何? どうして?


 私とぶつかった人が、女性の前に走り出る。彼女の腕を掴み、ひねり上げ、地面にねじ伏せた。ナイフが地面に落ちて、音を立てる。

 それは流れるように、一瞬の出来事だった。

 あ、この方、兄の同僚だわ。さすが武官。


 ぽたぽたと赤い血が服を汚していく。痛いけれど、これくらいなら失血死はしないだろう。

 移動して汚れを広げるのはよろしくない。ハレの日に流血など縁起が悪いので、このままこっそり帰りたい。

 そんなことを考えていたら、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。どたどたと母が走ってきて、私に抱きつく。ぎゅうぎゅう力を入れられて、痛い。


 母は、拘束されている女性に叫んだ。

「うちの娘に何するのよ!」

「私の息子がそいつのせいで殺されたのよ。これは正当な敵討ちだわ」

 女性は押さえつけられて、大きな声を出せないようだった。しかし、聞き捨てならない。


 そこへ、弟が走ってきた。

「お袋、危ないからどいて」

「この子は私が守る!」

「気持ちはわかるけど、容疑者はもう取り押えられてるから。切り傷を手当てした方がいいだろ」

 後から来た父が、母を引き離してくれた。


 弟が自分のタイを外して、私の腕をグルグル巻きにする。ハンカチで腕の付け根に近いところもぎゅっと縛られた。

 さらに上着を脱いで私の肩にかけようとする。

「汚れちゃうからいいわ」

「他のお客さんに見えない方がいいだろ」


 子爵家の御者が私を見つけて、連れ帰ると申し出た。すぐに医者を呼ぶと言ってくれたが、パーティー会場の事務室で手当を受けることにした。

 簡単な事情聴取をしたいと言われたし、出席者に軍の衛生班の人がいたのだ。



 あの女性は、私に嘘告をした男性の母親らしい。祭典の警備情報を漏らしたために処刑されたのだが、それを私のせいだと恨み続けていた。


 祭典に花を納入していた彼の幼なじみは、人づてに聞いた断片的な情報を組み合わせ、自分が納得できる物語を作り出した。それによると、私が子どもの頃に嘘告されたのを根に持っていて、彼を罠に嵌めたという。

 それをそのまま、傷心中の彼の母親に伝えた。

 彼の母親は恨みを晴らすために私の動向を調べたが、肝心の私は地方に転勤してしまった。

 そして今日、兄の結婚式なら出席するだろうと待ち構えていたという。


 え……私が悪かったのだろうか?


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― 新着の感想 ―
 主人公の母にとって主人公は「所有物」かな。  なんかヘンテコな執着心だなあと思ったが自分のモノ扱いなら不思議ではない感じ。  嘘告野郎の幼なじみは扇動とか教唆の罪でちょっと痛い目を見てもらわないと。…
うーん…母としての愛情は感じた…けどなぁ…この母親だからな 気が動転している母親を宥めて応急処置した弟君ナイス そして花屋…何勝手な事を…妄想垂れ流してんじゃねーよ! お前のせいであの屑の母親までもが…
うぅん、娘が殺されかけて母の目が覚めるのか……自分を守ろうとした母に絆されてまた我慢しちゃうのか……。
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