帰郷
二年ぶりに王都に来た。兄の結婚式に出席するためだ。
泊まる場所は実家ではなく、魔術師の子爵邸……。ご厚意に甘えっぱなしだ。
両親には、結婚式の準備で忙しいところに、久々に娘が帰ってきたら大変だろうと説明した。母は納得しなかったが、父が同意してくれた。
「あなたは子爵令息とお付き合いしているの? 遊ばれているんじゃないでしょうね。
いつ結婚するつもりなの。仕事だけしていればいい、というものじゃないでしょうに。
子どもだって早く生まないと。ぐずぐずしていて、私が手伝いに行けなくなったらどうするの?」
「あの、今日は、私のことはいいので……」
「こんな日ですけど、あなたが顔も見せないせいじゃない。通信魔導具だってすぐに切ってしまうし」
「はいはい。お袋は親戚に挨拶した方がいいんじゃないの?」
弟が助け船を出してくれた。
「あら、そうね。あなた、式が終わったら実家にいらっしゃいよ」
「それはしないと言って……もう、相変わらずこっちの話は聞こうともしないんだから」
以前は口にできなかった愚痴が飛び出して、自分でも驚いた。
「披露パーティーが終わっても、親戚のおばちゃんたちとしゃべっているだろうから、その隙に帰っちゃえよ」
「いいの? 遠慮なく、そうさせてもらうわ」
なんだか、弟の物わかりが良すぎて驚いた。働くようになって、人を見る目が変わってきたのだろうか。弟にフォローしてもらうなんて、こそばゆい。
兄の結婚式は無事に終わった。花嫁と仲良さそうな姿に安堵する。
披露パーティーの座席は、身内なので家族は同じテーブルだ。
「もう、こっちの助言をはねつけて、好き勝手やっているのよ。結婚式のお金を出してあげると言ってやったのに、断ってくるし。気の強い嫁なんて、これからが大変だわ」
「お前、お相手の親御さんもいるのだから、口を慎みなさい」
父が母をたしなめた。
「嫁に来たら、夫の実家のやり方を習うものでしょ? 教えるのは私なのよ」
「母さん、もう、そういう時代じゃないのよ。結婚早々に、お義姉さんに逃げられちゃ……」
さすがに駄目でしょう。求められていないのに押しつけたら、トラブルになる。
「そういう考えだから、いつまで経っても結婚できないのよ」
母に睨まれた。「ひっ」と喉の奥でか細い音が鳴る。
「お前やめなさい。今日はめでたい結婚式なんだ」
「なんなの、あなたたち。いい機会だから、教えてあげてるんじゃない」
母の声がヒステリックな色を帯び始めた。
「お袋、姉貴もいろいろ考えているんだろうから、そっとしておいてやりなよ」
弟がにこやかに母に話しかけた。
「あ、これ美味しい。お袋も食べてみな」
「まあ、ほんとね。洒落てるわ。お母さんはこんなにきれいに盛り付けられないけど、味は負けてないでしょ?」
「そりゃあ、『お袋の味』だからね」
弟の相槌に、まんざらでもない顔になる。
「ふう。『いろいろ考えてる』って何よ。またお母さんをのけ者にして。仕方のない子たちね。
困ってから頼ってきても、知りませんからね」
「働いて自活しているんだから、好きにさせてやりなさい」
「違いますよ。働いてさえいれば一人前だなんて、思い上がるのがいけないんです。
結婚して、子育てしてこそ……」
「ああ、これも旨いよ」
相変わらず会話のスピードが速くて、ついていけない。
まあ、矛先が私に向かないように祈りながら、お料理をいただきましょう。




