表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/6

気付かない 一人目

 おしゃれにコンプレックスを抱えた私は、シンプルな服装を心がけた。

 仕事中は制服があるから、出勤時に「おかしい」と思われなければいい。ブラウスにスカート。とにかくベーシックで、流行は大きく外れなければいい。


 大人しい地味な娘は、良妻賢母になりそうだと一部の人にウケがいい。子どもの頃は私でもその枠で相手が見つかると思っていた。

 それを期待することすらおこがましい、身の程を知らなきゃ――というのが自分の中では確定事項で、周囲からどう見られているかに無頓着だった。



 仕事を始めて、困ったことがある。

 女学校出身で、男性との距離感がわからない。自分でできることはやってしまうので、可愛げがないらしい。

 力仕事は対等にできないけれど、できる範囲で頑張る。持てそうな荷物に手も出さずに「お願い」と頼めないし、大丈夫かと訊かれたら「大丈夫です」と答えてしまう。

 書類仕事で「やっぱり男の人は頼りになるわね」という言葉を聞くと、違和感がある。男女関係なく、頼られるように努力すべきでは……と思うのがズレているのだろうか。



 帰る途中で、同期の男性を見かけた。


 食事くらい行くべきかしら? 誘わない方が失礼かも。普通は女性から誘わない?

 正解がわからなかったので、とりあえず誘ってみた。

「あの、せっかくですから、ご飯でも食べに行きますか?」

 同期の距離感としては、こんな言い方でいいだろうか?



 しばらく考え込まれた。

 気が乗らなかったら断ってくれていいのに。そうしたら、一人で食事に行くだけだし。

「はい」か「いいえ」の二択しかないのに、何を悩むことがあるのだろう。


 私は一人暮らしで気楽だけれど、家族と住んでいたら夕飯の用意がしてある可能性があるか。それなら、「またの機会に」と断ってくれていい。

 こちらから誘っておいて、「気が乗らないなら別にいいです」と言うのは失礼だろうか?


 次に見かけても声をかけるのはやめよう。

 大人しく返事を待っているけれど、お腹が減っているのだ。一日仕事をして疲れているから、気が短くなっているかもしれない。


 ようやく顔を上げたかと思ったら「じゃあ、行きましょうか」と、重大決心をしたように言われた。

 穏便に断る言葉を探していたわけじゃないのか。よくわからない人だ。ちょっと面倒くさいかも。



 夕食は、可もなく不可もなく普通だった。

 新人が行けるお手頃なお店に入る。他の同期の近況を聞き、仕事の話をする。会話は途切れず、にこにこと笑顔で応じる。

 家族で食事しているときと一緒だ。適度な相槌で、相手がしゃべってくれる。同意したり、質問したりして、相手の気分を盛り下げないようにすればいい。

 趣味の話ではしゃぐこともなく、「普通の女性」を演じられただろう。「変な子」と言われなければ成功だ。

 無難に「同期との食事」というミッションを終えて、私はホッとした。



 それからその同期の態度がおかしくなった。

 通りすがりだからと声をかけてくる。食事に誘われたが、「仕事をまだ覚えていないから」と断った。正直、また食事をしたいと思わなかったから。


 体調が悪いときに気付かれた。実家では心配されなかったから嬉しいかと思いきや、なんだかうっとうしい。意識してしまうとシンドイから、自分を誤魔化して働こうとしているのに。

 休めるなら休むが、仕事があるのだ。

「他の人に頼んですぐに休め」と簡単に言う。慣れない仕事で役に立てているか不安だったので、「大した仕事じゃない」と思われているのかと不快になった。

 気弱になっているせいで被害妄想だと自覚しながらも、同期に対する好感度は下がっていった。


 ある日、「先輩の引っ越しを手伝いに来いよ」と言われた。なんで?

 知り合いでもない人のために、貴重な休日を潰さないといけないの? 武官だったらてきぱきと荷造りできるけど、文官だから手際が悪いの?

 図々しいと思うのが顔に出たのか「終わった頃に飲みに来るだけでもいいよ」と慌てたように言われ、ますます意味がわからなかった。

 それを断ってから、普通に戻った。なんだったんだろう、あれ。変な人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ