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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里


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3/5

上手くいっているふり

 結婚を諦めたからには、自活しなくてはいけない。女学校の最終学年に官吏の試験を受ける準備を始めた。

 結婚が女の幸せだと信じている母は、猛反対する。

 普段あれだけ出来損ない扱いするくせに、もらってくれる人がいるとでも思っているのだろうか。自分が愛せない娘を他人に押しつけるなんて、図々しい。


 父や兄が働いている軍部ならいいと、ようやく許可をもらった。

 女学校の卒業生の中に軍部で働いている人がいる。試験勉強のコツを教えてもらえないかと頼んだら、快諾してくれた。


「珍しいご家庭ですね。逆に官吏になってもいいけれど、軍部は避ける女性が多いのに」

 ジュースを飲みながら先輩が首をかしげた。


「そうなのですか?」

「騎士団とは違って、少し荒っぽい印象があるでしょう。私はいくつも試験を受けて、受かったのが軍部だけだったの」

 そう言われてみれば、いつも「普通」を大切にする母にしては不思議だ。

「父と兄が軍部にいるから、でしょうか」

 そう答えながら、仕事中に私に何かあっても彼らが駆けつけることはない。だって、きっと彼らも仕事中だから。

 母が軍部ならいいと言った理由は、よくわからない。母の理屈が理解できないのは、いつものことだ。質問しても「そんなの常識でしょ」と言われるので、放置してきた。

 私はいろいろなことが理解できないまま生きている。



 参考になる資料をもらって帰宅すると、母に話しかけられた。

「あんたそんな靴で出かけたの? 服との組み合わせが変よ」


 出かける前ならともかく、帰ってきてから言うのは、なんで?

 ――青ざめながら思うのはそんなことだった。一緒にいた先輩も、内心では恥ずかしいと思っていたかもしれない。


 母はご機嫌で、私の顔色など気にせず、弟の自慢を始めた。

「あの子はセンスがいいのよね。『姉貴はもっとおしゃれすればいいのに』って言っていたのよ。本当に優しい子だわ」


 それは、私が従姉妹にもらったお下がりで、弟はおねだりして流行の服を買ってもらえるからでしょう。

 何度か新しい服を買いに行ったことはあるけれど、私が選んだものにケチを付けて、結局母が気に入った物を押しつけてくる。考えるだけ無駄なのだ。

 それに、自分の好みではない服を組み合わせるしかない状況で、センスを磨くのは難しいのではないだろうか。才能がある人なら組み合わせでおしゃれになるかもしれないが、子どもの頃からセンスを磨く機会がなかったわけだし。

 今さら無理だ。


「そ、そう……」

 力なく、そう返すので精一杯。うつむきながら、自室に向かった。

「おしゃれな弟を見習いなさい」と背中に母からの激励が投げつけられる。

 扉を閉め、一人になって声を殺して泣いた。

 自分が思いやりだと思っていた行動は、完全な独りよがりだった。

 認められることを前提とした「母への思いやり」……そんな自分に幻滅した。


 就職したら家を出よう。それが唯一の希望になった。



 無事に軍部の事務官に採用された。

 父と兄は喜んでくれた。弟は「武官を目指すから、よろしく先輩」と言って笑った。

 母は「働かなくちゃいけないなんて、可哀想」と見当違いの同情を寄せてきた。


 そう、我が家は普通の家庭だ。居心地が悪いと思う私がおかしいのだ。

 私はただ微笑んで、仲のいい家族という設定の中で「穏やかで控えめな娘」を演じる。

 反論も、欲しがることも、他の人の役割だ。


 心の中で、家を出て行けることに安堵していた。


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