息苦しい思春期
誰も、そんな私に気付かない。大会に出る子が怪我を隠そうとするのはすぐに気付くけど、そうじゃないから……。やっぱり、要らない子なんだ。
私は、ささやかな自尊心も踏みにじられた。けれど、それを相談できる相手も、涙を受け止めてくれる人もいない。
「言っても無駄だから」「うっとうしいと言われるだけだから」……そう諦めて、観客席のゴミ拾いに戻るのだった。
これ以降、私はもっと「良い子」を目指すようになった。物わかり良く、人に譲って、嫌われないように。
褒められても「都合良い人間だからでしょ」という卑屈な心を隠し、「とんでもないです」と謙遜した。
ときどき母に嫉妬を向けられることがあった。
大人になって振り返れば嫉妬だとわかるけれど、当時は「親」が八つ当たりをするなんて考えもしなかった。
何か悪いことをしたかと怯えながら母を見ると、「冗談よ」「細かいことで傷ついたふりしないで」と責められた。
私はどんどん自信を失っていく。
そうすると庇護欲をそそるのか、庇ってくれる人がいた。そんなことをされたら、ますます母の機嫌が悪くなるのだ。私は目立たないように心がけた。
堂々と実力を発揮する兄や弟を羨ましく思いながら――
欲しい物を、欲しいと言える兄と弟。兄は親と口論して勝ち取り、弟は甘え上手で手に入れる。
母は私にだけ「家計が大変だわ。やりくりどうしよう」と愚痴を言った。それを真に受けて「私は物を欲しがらない良い子でいよう」と考えた。
誰に言われたわけでもない、自分の選択だ。そうすれば愛してもらえるという下心には、気付かないふりをした。
だから、おしゃれも我慢した。
欲しいと思わないように、興味を持たないように本を読むのにのめり込んだ。流行には興味がないふりをして、図書館に逃げ込んだ。
本ばかり読んでいたせいか近視になり、眼鏡をすることになった。十二歳の頃だ。
「あーあ、もっと見栄えが悪くなっちゃって、お嫁さんになれるか心配だわ」
母はいかにも娘を心配しているような言い方をした。
「私は運動が得意だったのに。本ばかり読んでいるから友達も少ないんじゃないの?」
止まらない母の言葉には、肯定も反論もしない方がいい。揚げ足を取られて、説教されるのだ。
曖昧に微笑んで、母の気が済むのを待つしかない。気持ちがこもっていない相槌を打つと文句を言われるので、聞いているふり、感心しているふりが上手になっていった。
女学校時代に突然告白されたことがあった。
乗合馬車を待っていたら、男子学生に「付き合ってください」と言われたのだ。
その日は、ずり落ちる靴下が気になって仕方がなかった。ゴムが緩んでいたので限界かもしれないと思いつつ、あと一回くらいなんとかなるかも、と履いてしまった。
眼鏡で冴えない上に、靴下がずり落ちている女を? ありえない。
真っ先に浮かんだのが、罰ゲームで告白をさせられているのではないか、ということだった。
ああ、悪趣味な人たちがやりそうなことだ。
「学生で、勉強に忙しいから無理です」
断るのに罪悪感などない。騙されたりしないわ。
「あの、でも――」
知り合いでもない人に突然告白するのは、おかしい。会話もしないで、どんな人かわかるわけがない。仮に好きだと言われても、ただの思い込みだろう。
魅力的な外見もしていないんだから、からかわれただけ。
素直に見えるらしいから、言いなりになると思われたかしら。
そうだ。どこが好きか質問して、困らせてやれば良かったわ。しどろもどろになって、きっと答えられない。
そんなふうに自虐に走ることで、自分を守ることを覚えてしまった――




