表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/45

ヘタレの暗躍

「あんた、突然何なんですか」

 デートの相手は、魔術師の貴族らしい服を見て敬語を使った。


「僕は、彼女の薬指に指輪を贈った者ですが?」

 いつもほにゃほにゃしている魔術師だが、貴族モードに入るとキリッとするのが不思議だ。

 デートの相手に「本当か」と確認されたので、肯定する。

 この護身用の魔導具は、彼が発明したものだ。


「女性の腕を不躾に握るなど、紳士的に振る舞うような教育を受けていないのか」

 魔術師に強い口調で言われて、ようやく手を放してくれた。

 ひどい。手首に赤く跡がついているし、ジンジンと痛む。


「なんだよ、ブス! もう誘ってやらないからな」

 捨て台詞を吐いて、男は伝票を残したまま店を出て行った。これは私が相手の分も払わなくてはいけないのだろうか。

 後日お金を回収に行って絡まれるのも嫌だし、仕方ない。


 もう出ようと思っていたところだったので、私は伝票を持って会計に向かう。

「あ、僕が払いますよ」

「あなたはこのお店に入ってきただけで、何も食べたり飲んだりしていないじゃないですか」

 魔術師はお人好しなところがある。


 店を出て、なんとなく並んで歩き出す。大通りでは、片付けを始める店もちらほら――

「助けていただいて、ありがとうございます。

 でも、どうしてここにいらっしゃったのですか? 出張ですか?」

「あー、僕も異動して来ました」

 魔術師は目を逸らして、照れたように言う。

「……そうですか」

 異動ということは、この街に住むのか。でも、それでたまたまこの店の前を通りかかるって……そんなこと、ある?


 プライベートに踏み込むようで質問していいのかわからず、言葉が出てこない。

 そんな私の顔を楽しそうに眺めている。驚かせようと思って成功したときのように。

「落ち着いたら、ここの街を案内してくれる?」

「いいですよ。私もまだそんなに詳しくないですけど」

 観光案内なら地元の人に訊いた方がいいだろうが、この魔術師は人見知りなところがあるらしい。彼の兄嫁がそんなことを言っていた。

 彼のご家族にはお世話になったし、私がお役に立てることがあるなら恩返しをしたい。


「引っ越しというと、兄嫁さまも馬車でこちらにいらしてるんですか?」

 彼も寮に入るのだろうか。

 親戚でもないのに私の引っ越しを手伝ってくださったのだ。義理の弟なら尚更……。

「いや、『一人でできるでしょ』と追い出されたよ。あ、嘘うそ。ちょっと大げさに言いました」

「もう、なんですか、それ」

 思わず腕を叩きそうになって、手を止めた。親しく接してくれても、相手は貴族だ。適切な距離を取らなければ。


「あ、そうだ。今日の夕飯の予定は?」

 いつもぼさぼさの髪の毛が整えられている。顔をのぞき込まれて、ドキッとしてしまった。

「寮の食事はキャンセルしてあるので、適当に買って帰ろうかと」

「それなら、僕と一緒に食事に行こうよ!」

 夕日に照らされて、魔術師の顔が真っ赤に染まっている。こんなに勢いよく言うなんて、よほどお腹が空いているのだろう。


「私、平民が行くお店しか知らないのですけど……」

 今日の彼の格好は、どう見ても貴族だ。下手なお店には連れて行けない。

「あー、じゃあ、軍の人が行くお店は? そういうお店なら、平民も貴族もいて安心でしょ」

「そうですね。では、行きましょうか」

 ふいに、この魔術師がお酒に酔って、意地の悪いことを言ってきたことを思い出した。お酒の品揃えを自慢しているお店は避けよう。そう考えながら、道を案内する。


 店のショーケースを指差しながら、お菓子屋や文具店など説明をした。どんなものを買ったか質問されて答えると、些細なことにも興味を持ってくれる。

 この土地に来て二ヶ月ほど。仕事と体調管理だけをしてきたような気がしていたが、少しずつ街の知識が増えていたのを実感した。


「魔術師の兄弟子がこちらに赴任していて、共同研究ということで僕を引っ張ってくれたんだ。それで、昼間にご挨拶にうかがって……」

「だから、パリッとした格好なんですね」

「はい。あの、パリッとした格好は好きですか?」

「貴族っぽい服装は素敵だと思いますが、並んで歩くのが申し訳ないですね。あ、ここの角を曲がります」

「あ、はい。え、申し訳ないとか、そんなことはないです。あ、じゃあ、ドレス、贈ってもいいですか? いや、ドレスはやりすぎか。ワンピースくらいなら……」

 後半は小声で早口だったので、実は聞き取れなかった。

「いただいても着ていく場所がないですよ」

 なんとも気の抜ける会話だなぁと、頬が緩んだ。



 ――知り合いがたくさんいるお店で、休日に二人で夕食を取る。

 それが田舎ではどんな噂になるか、私は失念していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 策士め⋯⋯!  絶対解っていてなんとかふたりでの外食にもっていったな。  兄嫁か母親辺りの入れ知恵か?  まあ外堀埋めるには可愛らしいものだが、主人公のためと思うなら直球で、回りくどいこと一切無しで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ