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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

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混沌

 資材管理の仕事は、場所が変わっても共通する仕事が多い。新しい職場でも、資材管理の部署に配属された。少し違うところを覚えるだけでいいのは、ありがたい。

 私はゆっくりと新しい環境に馴染んで、日常を取り戻していった。



「なあ、いいところに連れて行ってやるよ」

 異動してきたばかりの人間が珍しいのか、付きまとわれるようになった。


「大丈夫? あいつしつこいのよね」

 そんなふうに気にかけてくれる人もできた。

「私、あいつのこと嫌いだわ。初めは親切な人だと思ったけど、思い込みが激しくて」

 昼食の時間が、悪口大会になってしまった。

 あまりにも評判が悪いので、だんだん可哀想になってきた。本人の言い分も聞かずに判断するのは、不公平よね。


 仕事が終わり職場を出たところで、偶然、鉢合わせた。もう何度目かわからないお誘いを受ける。

「――お食事くらいなら、いいですけど」

 根負けに近いかもしれない。

「よし、じゃあ今日の夜な」

「すみません。今日は寮の食事をキャンセルしていないので別の日に……」

「ええ~、そんなの放っとけばいいじゃん」

 あ、確かにしつこい。


「そういうことでしたら、食事の約束自体を白紙に……」

「わかった、わかった。いつならいいの?」

 ……なるほど。これは感じが悪いですね。まるで私の方がわがままを言っているかのよう。



 日を改めて食事に行ったら、まあ、自慢話と悪口ばかり。

 いかに自分がモテるかという自慢と、上手くいかなかった女性たちとのお話。女性たちは自分のレベルについて来れなくなったというのには、首をかしげてしまった。

 他の人を下げて自分を上げるような人とは、友達にならない方がいい。それほど親しくない私にこんなに明け透けに話をするということは、私のこともペラペラと何を言いふらされるかわからない。


 けれど、一方的に話を聞いていると、相手のペースに飲まれてしまうものだ。


 こんなに自分に自信があるのはすごい。どうやったら、こうなれるのか不思議だ。ぜひコツを教えてほしい。

 そんなふうに思えてきた。


 この人たぶん「女なら誰でもいい」タイプの人だ。それなら、こんな私でも相手をしてもらえるかもしれない。

 正直に言うと、人生で一度くらい、恋愛というものを体験してみたいのだ。

 どうせ私は結婚するつもりがないのだから、真面目な人とお付き合いしてはいけない。それは、不誠実というものだ。

 この人に情が湧いて結婚したくなるなんて、想像できない。ある意味、安心してお付き合いできる相手かもしれない。


 そして、つい好奇心に負けて、休日のデートの約束をしてしまう。




 職場では制服を着ているので、わからなかった。

 私服のセンスが……個性的。今日一日、この人の隣を歩くのかと思うと……。

 私に人のセンスをとやかく言う資格はないけれど、これはさすがに――?


 そんな彼は店員に文句をつけ、奇妙な持論を展開していた。私は聞いた覚えのないことを「約束した」と責められて、反論するもねじ伏せられて自信がなくなってくる。


 なんだか既視感が……あ、母だ。


 せっかく母と離れたのに、同じような人と休日を過ごすなんて、何をやっているのだろう。

 本当に、馬鹿で駄目な私。

 ――と、正気に返った。


「あの、今日はここで失礼させていただきます」

 冷めた紅茶を飲み干し、もう終わりにすることにした。精神科の先生に、違和感を大切にして相手に意見を伝えるようにと言われているのを思い出した。


「え? 午後のお茶をして、これからがデートの本番だろう」

 その言い方に、嫌な予感がした。絶対に、ここで帰らなくてはいけない気がする。

「いえ、もう充分です。申し訳ありませんが、私の分のお茶代を置いていきますね」

 サッと立ち上がったが、手首を掴まれてしまった。

「待て待て待て。ふざけるなよ」

 目つきが変わり、脅すように低い声を出してきた。


「でも、全て割り勘ですし、この後の予定も決まっていませんし」

「だから、俺が完璧なプランを立てたって言ってるだろ!」

 か、完璧なプラン? ボロボロの行き当たりばったりじゃなくて?


 ああ、自信がないのも困るけれど、自信だけあっても駄目なんだわ。

「手を放してください!」


 遠慮せず、周りに助けを求めていいと言われたもの。私は自分が悪いと思い込んで、我慢しすぎなんだとも――

 指輪で撃退してもいいかしら。そう考えながら左手の薬指を触る。

 風魔法で吹っ飛ばしたら、隣のテーブルの女の子たちを巻き添えにしそう。怪我させては駄目よね。どうしたらいい……?


「君、手を放したまえ!」

 聞き覚えのある声がした。

 店の入り口を見ると、息を切らし、額に汗をうかべた魔術師の彼がいた。

 王都にいるはずの人が、なぜここに?


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― 新着の感想 ―
物語だから救いの手が入るが、 現実にいたら救いはなく、終わってそうな主人公…
なんか、こういう輩のナンパに対して同情して「本人の言い分も~」と思う事自体がズレてますね… それで結局デートも途中で放り出すならお互い時間の無駄じゃん、と思ってしまう
自己肯定感の低さがこんなのでもいっか……ってなるのか。魔術師に口説かれてる自覚さえあればな、って思ってたらご本人登場! まじゅちゅしがんばえ~・
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