リハビリ
王都より北の少し涼しい場所で、私は新しい生活を始めた。
女子寮に入り、二週間は療養休暇。その後一か月ほどは午後だけの出勤で、体を慣らしていく。
そんな優雅な生活を見て、不愉快になるなと言う方が無理だろう。
食堂で夕食を取っているときのこと。
背中を押されて、私はパンを落としてしまった。
「あら、ごめんなさい。ろくに働かなくてもお腹は空くのかしら。どんなコネを持っていたら、こんな好待遇で異動できるのか教えてよ」
「ずいぶんと優雅な生活よね。心にもゆとりがあるでしょうから、許してくれるでしょ?」
刺々しい言葉をぶつけられた。だが、とても表面的で、幼稚だと思う。もっと心をえぐるような言葉でなければ、刺さらない。
彼女たちの顔をちらりと見たけれど、特に覚える必要もないかとテーブルに向き直った。残りのスープを食べて、部屋に戻った方がよさそうだ。
「なんでこんな性格ブスがいいのよ。男に媚びて、やな感じ」
舌打ちが聞こえた。
「幼なじみだって? そんなの勝てないじゃない。ズルいよね」
まだ私のことを話題にしているのだろうか。しかも、また「幼なじみ」? 私のことだとしたら、いったい何人、自称「幼なじみ」がいるのだろう? 真相は、武芸大会で何度か会っただけとか、そんな程度の話じゃないかな。
思わずため息を吐いてしまい、それが勘に障ったらしい。
「何? あたしたちのこと馬鹿にしてるの?」
肩をぐいっと引っ張られて、スプーンが手から落ちた。カシャンと音がして、注目を集めてしまう。
「申し訳ないけれど、何を言われているのかわかりません」
肩をぎゅっと掴まれているので、その親指を握って、本来曲がらない方に引っ張ってやった。
「痛てててて。何すんのよ」
「私も痛いから、放してほしかっただけです」
とっさに体が動いた。幼い頃に習った護身術が、また体に染みついているのか。そんなことをぼんやりと考えた。
いや、ぼんやりしていてはいけない。彼女たちに釘を刺さないと。
「聞こえてきたお話をまとめると、あなたたちが好きな男性が、私に好意を持っているのでしょうか? それが気に入らなくて私に嫌がらせをするというのは、おかしいですよね」
メンタルを整えるための薬で頭の働きがゆっくりなので、言葉をオブラートに包めない。きっと、今、ストレートに言い過ぎている。
「ちょ、ひどくない?」
「ぶつかってきたり、因縁を付けたりする方がひどいと思います。それに、幼なじみに意地悪をしたら、言いつけられると思わないんですか? お相手からの評価は、だだ下がりですよ」
心に余裕がなくて微笑めない。私は無表情だと怖いらしい。言われている方は怖くないのかな。まるで他人事のようにそう思う。
薬を飲むと辛い気持ちが軽くなるのだけど、世間との間に薄い布がかかっているみたいになる。
「ぷっ」
「そのとおりだね。墓穴掘ってる」
そんな言葉が周囲から聞こえた。
ああ、やっぱり言い過ぎた? 今まで黙ってやり過ごしてきたから、言ってしまうと加減がわからない。




