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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第三章 新しい場所

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人事異動

 私は子爵家の馬車に揺られていた。突然の人事異動で、王都から馬車で四日ほどの場所に向かっている。

 異動の理由は、精神的な負担の軽減のためだと説明された。祭典の襲撃により精神的に不安定な状況になったので、あの公園が生活圏にない場所での勤務が望ましいとのこと。


 異動が決まって、同僚が職場の私物を子爵家に届けに来てくれた。

「異動の理由がなんだか、こじつけみたいなんだけど……」

 先日、上司がお見舞いと異動辞令を持って来てくれた。私が届け出ている住まいでも、実家でもなく、子爵家に……。

「でも、襲撃の後にお母さんに実家に呼び出されたのが引き金でしょ? 完全な嘘ってわけでもないわよ」

「私が母親とうまく関係を築けていないことが、職場の人に知られてしまったのね。それが母の耳に入ったらどうしよう」

 なんだか、申し訳ない。母なりに一生懸命やっているだけなのだから。

「そのときは、そのときでしょ。逆にそれがきっかけで、自分のやっていることを振り返ってくれたらいいんじゃない?」

「母が反省する姿が想像できないわ」

「結構、ひどいこと言ってる」

 と同僚は笑い飛ばした。


「元気になったら王都に戻ってきてね」と言って、帰って行った。



 一人暮らしの部屋の荷物は、兄と弟が勤務地へ送ってくれた。部屋の解約手続きまで――

 その報告をしに来た弟は、何か言いかけてはやめるということを繰り返した。何を言われるのかと構えてしまったが、特に何も言われなかった。

 母がこの引っ越しを知っているかは、怖いから訊かなかった。



 そして、いよいよ赴任するための旅行。同行者は、あの魔術師の兄嫁だ。

 なぜ、この人選なのか、まったくわからない。

 いや、魔術師が同行すると言い出し、ご家族に「婚約者でもないのに男女で旅行などさせられるか」と叱られていたから、彼の代理ということかもしれない。

 どちらにしても、現在進行形で迷惑をかけている。体調が戻ったら、何かお礼をしなければ。



 結局、あのまま一か月ほど魔術師の家にお世話になってしまった。後半は庭を散歩したり、ご家族とお茶をしたりしていたので、彼女とも顔見知りではある。


「あの、心配して付き添っていただき嬉しいのですが、お子様もいらっしゃるのに、申し訳ないです」

「あら、たまには子どもと離れて過ごすのも必要なのよ。こちらの国は、母性を神格化しすぎていると思うわ」

 兄嫁は、三十年前の終戦の仲介をした国の出身だ。


「お話ししていると、あなたはお母様と仲良くしないといけないと思い込んでいるみたいね。たぶん、モデルはわたくしの母国の、『仲良し家族』だと思うのだけど」

 そう言われてみれば、戦前の家父長制から理想の家族像が変わってきている。

「でもね、仲良し家族は実際に存在するけれど、成人したら実家に寄りつかない人もいるのよ」

「そうなんですか?」

「そうよ。喧嘩していなくても、自分の人生を優先するためとか、そんな理由でね。

 こちらの国では、親に反対されて結婚を諦めるという話があるでしょう?

 母国では、成人していたら親は関係ないの。子どもが結婚したことを知らない親だっているわ」

「ええ? それはいくらなんでも……」

 そんなことがあり得るのだろうか。法律で本人たちの合意だけで成立すると謳っているけれど、できるだけ親に祝福してもらいたいと誰もが思うものだと……信じていた。


「だって、血縁関係でも気が合わない人はいるでしょう? お互いに無理する必要はないわ。

 仲良し家族は、気が合うとか、集まると楽しいとか、そういう理由で一緒にいるの。そうなれない人たちを知っているからこそ、そのありがたさがわかる。それで、より一層大切にしているんだわ」

「……」

 あまりの驚きに、言葉が出なかった。

「子どもたちが可愛いのは本当よ。だけど、母親じゃない、わたくしのための時間も必要なの」


 馬は私の驚きなど気にすることもなく、軽快なリズムを刻みながら、新天地へ向かっていく。


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― 新着の感想 ―
現代にも通じる考え方だなあと思いました
 あっこれは良いなあ自分の価値観を客観的に俯瞰する良い機会になる。  自分と違う価値観で(特に己が一番悩み苦にしている部分で)判断し行動原理を組み立ててしかも幸せそうにしている人が目の前にいるという現…
かなり近代的な思想だけど、今の主人公には必要かもしれない。この考えが浸透すればずっと楽になれるでしょうね。
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