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嘘告の功罪 ~「本当は好きだった」は免罪符にならない  作者: 紡里
第二章 その後

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医師

 軍の医療施設には、精神科が設置されている。任務の後に精神のバランスを崩す兵士は珍しくない。

 そこに、父と兄と弟が呼び出された。


「お忙しいところ、恐縮です。

 さて、さっそく本題に入ります。娘さんを少し離れた場所に、配置転換します」


「お言葉ですが、姉は体調不良で仕事を休んでいる状態です。なぜこんな時期に異動なんですか」

 弟は疑問をぶつけた。

「その体調不良が、精神的な負荷によるものだからです。

 あなたたちにお願いしたいのは、母親が彼女に接触しないよう防波堤になることです」

「娘は妻を嫌っているのでしょうか?」

「嫌いになれたら、自分を責めずにすんだかもしれません。もうこれ以上、彼女は母親の『愛情の押しつけ』を受け入れられないでしょう。

 ですが、今までの習慣で、母親の望むような娘になろうと頑張ってしまう。

『嫌だ』と言えるようになるまで、接触を避けるべきだと判断しました」


「そう言えるようになったら、また家族仲良くできると?」

 兄が尋ねる。

「どうでしょうか。あなた方に変わるつもりがないなら、難しいかもしれません。

 今現在、無意識に彼女に我慢をさせている状態なのです。

 彼女だけが変わっても、戻る場所が変わっていなければ、同じことの繰り返しになると思います」


「そんな、嫌なら嫌と言えばいいのに。黙っていて、本当は嫌だったなんて後から言われても……」

 兄が頭を抱えた。


「子どもの頃から何も言わない子でしたか? 段々言わなくなったとしたら、言うだけ無駄だと諦めたということですよ」


「それは……」

 兄は目を泳がせた。闊達な少女が、気がついたら大人しく口答えしなくなっていた。物わかりが良くなるというには、早すぎる年齢だった気がする。


「ここ三年くらい、奥様は武芸大会のお手伝いの間にもめ事を起こしていますよね?

 ご夫人たちから、『手伝いはありがたいが、余計な一言が多い』と距離を置かれていると耳にしました。自分で感情の折り合いをつけるのが苦手なタイプに見えましたから、不思議ではないと思いました。

 なぜ、今頃になって目につくようになったのでしょう?」

 医師は両手の指をクロスさせた。

「気付きませんか? 娘さんが家を出て、奥様の感情の受け皿にならなくなった時期と重なるのです」


 医師は兄の目をのぞき込んだ。

「お兄さん。あなたたちが変わらないままで『家族仲良く』というのが、難しいということをご理解いただけましたか」


「我々はどうしたらいいのでしょう?」

 父が途方に暮れたように言う。


「私は、軍に所属する人間が心身共に健康に働ける環境を整えるのが仕事です。家族問題は、専門ではないのです。ですから、軽いアドバイスとしてお聞きください。

 奥様が人の助言を受け入れられそうなら対話療法を。そうでない場合は、ペットや趣味など愛情や時間を向けられるものをお勧めします。根本的な解決にはならなくても、家庭内の緊張緩和に役立つでしょう。

 関心が娘さんに向かないよう、皆様で奥様の相手をなさってみてください」


 男三人が一瞬怯んだ。医師はそれを冷静に観察する。


「娘さんが一人で受け止めていたものを、大の大人三人で分けるだけです」

 医師は、かなり強い言い方をした。

 娘が母親の感情のはけ口になっていたことが、まだ充分伝わっていないように見えたので。


「同世代の友人に言うべき愚痴も、娘さん相手に言っていたようです。

 あなた方が家事を手伝って、奥様が外に遊びに行けるようにされてもいいかもしれませんね」

 明らかに軍の医師の領域を超えた。

 だが、これで問題があると認識してくれたら、事態の改善に繋がるかもしれない。人の心はそう簡単に変わらない。だが、その気になったときに奇跡のような変化を見せることがある。

 この家族は、どうだろう。


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― 新着の感想 ―
うちの場合は私は父親のせいで自己肯定感が下げられ弟は母親の優しい虐待でメンタルやられた&両親からの下げは姉が一番という地獄な姉弟メンタルだからまだ片親だけヤバくて他兄弟マトモだとマシかもってつい思っち…
いや〜いいお医者様に当たったよね。職務外でなかなかここまで言ってくれないよ。 たぶん3人の鈍くて浅慮な部分が母親の毒親っぷりを増長させたんでしょうね。さすが親子でよく似てるし、夫婦に至っては "割鍋…
弟はまだ低くない見込みはあるが、兄と父は無駄そう。 それを認めてしまうのは家族が不全だったと認めることになるから、夫失格で父失格は認めないだろうな。 兄は年齢的に父より下で負うべき責任も父よりは軽いが…
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