親切
二日間の休日を、子爵家の客間で療養させてもらった。こんなに甘えていいのだろうかと心配になる。
奥様が様子を見に来てくださって、少しお話をした。ベッドに横たわったままで、失礼してしまった。
「ご迷惑だなんて、言わないで。わたくし、あなたに感謝しているのよ」
メイドが枕元に椅子を置き、奥様はそこに優雅に腰掛けている。
「何かございましたでしょうか?」
感謝されるような心当たりはない。
「甥が武芸大会に出たときに、かすり傷をこさえたの。元々親に言われて嫌々やっていたものだから、カンシャクを起こしてしまって。
あなたが傷口を洗って、ガーゼを当ててくれたのです」
医師に診せるほどではない怪我は、そういうことをしていた。たくさんの人の手当てをしたので、実は、怪我人の顔は覚えていない。
「そのときに励ましてもらったのが嬉しかったらしくて。ふふふ。剣の習い事を今でも続けているのよ」
奥様は楽しそうに微笑まれた。
「それは、光栄なことでございます」
覚えていないと言わずに、それらしい返答で誤魔化してしまえ。
「だから、甥の婚約者があなたに嫉妬して、ひどいことを言わないといいのだけれど。余所のご令嬢に注意するのも難しくてね」
奥様のおっしゃることが理解できなくなった。
婚約者が嫉妬?
「あの、多少の悪口には免疫がありますので」
ご心配なく、という気持ちでそう返事をした。
「……どんな悪口を言われたのかしら?」
「そうですね。『意外と地味』、『思ったより大したことない』、『いい気になるな』というのが多い気がします」
「あら……。それも嫉妬されたのだと思うわ」
「そうでしょうか。不思議ですね」
体調がよくないせいか、奥様と会話が噛みあっていない気がする。
メイドが「奥様。お嬢様の負担になりますので、そろそろ……」と声をかけてくれた。
「あら、そうね。わたくしとしたことが」
奥様はそう言って、お立ちになった。
二日目の夕方に、一人暮らしの部屋に戻ることにした。明日は出勤しなければ。
奥様と息子の魔術師に丁寧にお礼を言って、子爵家の馬車で送ってもらった。
御者は私が階段を上りきるまで見届けると言って、建物の入り口に立っている。途中で息切れして立ち止まったりしたら、心配されてしまう。気合いを入れて登らなければ。
階段の手すりに手をかけたところで、管理人に声をかけられた。
「あなたのお母さんから、差し入れを預かっているわよ」
心臓が飛び出るかと思った。
「体調が悪いと聞いて、消化にいいものを持ってきてくださったのよ。冷蔵魔導具に入れておいたから……」
耳鳴りがして、膝から力が抜けた。
御者が駆け寄って体を支えてくれる。
親切をありがたいと思えない、悪い子でごめんなさい。




