母親
短いです。
処刑当日、彼の母親が会場で騒ぎを起こしたらしい。会場を警備していた兵士たちに当然捕まった。数日勾留され、取り調べも受ける。
自分の人生をかけて抗議をするとは、なんと大きな愛情なのか。少し羨ましいという気持ちになる。その一方で、判決が出る前に動かなければ意味はないのに、と不思議に思った。
たっぷり愛されたから、彼はあんなに自分に自信があったのかもしれない。
けれど、あそこまで話が通じなくなってしまうのは……ちょっと考えてしまう。嫌だと言っているのに通じないのは、恐怖だった。
実家の母から呼び出しがかかった。
「襲撃に巻き込まれたなら、無事な姿を見せなさい」と。
「行きたくないわ」
夕方に近づくにつれて、愚痴が増えていく。
「こういう日に限って、残業もないしねぇ」
同僚が、そっけない相槌を打つ。
母からの愛情がないとは言わない。
だが、それは彼女が考える「正しい愛情」であって、こちらがそれを嬉しいと思うかどうかは無視されるのだ。
一人の人間として扱われていないような、不快感がまとわりつく。
もう何度目かわからないため息が出た。
「姉貴、ごめん! 緊急出動だ」
実家に住んでいる弟と、一緒に帰宅する約束だった。
「わかった。こっちは気にしないで。ご武運を」
「ありがと。行ってくる」
弟は廊下を駆け出していった。
「忙しいときに、わざわざ言いに来てくれたのね。悪いことをしちゃったわ」
「……一人で大丈夫?」
同僚が小声で訊いてきた。
「仕方ないわ。取って食われるわけじゃないもの」
「実家に行く人の発言じゃないわね」
「確かに……」
いつもなら微笑みながら言える台詞が、喉に詰まって続けられなかった。




