集中砲火
本編を第一章、番外編を第二章に変更しました。
重い足取りで実家に入る。母親に挨拶をして、弟が緊急出動になったと伝えた。
「まあ。あの子、今日は帰ってこられるのかしら?」
「どうかしら。わからないわ」
すでに弟の話題に夢中で、私の安否確認を口にする気配もない。何のために仕事帰りにわざわざ帰宅させたのかと、胸の中にザラリとした感触が生まれる。
「もう、気が利かない子ね」
「……」
予定外の緊急案件など、どうなるかわからない。そんなこと、百も承知のはず。
ただ、不満を私にぶつけたいだけなのだろう。それを聞き流せない私が狭量らしい。
「ほら、二人分食べていきなさい。せっかくお高いお肉を買ってきたんだから」
テーブルには父が座っていた。四人分の料理を前に、三人しかいない。
「そんなに大量に食べられないわ。あの子だって、夜中に帰ってくるかもしれないんだから……」
「その時はまた作ってあげるわよ。ほら、遠慮しないで。成長期には馬鹿みたいに食べていたじゃない。それで身長が伸びちゃって」
十代前半の食欲と同じように食べられるわけがない。断っているのに、目の前に並べられて、せっつかれる。
味がいいのはわかるが、食べるのが苦痛で仕方なくなってきた。それなのに「もう要らない」と言えない自分が情けない。
「あなた、その指輪なに? 世間様に顔向けできないようなお付き合いはやめてちょうだいね」
私がちゃんと食べているか監視している間に、手元に目が行ったようだ。
「ただの護身用よ。恋愛的な意味はないわ」
「あら、そう? いい人がいたら、連れてきなさい。母さんが見極めてあげるから」
あっという間に興味を失ったようだ。
夕食は母の独壇場で、近所の人の噂話や買い出しの話が途切れることなく続いた。
「祭典であなたが活躍したと聞いたけれど、処刑された人が情報を漏らしたんですってね?
それって、初めから知っていたんじゃないの?」
「……どういう意味?」
嫌な予感がして、食事の手を止めた。
「襲撃されるのを知っていたから、冷静に対処できたんじゃないの? あなたみたいな鈍くさい子が、表彰されるようなすごいことをしたなんて信じられないわ」
ショックで目眩がした。この人は、しゃべっている内容を理解しているのだろうか。
「信じなくてもいいけど、そんなこと外で言わないでよ!」
つい、語気が荒くなってしまった。本当に、まずい。
「な、なによ。ただ不思議だなと思って、訊いただけじゃない」
娘の剣幕に何かを感じ取ったようで、勢いがなくなった。
「いい加減にしろ。うちは武官の家なんだ。考えなしの不用意な発言はするな。
後から冗談だと言っても、疑惑が残ったらどうする。娘が不適切なことを企んで、祭典を妨害しようとしたと言うつもりか。
我が家に情報漏洩の犯罪者などいるはずがないだろう」
「そんなつもりは……わかりましたよ。もう、しゃべりません」
母は唇を巻き込むようにして、口を閉じた。
父と顔を見合わせて、小さくため息を吐いた。
完全に機嫌を損ねてしまった。ムードメーカーの弟がいないので、冷えた空気のまま食事会は終わった。
帰り道、お腹がはち切れそうで、まっすぐ歩くのが難しくなった。
道ばたに座り込み、とうとう吐いてしまう。胃の中のものが次から次へと……。涙を流しながら、こんな量は胃が処理できないわよねと、笑いたくなった。




