指輪の話
番外編として書きましたが、第二章に変更します。
処刑が終わり、しばらくすると日常が戻ってきた。
そんな中、魔術師に仕事帰りに食事に誘われた。
「これ、預かってきたから返すね」
襲撃の後、聴取担当の人に渡した指輪だ。書類を出されて、返還の受領欄にサインをする。
普通、こういうやり取りは職場でするものだと思う。魔術師は、一般的なルールを意に介さない人が多い。
「襲撃の調査の一環だったので、製作者に了承を取らないで提出してしまいました。すみません」
サインした書類を返しながら、一応詫びておく。
「いや、そんな。調査に協力するのは当然のことだから」
にこにこと優しい言葉を返された。
魔術師は書類を鞄にしまってから、メニューを開いた。
「人を殺傷せずに制圧できるなんて、警備に使えるんだから報告しろと叱られたよ」
へらっと笑いながら、そんなことを言った。
「え? それって、これがすごい技術ということですよね? 新たな発明品ということ?」
「あー、うん? そんな大したものじゃないけどね。休みの日にちゃちゃっと。茹でた豆を頼みたいな」
「ちゃちゃっとって……。枝豆と空豆がありますけど、どっちにします?」
感心と呆れが交互に来て、情緒がめちゃくちゃ忙しい。とりあえず、夕飯を食べて落ち着こう。
いくつか注文をして、メニューをテーブルの脇に立てた。
指輪は透明の袋に入ったままテーブルの上にある。袋には資料番号が書いてあり、どう見ても恋愛小説の小道具ではなく、推理小説のそれだ。
「魔力を充填しておいたから、よかったらまた着けてほしいな。
あの、処刑された彼の母親とか、要注意みたいだから……」
魔術師は柔らかく、腰が低い。お願いするという形で、指輪をくれるのだ。
頼んでいた飲み物が届き、軽く乾杯をする。私はアルコールが入っていない、冷たいお茶を頼んだ。一日の仕事が終わったという、開放感が心地いい。
「ご家族に、逆恨みされているのかしら」
私のせいではないと思う。同時に、誰かを責めずにいられないのかもしれない、とも思う。
「……かもしれない。人の心は難しい。用心するにこしたことはないと思う」
そう言われて、私は袋から指輪を取り出した。
その様子を見ながら、ビールに口をつけていた魔術師がむせた。
「ゆ、指輪、左手の薬指でいいの? その……僕は構わないけど、人差し指の方が狙いを定めやすいかも」
そう言われて、自分の顔が赤くなるのを感じた。
「人差し指には入らないの。……ゆ、指が太いから」
恥ずかしい。指が太いこともだけど、わざと薬指のサイズにしたのかと邪推したことも……。
「あ、指のサイズか。確認しないでごめんね」
魔術師は作り直そうかと言いかけたかと思えば、今のままでいいかと呟いたり、混乱しているようだ。
ああ、穴があったら入りたい。
こんな時に限って、枝豆が飛び跳ねてテーブルを転がったりするのだ。




