十一話 白のジョブ診断
更新が遅れてしまい申し訳ありません…折角のハロウィンなので番外編を書こうかと迷っていたら時間だけが過ぎてしまいました。結局、番外編は書かないことにしました。
アルカが儀式の間に入ると、まず目に入ったのは美しい”青色”をした水晶のようなものが乗っている中央にある台座だった。
台座の上にある水晶はステンドガラスから漏れた光を浴び、美しく、幻想的に輝いていた。
水晶を見たアルカはハソンに付いていくことを忘れたかのように入り口で立ち止まってしまう。感嘆のため息をつき、水晶に見惚れていると台座の向こう側に立ったハソンに声をかけられる。
「それではアルカ君。こちらに来てください」
「…へ?…あっ、はい!すみません…」
意識を戻したアルカは、申し訳なさそうな顔をしながら小走りで台座へと向かう。台座を挟んでアルカと向き合ったハソンは懐から本を取り出す。
「では、アルカ君。両手を水晶に置いてください」
「は、はい。分かりました」
アルカは恐る恐る水晶に両手を乗せる。すると、水晶は少しずつ輝き始める。
「それではゆっくりと魔力を水晶に流し込んでください。私が許可を出すまで流し続けてください」
「分かりました!」
流石に緊張が解けたのか、アルカは力強い返事をし、少しずつ水晶に自身の魔力を注いでいく。すると、青く美しかった水晶は徐々に、全ての光を拒むような黒、漆黒に染まっていく。
アルカは驚き水晶から手を放しそうになるも、ハソンに目で止められる。その状態のまま幾分か魔力を注ぎ続けているとハソンに声をかけられる。
「もういいですよアルカ君。しかし、この状態は久しぶりに見ましたね」
「あ、あのっ!何か駄目でしたか?」
アルカは不安そうにハソンを見つめる。だが、ハソンは柔和な笑みを浮かべながら優しく否定する。
「心配をさせてしまったようですみませんねアルカ君。大丈夫ですよ、儀式は決して失敗をしていません。むしろ順調ですよ」
「では、この水晶の状態は…?」
「ああ、この水晶の状態は魔力を流し込んだ者の属性を表しているのですよ。どうやらアルカ君は”人類”にしては珍しい闇属性のようですね。私も久しぶりに見ましたよ。ああ、闇属性は危険なものではないですよ?寧ろ、需要に対して供給が足りてない属性です」
「そうなんですか!それを聞けて安心しました!(闇属性か~!確か、光と対をなす属性だったかな?)」
アルカが内心小躍りしているうちに、ハソンは懐から本を取り出す。
「では、属性も分かりましたし奇跡の方へ参りましょうか」
「あっあの、一つ聞いてもよろしいですか?何故、ジョブ診断の前に属性を調べたのですか?」
「ああ、それはですね属性もジョブに影響する要素の一つなのですよ。ですから、予め知っておくことにより、此方としても幾つかのジョブを事前に予測できるため、先にすることが習わしなのです。闇属性だと、隠密や索敵系のジョブになる傾向が強いですよ」
「そうなんですか!有難うございます」
ハソンが言ったジョブの事前予測は禁忌ジョブに関することなのだが、ハソンは深く説明するつもりはないようだ。禁忌ジョブは保持する属性によって特定できることが神官達の中では常識である。例えば、狂信者は光属性の者、殺戮者は無属性の者などに分けられる。これを知ったところでアルカ達のような受ける側の者は対策をすることができないので、余計な心配を駆けさせないためにハソンは敢えて深くは言わなかったのだろう。
「いえいえ、では始めましょう。アルカ君、水晶に魔力を弱くでもいいから注ぎ続けながら礼拝の姿勢をとってください。水晶の中の魔力と自分が魔力を通して繋がっていることを意識してください。」
アルカはハソンの言った通りに片膝をつき、目を瞑って天に祈るように手を組む。そして、意識を全て水晶と自分の魔力に向ける。
ハソンはアルカの準備が完了すると、本を開き、よく通る声で読みだす。
「第九章第三節。我らが神は、その太陽の如き大いなる力の一部を我ら”人類”に与えてくださった。その力は、我らが生き抜くために、家族、恋人、友を守るために与えられたものである。決して驕り、自惚れ、神聖なる力を悪事に使ってはならない。この力は善行の為に使うものであり悪行の為に使うものでは非ず。力に溺れてはならない。この大いなる力は我らの忠誠の証、汚してはならない。神が与えてくだっさたこの力は平等に受け取ることができる。何故なら、我らは神に愛された種族なのだから。」
ハソンは本を閉じ、懐に入れ、両手を前に突き出す。
「アルカ・ネフス。汝は力に溺れることなく正しく使い、正しき道へ進むことを誓うか」
「太陽の神ラース様の名において誓います。」
「宜しい。では受け取りなさい。」
ハソンの両手に魔力が集まり、水晶も呼応するように輝きだす。ハソンの両手から漏れた魔力は少しづつ、アルカに降りかかる。
『大いなる我らが神よ、弱小なる御身にこの世界を生き抜く力をお与えください──【奇跡:祝福の喝采】』
瞬間、アルカの体に魔力が集まりだす。アルカは自身の中に温かい何かが入り込んでくるが、まったく不快ではなく、寧ろ心地よい気分になっていく。それと同時に、今まで感じたことがなかった、力強い魔力が体の奥底から沸き起こる。
(体が熱い…これが僕の力…!)
アルカは体に自身の魔力が定着したのを確認すると祈りの姿勢を解き、立ち上がる。
「これで、ジョブ診断は終わりです。アルカ君、『清書』を渡して下さい」
アルカは興奮する気持ちを抑えてハソンに『清書』を渡す。
ハソンは未だに微量ではあるがアルカの魔力がある水晶に『清書』をかざし、魔力を放つ。すると、水晶に残っていた魔力が空中にユラユラと現れ、『清書』に吸い込まれていく。吸い込まれた魔力は『清書』の上で動き出し、”文字”を模っていく。
「わぁ…すごい…!」
アルカは摩訶不思議な現象をキラキラした目で見つめる。
水晶からすべての魔力が無くなったと同時に『清書』も完成した。
完成した『清書』を見たハソンは薄く目を開け、氷のように冷たい眼差しで『清書』を見つめる。
(成程…レイ様の言ったとおりになりましたね…。如何やら、運命というものは残酷なようですね)
ハソンは『清書』の一部分を軽く”拭った”後、笑みを浮かべながらまだかまだかとこちらを窺うアルカに渡す。
「アルカ君、これが”ステータスカード”です。君の名前や属性、ジョブに固有スキルが記されている大切なものです。再発行は可能ですが失くさないように大切に扱ってください。」
「分かりました!有難うございます!」
アルカは元気よく答えた後、自身の”ステータスカード”のジョブの欄を物凄い勢いで穴が開くように見つめた。
▽▽▽
「じゃ~んけんぽんっ!よし!ボクの勝ちー!じゃ、次はボクがジョブ診断を受けさせてもらうね♪」
「何故だ…なぜ俺が最後なんだ…」
「別に順番でジョブが変わる訳でもないからいいじゃないですかソーレンさん」
「なら順番を代わってくれよリナちゃん!」
「嫌です」
アルカが儀式の間でジョブ診断を受けている時、外ではレイア達がジョブ診断を受ける順番を決めていた。結果はレイア、リナ、カノア、カリオス、ソーレンの順番となった。
ソーレンは不服なのか地面にのの字を書いていじけている。土いじりが好きなのだろうか。
五人は順番を決め終わった後、”ジョブ”についての話に花を咲かせていた。勿論土いじり男はいじけたままだ。時折チラチラっと四人の方を見るが誰も気にしていない。不憫だ。
ソーレンがいじけていても構ってもらえないと思い、四人に話しかけようとしたその時、儀式の間から歓喜の声が上がる。
「やっっったぁぁぁあああああ!!!!!テイマーだ!!」
「…今の声はアルカだね!」
「兄貴、テイマーになれたみたいだな!」
「願った通りのジョブになれるとは…アイツは運がいいな!」
「今夜は赤飯ですね」
アルカの歓喜の声を聴いた四人は顔を綻ばせ、まるで自分のことのように嬉しがる。
だがその場に一人、険しい顔をし、ブツブツ独り言をつぶやく者がいた。
「アルカはテイマーになったか…今のところ”あの方”が言ったとおりに”シナリオ”が進んでいる…か。喜ぶべきなのか、外れたほうが良かったのか…。兎に角”アイツ”に連絡を──」
「何さっきから一人で喋ってんだ?流石の俺様も引くぞ…」
「気持ち悪いです」
「ひでぇ!?」
どこかシリアスな雰囲気を出していた黒もやしは安定の、この扱い様である。この後もレイアの番が来るまでいじられ続けたそうな…
閑話休題。
アルカは己の手にあるステータスカードの”第一ジョブ”の欄に念願の≪テイマー≫が記されているのを見て歓喜に震え、神に感謝をしていた。実際問題、希少ジョブである≪テイマー≫になれたことは、とても運の良いことであろう。
アルカは神への感謝を終え、残りの部分に目を通して行くがある欄を見て、目を大きく開き固まってしまう。
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アルカ・ネフス
属性:闇
第一ジョブ:テイマー
第二ジョブ:暗殺者
固有スキル:───
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「え…?…は?」
数秒固まった後に漏れ出した言葉は、先程とは違った意味で震えていた。
アルカはへたり込もうとする体を無理やり押さえつけ、震える声で、縋るような目をしながらハソンに問う。
「ハ、ハソン様…ぼっ僕の第二ジョブが…第二ジョブが…」
「第二ジョブがどうしたのですかなアルカ君?」
「こっこれです!」
アルカは震える手で持つ、ステータスカードをハソンに渡す。しかし、ハソンはアルカから受け取ったステータスカードを見てもこれといった反応を見せなかった。
「フム…。私には第二ジョブなんて見えませんよアルカ君?そもそもアルカ君は二職持ちではないですよ?」
「ですがここに!…ってアレ?」
ハソンの言葉の後、アルカが自身のステータスカードを確認すると第二ジョブの欄ごと元々記されていなかったように空欄になっていた。
「確かに書いてあったはずなのに…?」
「もしや、幻視職現象かもしれませんね」
「何ですかそれは?」
「自分が第二ジョブを持った場合に、どの様なジョブになったかがジョブ診断の直後にのみ、ステータスカードに現れる現象です。つまり、二番目に自分にあったジョブが一時的に見える現象です。害はなく、寧ろこの現象が起こることは幸運ですよ?自分に適性があるジョブが知れるのですから。」
「そうなんですか…因みにそれが禁忌ジョブだった場合はどうなるんですか…?」
「どうもなりませんよ。ですが、禁忌ジョブになる可能性が有るということは十分危険な状態です。行動や思考の改善をした方が良いでしょうな。まさか、禁忌ジョブが見えましたかな?」
「い、いえ違います!変なこと聞いてすみません…(暗殺者のジョブになっていた可能性が有ったってことなのか…。如何すればいいか分からないけど、とにかく気を付けよう…)」
アルカは自分が禁忌ジョブになる可能性があったことに恐怖し、此れからはもっと心を強く持って生きていこうと決心する。
因みに、この幻視職はダブルではない人には度々起こる現象なので珍しくもない。自分が二職持ちだと喜んだら、実は幻視職だった、ということがよくあり、王都では”虚職”とも呼ばれている。上げて落とすものはかなり精神的に来るので、この現象のせいで気分を落とす人も多い。
ハソンがもう一度、水晶に魔力を残っていないかを確認した後、アルカに退出を促す。
「それではアルカ君、これでジョブ診断は終わりです。退出の際は裏口を使ってください。後、ジョブ診断がまだ終わっていない他の五人には会わないようにしてください。ジョブ診断直後はまだ魔力が完璧には定着していないので、レイアさん達に影響を与えてしまう可能性がありますから。」
「分かりました!ハソン様、有難うございました!失礼します」
アルカはハソンに言われた通りに裏口を使いレイア達がいる方と反対側に出る。
アルカが外に出るのと入れ替わるように、ハソンとともにアルヒ村にやって来た二人の神官が入ってくる。ソーレンが見惚れていた女性の神官の手には、台座にあるものと全く同じ水晶があった。
「ハソン様、もう一台の水晶の準備が整いました。」
「分かりました。では次からは二人同時にしていきましょうか。レイ様の予言からするとその方が宜しいでしょう。」
「分かりました。では私たちは次の二人を呼んできます」
女性の神官と男性の神官はレイア達を呼ぶために外に出る。儀式の間に一人残ったハソンは水晶が反射する太陽の光を眩しそうにしながら片手を強く握る。すると片手から魔力で模られた文字が流れ出る。それは、ある禁忌ジョブの名前で…
「この選択がどのような結果をもたらすことになるのでしょうか…。破滅か、救いか…私には祈ることしかできません…なんと煩わしいことでしょうか…。」
老人のため息が儀式の間に響く。
その音をかき消すように扉が開き、二名の神官に連れられた赤髪の少女と金髪の少女が入ってくる。
ハソンは眩しそうに目を細めながら懐から本を出す。
「それではお二人とも、両手を水晶に置いて、少しづつ魔力を注いでください。(例えどの様なことが起きようとも、私はただ受け止める事しか出来ないのでしょうね…。だから”今回”こそ、終わらせてくれることを期待していますよ…?)」
老人は水晶から全ての闇を払うかのような光を出す少女の方を老いを感じさせない目で見た。だが、その眼の奥はあまりにも複雑で、あまりにも弱っていた…。
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アルカ・ネフス
属性:闇
第一ジョブ:テイマー
第二ジョブ:───
固有スキル:───
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カリオス「ハロウィンの番外編、カノアが主人公のものだったらしいぞ」
カノア「ガッデーム!」




