十話 ジョブ診断開始
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空は終わりを告げるように暗く、村は炎や血という名の絵の具で、真っ赤に塗りたくられ、化粧をして地獄のような姿に変貌していた。
そんな地獄の中を一人の少女が必死に幼い少年の手を握って走っていた。
二人とも体のあちこちに傷があり、服も破れ酷い格好となっている。
道端には、首を斬られた死体、腹をえぐられ苦痛の表情をこちらに向ける死体、四肢を削ぎ落とされ絶望の表情で固まっている死体。死体死体死体死体死体。兎に角どこに目を向けても死体が映り、村を燃やす炎が更に死体の形、表情をクリアにする。
少女はひたすら前を向いて目に入れないようにし、幼い少年はギュッと目を瞑って手を引かれるままに走っている。
「…はやくっはやく行かないと!立ち止まってる暇はないんだから…!」
少女は自分に言い聞かせるようにして言葉を紡ぐ。左手でつかんでいる小さな”家族”の手を確認するようにギュッと握りしめ、村の奥に進んで行く。
後方からは叫び声や怒号、金属が交わる音が聞こえてくる。少女は顔を滲ませてうっすらと涙が浮かぶ目を乱暴に擦る。
「おねぇちゃん…」
すると、後ろから不安そうな声で”弟”が声をかけてくる。
少女は歩みを止めずに無理やり笑みを浮かべながら、自分と同じ”白色の髪”をもった弟の頭を撫でる。
「大丈夫だから。お姉ちゃんに任せて!何も心配しなくてもいいから!」
「…うん」
歩みを止めずに、少年は少女の無理やりな笑みを”赤い瞳”でまっすぐに見る。少女も”赤い瞳”で少年のことを笑みを浮かべながら見つめる。
「はぁはぁ…やっと着いた!」
少女は開けた場所にある祠のようなものの前に来ると足を止め、掴んでいた少年の手を放して、屈みこみ少年と目を合わせて話しかける。
「ここなら絶対に安全だから。ここに入って大人しくしててね?」
「おねぇちゃんはどうするの…?」
「お姉ちゃんも一緒にいるよ?けど、結界を張るために魔力を流さなくちゃいけないから先に入っててね?」
「うん。はやくきてね?」
少女は不安そうな顔をしている少年を祠の中に入れ、入り口にある鉱石に触れる。すると、少女の体から尋常ではない程の魔力があふれ出し、それに呼応するように祠が青白く光りだす。
「お、おねぇちゃん!?」
「この祠はね、『転移の祠』って呼ばれてて、魔力を流すと行きたい場所に行けるの。よく聞いてね、座標は『知恵を持つ生物がいて、比較的安全な集落』にしたから、安全な場所に行くはずだよ…そこに飛ばされた後、必ず誰かに頼りなさい。けど、”人類”はだめよ?魔族か獣人、魔獣でもいいわ。兎に角誰かに頼って生き延びて」
「おねぇちゃんは、どうするの!?いっしょにいてくれるって!」
「ごめんね…お姉ちゃんの魔力だと一人飛ばすのが限界なの…。けど、心配しないで。必ず会いに行くから…だから絶対に生き延びてね…」
少女の体からあふれる魔力が視認できるほど濃くなり、祠は青白い光を目を開けていられない程出しながら震えだす。
「いやだっ!いやだいやだいやだ!ひとりにしないでよ!おねぇちゃん!おねえちゃんっ!!!」
「ごめんね…今はこれだけしか言えないけど、必ず会いに行くから…どんな場所にいても、どんなことがあっても必ず会いに行くからっ!!!」
より一層光が増し、光は涙で顔がボロボロになった少年を包み込む。少女の体から、一層濃い魔力が放たれたのと同時に祠から少年の姿が消える。
少女は倦怠感を感じ、重くなった体を祠に寄りかける。
「必ず会いに行くから…待っててね”アルカ”…」
愛する家族の名を呟いた少女は真っすぐ前を向く。
村を包んでいた叫び声や怒号はなくなり、大地を踏みしめる音だけが村に響いていた…
▽▽▽
「待って!!!」
「うひょわ!?」
自室の仄かに太陽の香りがするベッドの上で、アルカは普段は考えられないほどの大きな声を出しながら起き上がった。すると、何故か隣にいたカノアが素っ頓狂な声を出しながらベットから転がり落ちる。
アルカは起き上がったまま不思議そうに自分の何かを掴もうと伸ばされた手をしばしば見つめていたが、近くから呻き声が聞こえてきたので、そちらの方に意識を向けると頭を押さえながら妹がノソリと立ち上がった。
「あれ、カノア何でいるの?」
「あ、兄貴を起こしに来たんだよっ!別にやましいことをしに来たわけじゃ──って、なんで泣いてるの!?」
「あ、あれ何でだろう…?怖い夢でも見たからかな?」
アルカは目元に溜まっていた涙を拭いながらカノアに微笑みかける。何処となく焦った様子のカノアは少し頬を赤く染めながらため息を吐く。
「まあ、いいよ。何か辛いことがあったら相談していいんだぜ?家族なんだから。朝ご飯出来てるから兄貴も早く来いよっ!今日はジョブ診断だから早く済ませないといけないしな!」
「ああ、うんそうだね。着替えたら行くから先に行っててよ!」
カノアが部屋から出て行ったのを確認したアルカは寝間着を脱ぎ、お気に入りのフードが付いた服と値段が安かったズボンを穿き、後ろの髪を短く纏めると部屋を出て美味しそうな香りがするリビングへと向かった。
「おはようございます兄さん」
「おはようリナ」
リビングに入ると、いつも通り、三つある席のうちの二つに赤髪の双子が座っており、片方は朝食を食べ始めており、もう片方は兄を待っていたのか朝食には手を付けていなかった。
朝食に手を付けていなかった方の妹、リナの挨拶に返事をしたアルカは自分の席に座り、食事を始める。
兄が食べ始めたのを見たリナも朝食を食べ始める。
「今日はとうとうジョブ診断だねぇ。やっとって感じだよ」
「兄さんは心待ちにしていましたしね」
「あたしは結構早く感じたけどなぁ」
「まあ、人によって時間の感じ方は変わるしね」
「それにカノアは、兄さん程ジョブ診断を楽しみにしていなかったというのもあるんじゃないんでしょうか」
「ん~確かになぁ。兄貴はずっと調教職に就きたいってうるさかったもんなぁ」
「しっ仕方ないだろ!スイ達が獣魔契約に応じてくれるって言ってくれたから居てもたってもいられなくなっちゃって…」
いつも通りに三人はほのぼのとした会話をしながら朝食を食べ進める。三人が食事を終え、紅茶を飲んで休憩していると洗い物を終えたリナが二人に話しかける。
「そろそろジョブ診断の方へ行きませんか?お昼頃からと言われましたが早く行く分には迷惑は掛からないでしょうし。」
「確かにそうだね。行くとしようか」
「りょうか~い」
リナの提案に乗った二人は紅茶を飲み干し、準備を始める。すると家のドアがノックされる。
「はーい!どちら様ですか?」
「よっアルカ!」
「おはようアルカ!」
「おっはよー!アルカ!」
アルカがドアを開けるとソーレン、カリオス、レイアの三人がいた。
「おはよう三人とも!どうしてここに?」
「いや、せっかくのジョブ診断なんだし、みんなで一緒に行こうと思ってだな」
「そういうことー!」
ソーレンがそう説明するとレイアが便乗する。彼女の家は村の中心にあるためどう考えても遠回りなのだが気にしていないようだ。
「そっか!僕たちもそろそろ行こうと思ってたんだよ!」
「おおっそりゃグッドタイミングだったな。さすが俺!おっリナちゃんとカノアちゃんも来たか!」
「皆さんおはようございます。」
「ちーす」
身だしなみを整えた双子がアルカ家から出てきたことを確認したソーレンは拳を突き上げ叫ぶ。
「それじゃぁ、夢と希望が詰まった人生の分岐点であるジョブ診断を受けに行くぞー!」
「おー!」
返事をしてくれたのはアルカ一人だけであるが、ソーレンは気にした様子もなくずんずんと歩いて行く。他の五人もついて行くように歩き始める。
「そういえばみんなジョブを貰った後どうするの?」
儀式の間に向かう途中、暇になったレイアは素朴な疑問を他の五人に問う。
「あたしは戦闘ジョブでも非戦闘ジョブであっても、この村で今と変わらず過ごしていくつもりだな~」
「僕も、この村で今まで通りの生活をしていきたいと思ってるよ」
「ボクも”アルカ”と同じく村で生活していこうと思ってるよ!」
この村で今まで通りに生活していこうと考えている、カノア、アルカ、レイアはさらりと答える。
すると、リナが少し悩んだ表情を見せながら答える。
「私は魔法が今以上に使えるようになるジョブになれたら王都の魔法学園に通いたいと思っています」
「…え?」
今まで誰にも言っていなかった自分の思いをリナが言い、カノアが驚きの表情になる。アルカは目を瞑り何かを考えているそぶりを見せる。
「本当なのかリナ?」
「ええ、カノア。私は本気です。」
「そんなこと聞いてないぞ…」
「ええ、否定されると思って言っていませんでした。私自身も今はありますが、明確な覚悟があったわけではありませんし」
「もちろん否定するさ!リナは運動音痴なんだから一人で王都なんかいったら危ねぇよ!」
「分かっていますよ。でも私は魔法を今以上に自由自在に操れるようになりたいんです。」
「…僕は賛成だよ」
「兄貴!?」
「兄さん!」
思わぬ人物からの援護射撃にリナとカノアは驚きの表情を見せる。傍観していた三人も声には出さないが驚いている様子である。
「驚きました。兄さんが一番止めてくると思っていたのですが…」
「確かに前までの僕なら止めていただろうね。けど、今の僕はそうじゃない。思ったんだ。僕のせいで皆の道を狭めたくないって。だからこれからは僕のことを気にしてくれなくても大丈夫だよ。自分のやりたいことをやればいいと思うよ!」
「兄さん…!」
「兄貴がそういうなら仕方ないな…!あたしも応援するよリナ!」
「カノア!」
「もちろん俺様達も応援させてもらおう!」
カノアはリナの背中を笑顔で叩き、カリオスはガハガハと笑いながら意見を述べる。レイアとソーレンもカリオスの言葉に同意を示すように頷いている。
「カリオスさんもレイアさんも有難うございます!」
「おっと、俺も応援してるぜリナちゃ──」
「皆少しいいか?この機会に皆に俺様から言っておきたいことがある。」
若干一名ハブられた男が自分をアピールしようとするが真剣な表情をしたカリオスが放った言葉にかき消される。アルカはカリオスを心配そうに見つめ、黒もやしは恨めしそうに見つめている。
「今まで話せていなかったんだが。俺様はジョブ診断が終わればすぐに王都に向かおうと思っている。俺様の家は兄弟が多いから、金を稼ぎに行ってくる。もしかしたら次に会えるのは十年や二十年後かもしれないが…それでも俺様は行くつもりだ。今まで黙っていてスマン」
カリオスは五人に頭を下げる。アルカは不安と心配が入り混じった顔で他の皆の顔色を窺う。
だがその心配は杞憂に終わったようだ。他の四人の顔には笑顔があったからだ。
「言うのが遅いよカリオス!何か手伝えることがあれば村長の孫であるこのボクに言ってよ!」
「人のことは言えませんが確かに言うのが遅いですよ。私も力になれることがあればいつでも相談してください。」
「あたしも二人と同じく、困ったことがあったら言ってよ!」
「まったく…そんなこと早く俺たちに相談してくれれば良かったのによ!変なところでお前は頑固だな。(ま、知っていたんだがな…)」
「お前たち…ありがとうっ!」
「良かったねカリオス!頑張るんだよ!」
「ああ!」
カリオスとアルカは満面の笑みでハイタッチを交わす。そんな二人を見た他の四人も笑顔になり、先ほどまで微妙にあった緊張感がなくなっていく。
「次は俺だな!俺も王都に行って冒険者に──」
「なんじゃ、お前たち待ちきれなくなったのか?」
ソーレンが意気揚々としゃべりだそうとするが、残念ながら儀式の間へと着いてしまった。
儀式の間の前では村長と神官のハソンがいた。アルカは昨日とは違いハソンに対する負の感情が起こらなかった。
「おはようございます村長、ハソン様!実はそうなんです…駄目でしたか?」
「いえいえ、準備の方は終わっているので少し早いですが始めるとしましょうか。では、村長さんアレを」
「分かりました。ほらお前たち、受け取るのじゃ」
村長は六人に奇麗な紙を渡す。その紙は翼のマークが書かれている以外、これといった特徴のない紙であった。
「あの、これは何でしょうか?」
リナが全員が思っていることを聞くと、ハソンは自分の髭を撫でながら答える。
「それは『清書』と呼ばれる紙です。ジョブ診断で出されたジョブやあなた達の適正属性、固有スキルがジョブ診断後、記されるものなのです。」
「成程です。有難うございます」
「ほかに質問はありませんか?ではジョブ診断を行いましょう。神の奇跡故、複数人で受けることができません。なので一人ずつ儀式の間へとお入りください。では、まずアルカ君から行きましょうか」
「ひゃいっ!」
アルカはゼンマイ式の人形のようにカチコチになりながらハソンの後ろに付いて行き、儀式の間へと入っていった。そんな、後姿を皆笑いながら見送った。若干一名、拗ねて地面にのの字を書いている男もいるが触れないでおこう。
ソーレン「最近俺の扱いがひどい気がする」
レイア「これからもだよ」
ソーレン「あひゃひゃひゃひゃひゃ」
アルカ「ソーレンが壊れた!」
カノア「この人でなし!」




