第90話 妖精の物語③
とある森の中にある孤児院。そこでは一人の女性が多くの行き場のない子供達のお世話をしていた。
「お久しぶりですね、スズ」
「もう、何も連絡なしで突然来ないでくださいよ。ただでさえ貴女は女王なのですから、ニア」
スズと呼ばれた女性は、ニア様とは親しい仲らしくとても優しそうな第一印象を受けた。
「それで今日はわざわざここに何をしに?」
「そうでした、スズ、まだここにはあれはありますか?」
「あれ? ああ、ちゃんと保管していますよ。ニアに頼まれましたから」
「ちょっとそれを持って来てくれませんか?」
「いいですけど……それより隣にいる妖精は?」
「私達の新しい仲間で、フリスと言います」
「フリスです」
「私はスズ、ニアとは長い付き合いがあるんです、よろしくね」
「よろしくお願いします」
私は少しぶっきらぼうに返事をする。そんな私を見て聞こえてきた彼女の声はこんな感じだった。
『見た感じはぐれ妖精みたいなのかしら。それにしても、ニアがわざわざ連れてくるくらいだから、事情でもあるのかしら』
はぐれ妖精
初めてそんな言葉を聞いたけど私には何となくその意味が伝わる。私は本来人間であり、この世界ではある意味異物。それをはぐれ妖精と呼ぶのは相応しいと思う。
「彼女も一緒に見て大丈夫なんですか?」
「その為に連れて来たんです」
「もしかして会わせるんですか? 彼女に」
「フリスは私達とは違う世界からやって来た転生者です。そして彼女は偶然にも私の力を引き継いでしまいました」
「ニアの……力? まさか!」
「はい。彼女はある時を境に人の心の声が聞こえるようになってしまったんです」
「では彼女は」
「私の跡を継ぐ妖精女王になる子です」
「だから彼女に……」
私の知らないところで話がどんどん進んでいく。
預言書
妖精女王
この二つがどう繋がっているのか私にはサッパリ分からなかった。
「えっと、ニア様」
「すいませんフリス、すっかり話し込んでしまいまして。それでスズ、預言書を持って来てもらえませんか?」
「分かりました。そこでしばらくお待ちください」
そう言うとスズは一度席を外し、私とニア様の二人きりになる。
「一つ気になっていたんですが、いいですか?」
「どうかしましたかフリス」
「ニア様は先ほど預言書に会いに行くと言っていましたが、普通は読むの間違いじゃないですか?」
「実はそんな事ないんですよ。ほら、来ました」
「え?」
ニア様の視線を追うと、先程のスズが女の子を連れて来ていた。
「えっと、その女の子は?」
「彼女が預言書です」
「え?」
え?
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「私はアズサ。預言書って言われても信じられないけど、私は元々人間なの」
何がどうなっているのか分からない私に、アズサという少女は自己紹介をしてきた。
「ニア様、これは一体どういうことですか?」
「フリスが今目の前に見えているそれが事実です。この世界に散らばる預言者は、本の形でありながら人間の姿も模しているんです」
「本が人間の姿で、預言書が人間?」
もう何が何だか分からなかった。けど誰も嘘をついているようには見えないし、むしろ私がこの世界について行けてないのかもしれない。
「流石に驚きを隠せないみたいですね」
「だって、預言書って本、ですよね? 私だって驚きます」
「気持ちは分かりますが、ただ驚いてもらう為に来たわけじゃないんですよ?」
「まだ、何かあるんですか?」
「彼女は預言書。ならばフリスには知っておいてもらいたいんです、私達の国が進む道を」
「それはどういう」
意味なのかと尋ねようとしたら、預言者が突然私の所にやって来ておでこ同士をくっつけて来た。
「なっ、えっ」
「読んでもらうよりこっちの方が早い。私の中にある未来の記憶を貴女に見せてあげる。次期妖精女王フリス」
アズサのその言葉と共に、突然私の頭の中に流れ込んでくる未来の記憶。
(こ、これって……)
ここにきて私はようやく理解した。何故ニア様が突然私に未来を見せようとしたのか。
(私がニア様を……でもどうして?)
「見えましたか? フリス」
「はい。でもニア様、これは……」
「信じられませんが、紛れもない事実です」
「で、でも私こんな未来望んでなんか」
「望んでなくても、そうなる未来。貴女がこの世界にやって来てから、預言書の未来も大きく変わった」
「それって……私のせい?」
あくまで預言である以上、確定した未来の話ではないのは分かっている。けどその未来で待っているのが、こんな事なんて……。
「無理ですニア様、私にこんな未来は受け入れられません」
「分かっています。だから変えなければならないんです」
「変える?」
「預言書はあくまで可能性の未来を示しています。ならその可能性を壊すことだって可能なはずです」
「可能性の未来を壊す……?」
私が、ニア様をこの手で殺めてしまう不確かな未来を。
「私に、そんなことできるんですか?」
「やれると信じているから貴女にこの未来を見せました」
ニア様はある意味私に賭けているのかもしれない。自分の未来が変わる事を。でもそれは、
(私には重すぎる……)
「少し、時間をください」




