第88話 妖精の物語①
「何が問答無用よ。何も知らないくせに」
襲い掛かる妖精達の攻撃を避けながら私は呟く。龍ちゃんを助けに急がなければならない今、こんなところで構っている時間なんてなかった。
「フリス、何とかできないの」
ユニが私に声をかけてくる。彼女としては急ぎたいゆえにここは無視したいのかもしれない。かと言って私がこの状況を何とかできる事もできない。
『女王様を殺した裏切り者、絶対に許さない』
『反逆者は死すべし』
『この者を信じた私達が馬鹿だった』
襲い掛かる妖精達の心の声が聞こえてくる。その言葉は全て私に向いている。そもそも私が妖精女王になったきっかけは、先代の女王の死がキッカケだった。私にとっては命の恩人なのに、どうしてそれを彼女達は理解してくれないのだろうか。
「その力も女王様から奪い取ったもの。貴女は我が国の面汚しです」
「何を勘違いしているかは分からないけど、私は殺しもしていない」
「戯言を」
「戯言はどっちよ」
私は襲撃の中心にいる人物、ティアナと対峙する。彼女は先代の女王に心酔していて、私が新たな女王になった事に、好感を持っていなかった。だから今私をこうして殺しにかかっている。
(心酔しすぎなのよ、貴女は)
本人はそんなこと自覚していないだろうけど。
「貴女が私のことをどう思おうと構わない。でも私は、命の恩人を殺すような事はしない」
「したからこうして襲われていることをどうして分からないんですか」
「ティアナこそ何もわかっていない。先代がどういう思いで私に」
「フリス、危ない!」
ユニの声で背後から矢が飛んできている事に数秒遅れて気が付く。反応が遅れたことによって、私はそれをかわす事が出来ずに、矢を受けてしまう。
「うっ……」
「美冬ちゃん!」
「よくやりましたね」
私は先日の傷も癒え切っていないせいで、体に深刻なダメージが入り、飛んでいることができなくなってしまう。
「フリス!」
「私にやたら話してくると思ったら、それが狙い……だったの」
「はい。手負いなのは分かっていましたから」
「どうしてそこまでして」
「許せないからに決まっているじゃないですか。貴女はニア様を」
「黙っていようと思っていたけど、許せない!」
ティアナの言葉をさえぎって動き出したのは、奏ちゃんだった。戦える力なんて本来ならないはずなのに、奏ちゃんはティアナに掴みかかる。
「何ですか貴女は」
「私の美冬ちゃんが人殺しなんてふざけた事言わないでよ! 人の話も聞かないで、勝手なことを言いすぎよ」
「私は全部知ったうえで、こうしているんですよ」
「なら本人に話は聞いたの」
「聞く必要なんてありませんよ。どうせ嘘なんですから」
「そうやって決めつけて貴女は……!」
「もう止めて奏ちゃん!」
言い争うティアナと奏ちゃんを私は止めに入る。私の声で妖精達の攻撃が一旦止まる。
「ユニ達は今のうちに向かって。私達が止めるから」
「大丈夫?」
「大丈夫。その代わり龍ちゃん……ユウの事をお願い」
「……分かった。ラーヤ、サシャル行こう」
一瞬時が止まった隙に、三人を向かわせる。
「あ」
「向かわせない。美冬ちゃんに謝って」
「何故裏切り者に謝らなければいけないのですか」
「何でも勝手に決めつけるからよ!」
いつもの優しい口調とはまるで違う奏ちゃんに、ティアナは押され気味になっている。私はふらふらと飛び上がって、二人の共に向かう。
「奏ちゃん、もういいよ」
「でも……」
「裏切り者が偉そうに」
「本当は止められていたけど、話してあげる。貴女が心酔しているニア様が託してくれた思いを」
「大人しく聞くとでも」
「ニア様が貴女に託した言葉があると言っても」
「え?」
「全部話してあげる。今私達が向かうべき道を」
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この世界に新たな命としてやってきた私は、この姿でさまよい続けていた。この世界では妖精族は希少な種族として扱われていて、妖精達が住んでいる国も今となっては一つだったけど、当時も多くはなかった。それゆえ私は行き場所もなく、どう生きていけばいいかも分からなかった。
そんな時だった。
「あらあら、こんなところにはぐれ妖精がいますね」
「貴女……は?」
「貴女のような妖精を助ける救世主みたいなものですかね」
「救世……主?」
私の目の前にニア様が現れたのは。出会った当時私は彼女が妖精女王であることは知らなかったから、本当に救世主のように見えて、あの時の感動は今になっても忘れられていない。
「転生、ですか?」
「はい。こんな話を信じてはもらえないと思いますけど」
「信じますよ」
「え?」
「私達の世界はそのような人が沢山いますから」
だから私の事も話すことができた。ニア様はそれを素直に受け入れてくれた。
この世界に転生者は多くないみたいだから、あの時は私を安心させるために言葉をかけてくれたんだと思う。
「救世主さんは……何をしている人なんですか」
「私はとある国の女王をやっています」
「じょ、女王?!」
「はい。私は救世主であり、女王様なんですよ」




