第86話 破滅の秘密 前編
迎えた作戦当日の朝。スービニアにはその時を待っている人達が集まっていた。あとは私が指示を出せば動き出す状態になっていた。
「ユニ、皆いつでも出発できるよ」
「うん、分かってる」
「もしかして緊張してるの?」
「緊張、なのかな。でもユウの為にはそんな事言ってられない」
「相変わらずね」
出発直前、ラーヤがそんな言葉を私にかけてくれたおかげで、少しだけ私の緊張が解ける。これから私、私達がやろうとしている事はいわゆる戦争に近い。
極力被害を出さないための作戦を練ったものの、被害を完全に抑えきれるわけでもない。特に気にしなければならない事が、
(ユウ……絶対に負けないで。私達が皆で助けに行くから)
彼の心だ。ユウを信じていないわけではない。むしろ信じている。でもだからこそ、怖い。
「震えとるぞ、ユニ」
背後から声をかけてきたのは、もう一つの私の不安材料。昨夜彼女、アジールが私に教えてくれた事は、消えかけていた不安を増大させた。
私達が歩むのは白紙の未来
それを証明する三冊目の預言書
昨日アジールはその全てを私にぶつけてきた。
「昨日の事を気にしておるくらいなら、今すぐ作戦は止めるべきじゃな」
「誰のせいで」
「主の気持ちは、我の言葉で揺れるほど脆いものなのか?」
「っ!」
「確かに我が昨日言った言葉は何一つ嘘偽りはない。しかしそれを打ち破るという気持ちがないほど、お主は彼奴の事は思っておらぬのか?」
「それは……分からない」
「迷いがあるのは分かっておる。ならその迷いはこの戦いで振り払ってみればよい。今のお主に必要なのはそれじゃ、ユニ」
「アジール……」
彼女の言葉は昨日とほぼ変わりなかった。しかし今確かに彼女は私の背中を押してくれた。なら、私は……。
「言われなくても分かってる。だから今から告げる」
私は集まった全員の前に立ち、一息を置いた後にこう宣言する。
「今日は力を貸してくれてありがとう皆。正直この先にどんな結末が待っているのかは私には分からない。けどこれだけははっきり言える」
ここで一呼吸。そして、
「何があってもユウを助け出す!その為に皆頑張ろう! 出撃!」
私らしからぬ声を張ったセリフとともに、出撃の令をだす。するとその場にいる全員が私に応えるように手を挙げ、ユドリシアへと向けて第一陣が動きだす。
私は第一陣を見送った後に、背後にいるアジールに声をかける。
「行ってくる」
「無事に帰ってくるがよい。その後改めてお主とはゆっくりと話したい」
「分かってる。その時にはあって言わせてみせるから」
私にとってとても大きな戦いが、今膜を開ける。
■□■□■□
どれくらい長い間眠らされたか分からない。俺が再び目を覚ました時、目の前にはあの王女の姿はなかった。
(意識を失う直前、次目を覚ましたら俺はアイツのものになってるって言っていたけど、今のところは大丈夫なのか?)
そう考えるものの、やはり俺の中の不安は消えない。今俺に起きているのは、預言書にもどこにも記されていない。
あの王女が何を考えていて、俺に何をやらせようとしているかは分からない。そして何より、今再び拘束されている俺の目の前にある謎の本。これは一体何に使うつもりなのだろうか。
「貴女が生まれ変わる姿ですよ」
その疑問に答えるかのように部屋に入ってきたのはあの王女。俺が染まっていない事に驚いた様子もなく、平然と俺の元にやってくる。
「目が覚めたら貴女のものになるんじゃなかったの?」
「あら、そんなにも私の物になりたかったのですか?
まあ、もう既になっているのですが」
「え?」
王女の言葉に俺の心臓はドキッとする。この言葉は偽りの物だって分かっているのに、どうして今俺はこんなにも……。
「でもまだ不完全なようです。やはり貴女が特別な存在なのが影響しているのでしょうか」
「私の心は簡単には染まらない」
「なら、染まるキッカケを作ってあげましょう」
「キッカ……」
俺が言葉を紡ぐよりも先に、俺の唇に再び柔らかい感触が……。
「やめて!」
「強情な方ですね。そんなに私達に力を貸すのが嫌なのですか?」
「捕らえられた国に力を貸す理由があるとでも?」
「ありますよ。これは世界の未来の為ですから」
「世界の未来……」
ユニも同じ事を言っていた。でもそれはユニ自身の中にある確かな自信があるからこそ生まれたもので、今の王女の言葉は信じるに値しない。
「その様子だと信じられないようですね。では一つ聞きますが、何故私は貴女の事情を知っているのでしょうか?」
「それは……調べたりしたとか」
「では何故貴女の正体について知っているのでしょうか?」
「何度も転生しているから、知っている人がいても……」
「あくまで否定するその気持ちは流石ですね。ですが、この本の意味を知った時、貴女はどんな気持ちにになるでしょうか」
「本の意味?」
王女が指差すのは勿論あの巨大な本。見た目は何ら変わりのない本なのだが、問題はその大きさだ。人一人は挟めるくらいの大きさなのだ。
「この本に何の意味が」
「教えてあげます。この本が持つ意味は」
王女は語る。これに隠された秘密を。
「さあどうなさいますか? ユウ様」




