第83話 初めての感情をあなたに
ユウを救出しに向かう日の前日
「以上が救出作戦の全容。出発は明日。無茶な作戦かもしれないけど、皆で戦おう」
『おー!』
スービニアでは明日の作戦へ向けて決起集会が行われていた。ラーヤとサシャルの協力の甲斐もあり、予定より多くの協力者を集める事ができた。
特にユウとスービニアの人達は、二冊目の預言書の件でコミュニケーションを取っていたこともあり、協力を得やすかった。
「ありがとうラーヤ、協力してくれて」
「当たり前の事をしただけよ。私だってユウを助けたいし」
「それでもありがとう」
「何か礼を言われると恥ずかしいわね。私は当たり前の事をしただけなのに」
私が改めて感謝すると、頬をかきながら恥ずかしそうにラーヤはそう答える。
「それにしてもユニって結構変わったよね。前は素っ気ない態度な事が多かったけど、最近はよく感情を表に出すようになった気がする」
「私が?」
「やっぱりユウの影響なのかな。ほら、恋って人を変えるって言うし」
「ら、ラーヤまでそんな事を……」
「私だけじゃなくて皆が思っていると思うよ」
キッパリと断言するラーヤ。私としてはそこまで自覚していなかったけど、ここ数日色々な人からその事を言われて、色々考えてはみたけれど、やはり自分の中の結論は分かっていない。
「私……そんなに分かりやすい?」
「最近は特に」
「それは多分、奏とかが何度も同じ事を言うからであって」
「でも好きなんでしょ? 実際」
「それは……多分、好きなのかもしれない。ただ、こんな気持ちになった事なんて一度もなかった事がないから、分からないけど」
「じゃあ伝えないと。ちゃんとユウを救って、その場で告白すればいいじゃない」
「そ、そ、そんな事、できるわけが」
もし私が彼を好きで、それを彼に伝えた時、果たしてどう感じるのか。それを考えると不安になって、勇気も湧いてこない。
「そういう反応をするあたり、間違いないみたいね。とにかく、私達はそっちでも協力してあげるから、何か困ったら言ってね」
「あ、ちょっと、ラーヤ」
ラーヤはそれだけ言い残して、人混みの中へと消えて行く。その場に残された私はというと、手に取っていたグラスを眺めながら、ラーヤの言葉を振り返っていた。
(私は本当にユウに告白するべきなのかな……)
好きならその気持ちを伝えるのが、女の子としてするべき事だと昨日奏も言っていた。けど、私がその気持ちを伝えて、何を望むのか。
ユウは私達もこの先生きれる未来を作ると断言していた。その言葉を信じるなら、私の未来を彼と歩むのもいいのかもしれない。
(どの未来に進むのがいいのかな……)
私の恋の未来はどこへと向かうべきのか、それはまだ分かりそうにはなかった。
■□■□■□
決起集会も終わり、皆が明日へ向けてそれぞれ眠りについた中、私は様々な緊張から眠りにつけなかった。
「眠れぬのか? ユニ」
外を散歩していると、偶然にもアジールに遭遇する。彼女とは同じ預言書同士とはいえ、こうしてまともに会話をするのは初めてだった。
「アジールも?」
「我はそもそも眠らぬ体質でのう。このまま明日を迎えるつもりじゃ」
「そう」
私は折角なので足を止める。アジールにはいくつか聞きたい事があった。
「アジールも明日は協力してくれる?」
「縁はないが、手伝わないわけにもいかぬ。我の代わりに捕まった彼のためにも、そして何故我らを狙ったのかを確認するためにも、ユドリシアには向かわねばならぬ」
「ユドリシアが私達を狙う理由は、何となくは分かる」
「我も思い当たる事がないわけではない。じゃが、それを狙う理由が分からぬ」
「それは私も分からない」
そもそもこの世界が、私達を巡って争いをしている理由はたった一つ。私達にはそれぞれ世界の根幹に関わるとある事が記されていて、それらからある一つの秘密に導く事ができる。
しかしそれを狙う事自体がもたらすのは、世界の破滅。ユウに教えたような破滅よりもより酷い、全てを無にする力。それを求めることは、本来ならあり得ない事なのだ。
もしくは全ての未来を把握したい奇怪な思考を持つ人もいるかもしれないが、そこの真意は分からない。
「そもそも、我らは世界のバランスを保つために作られたもの。それを消すということは、世界のバランスを崩すことになる。それをユウは何故望むのか、我はいまだに理解できぬ」
「ユウは世界のバランスを崩すとかそういう事は考えてはいない。ユウは世界を救おうとしている。だから
私は彼に力を貸している」
「そういえば二冊目も協力しているようじゃの。それもやはり、ユウの説得によるものか?」
「ユウは約束した。私達が暮らせる未来を作ると」
「果たしてそれは信用できるものなのかのう」
「私は信じてる」
「言葉でなら何でも言える」
鼻で笑いながら彼女は言う。彼女がどう思おうが、私の気持ちは変わらない。けど、アジールが次に言った言葉は私の気持ちを揺るがした。
「それに一つお主は忘れている事はないか?お主が恋をしておるその者は、死人であることを。もしその約束を果たす前に身が尽きたらどうなる」
「そ、それは」
「人を信じるのを悪いとは言わぬが、我らと彼らは違う事は覚えておくがよい」
私達とユウ達は違う
それは最初から分かっていたこと。私達はこの姿でも、元は一冊の本。たとえ私達に無限の命があろうとも、彼らは違う。
そして彼は転生者であり、その転生を終わらせようともしている。それなら、私達が歩む未来って……。




