第82話 立ち上がれ乙女達
「ユウが誘拐された?」
「ラーヤ、シャレなら面白くない」
「私そんなつもりなかったんだけど?!」
スービニアへと再び帰還した私達は、一度ラーヤとサシャルにここまでの出来事を説明した。二人とも驚きを隠せていなかったけど、話はそこで終わりではない。
「だから力を貸して欲しい。ユウを助けたい」
「なるほど。でも相手は一国だし、勝算はあるの?」
「それは分からない。けど間違いなく鍵を握っているのはユウ」
「ユウが?」
「ユドリシアはそもそも預言者を狙って、ノアを襲撃した。その目的は分からないけど、同じ力を持っているユウが捕まったとなれば、確実に利用するはず」
「じゃあユウにはそれを」
「防がなければならない役目がある。そしてユウが防いでいる間に、私達が確実に助ける」
「そして助けるためには、スービニアの力が必要って事なの?」
「そう。私はユウを助けたい。だから」
私は二人の前に正座をして、頭を下げた。
「力を貸してください」
これは土下座という礼法らしくて、人に真剣に頼み事をするときに用いると言われている。今の私にとって、一国の力を借りる事が何より大事な事なので、こうして頭を下げてでも二人には頼みたかった。
「ここまでされて、断るほど私は鬼だと思う?」
「分かってる。でもちゃんとした礼儀で、頼みたかった」
「礼儀なんて堅苦しい言葉はいらないわよ。私達は仲間なんだから、協力するに決まっているでしょ」
「ラーヤの言う通り。私達はずっと仲間なんだから、断るわけがない」
「二人共……」
「それに好きな人の為にそこまで出来るユニは、とても格好いいわよ」
「な、な、何で、わ、私が好きだなんてそんな事は一言も」
「だったら動揺しないでよ」
(ついこの前も似たようなやり取りをした記憶があるようなないような……)
とにかく、私の気持ちはどうあれ、ユウを助けだしたい気持ちは決して揺れ動かない。あんな未来を彼が歩まない為にも、私は……。
「じゃあ戦おう! ユドリシアと。そして助け出そう、ユウを」
「ええ」
「勿論」
私の人生の中で最大にして、最難の救出作戦が、今膜を開こうとしている。
■□■□■□
ユウを助けに行くのは三日後。
それまでに念密な作戦を立て、それを実行するのが私に与えられた役目。主に作戦の要となるのが、スービニアの人達の兵力。ラーヤに尋ねてみたところ、ユドリシアに劣るものの、それなりの兵力はあるとのこと。
(ユドリシア側も私達が動き出したことが分かれば、必ず何か作戦を練るはず。それを対応する為には……)
ラーヤが渡してくれたユドリシアの大まかな見取り図を眺めながら、それぞれの動きを考える。ユウが捕らわれている可能性が最も高いのは、中心にそびえ立つ城の最上階。もしくは何かの作業をするための場所。
前者は見つけやすいものの、後者はあくまで推測なので、それが本当に存在するのかまでは分からない。つまり先陣を切る人達には、戦いながらユウが捕まっている場所を探すという重大な役割がある。そしてその役割を担うのは、動きが早い人達に任せて……。
「頭に詰め込みすぎると、当日が大変ですよ」
私が頭をフル回転させて作戦を考えていると、お茶を机に置きながら奏が声をかけてきた。
「相手が相手だから。作戦はしっかり考えないと」
「それはやはり、龍ちゃんの為にもですか?」
「りゅ、龍ちゃんは違う。私はユウのために」
「どっちも一緒ですよ」
「あ」
私は一度自分の心を落ち着けるために、お茶を一杯飲む。夜は少し冷えるので、こういうお茶は気持ちを落ち着かせてくれる。
「龍ちゃん……ユウのことが好きなんですか? ユニは」
「そ、そういうわけではない。私は何度も言うけど、預言書だから感情を持つことなんて」
「持っているじゃないですか。そうでないと、ユウを助けたいって気持ちにはなれませんよ?」
「それは、私がただそうしたいだけって思っただけで」
「それを感情と言うんですよ」
「うっ……」
気持ちが落ち着いたので、また作戦を考えようと思ったものの、奏の余計な一言で私は再び落ち着かなくなる。
(こんな事を考えること自体が馬鹿らしいと思っていた。それなのにどうして私はこんなにも……)
「好きだと言う気持ちは認めたら楽になれますよ。まあ、その後の方が苦しくなると思いますけど」
「奏はどうなの? ユウのことはどう思っているの?」
「好きですよ。今でも」
「え?」
「私はずっとユウを……龍ちゃんの事が好きでした。だから彼が命を自ら絶ったと聞いた時は深く絶望しましたし、それで私自身まで死んでしまったのは変えられない事実です」
「じゃあ告白する気は?」
「一生ないでしょうかね。なんせ私達はもう姿形も変わってしまいましたし、死人ですから」
「……」
「後悔する前に自分の気持ちを伝えてみた方がいいですよユニ。好きだと言う気持ちは、預言書だろうが何だろうが関係ありませんから」
「私が……ユウのことを……好き……」
この気持ち本当に言葉にしていいのかな。




