第81話 恋する預言書
スービニアへと帰還している最中、私の頭の中はずっとあの事ばかりだった。
(私がユウのためにしてきた事は、全部私が……)
けどすぐに頭を横に振り否定する。そんな事を一度も考えた事はなかったし、一度もそんな感情を覚えた事はなかった、
……はず。
「ねえ奏、これはどう見ても……」
「はい。間違いないと思います」
「同じ預言書として情けない話じゃのう」
外野がさっきから騒がしいけど、そんな事は気にしない。いや、気にしないようにしている。
どう考えても今の私はおかしいし、周りから見ても怪しまれる気持ちも少しは分かる。けどそれがどうしたと言いたい。もし仮に、私が彼女、彼に対して特別な感情があるとして、どうなる。
私は今はこうして人間の形をしているけど、元は一冊の本だ。その一冊の本である私が、たった一人の人間に対して特別な感情を持つなんてあり得るのだろうか。
(ない。絶対にそんな事は……ない)
そう、あり得ないはず。あり得ないはずなのに、どうして私はさっきからドキドキしていて、他のことを考えられなくなっているのか。
「私は元は預言書……人間ではない。だから……恋なんてあり得ない」
「そう言っている時点で、ほぼ間違いないと思いますが、今はそっとしておいた方がよさそうですね」
「うーん、私としてはすごく複雑な気持ち」
その答えを出すのは、今は難しい。とりあえずユウを救い出す事だけに今は集中しなければ。
「もうすぐスービニアに到着する。けどその前に奏とフリスの二人に話しておかなければならない事がある」
それにユウを救う前にちゃんと二人には話しておかなければならない事だってある。
「もしかして恋の相談ですか?」
「違う。ユウの事ではあるけれど、断じて違う」
「そ、そこまできっぱり否定しなくても」
「とにかく大事な話。とりあえずアジールにも聞いておいてほしい」
「我も?」
「三人にはこれを読んでもらいたい」
私はずっと持ち歩いていた一枚の紙を取り出す。それはユウが書き出した二冊目に書いてあった預言。
「これは?」
「ユウが書き出していた私達の身にこの先起きる事」
予定は変わったものの、結果的にユドリシアに私達は向かう事になった。
そして向かう先で待っているのは、王女が殺されるという現実。しかしそこにはもう一つ続きがあった。
「どういう……事ですか? これだとまるで龍ちゃんが私達の敵になるみたいじゃないですか」
「まるでじゃない。恐らく確実にこの先起きる」
「で、でも、それは私達が最初にユドリシアに向かっていた場合の話だし、未来は変わっているはず」
「そうでもない。結局ユウは向こうの手に渡ってしまった。つまり、この未来が起きる可能性がゼロではなくなってしまった」
「そんな……」
ユウが奏に会いに行って、その後ノアへ向かったところまでは預言者の道を外れていた。しかしその場所でユドリシアの手に渡ってしまった以上、この預言通りになる可能性が高い。
「じゃあ私達はユウと……龍ちゃんと戦わなければいけないのですか?」
「それを避ける方法が一つだけある」
「方法?」
「それはユウがどんな事に対しても強い精神を持ち続ける事。そうすれば、敵の魔の手に飲まれる事はない」
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「う……」
「ようやく目を覚ましたか。いかがでしたか? 寝心地は」
「最悪……」
眠らされてからどれくらい時間が経ったか分からないが、ようやく深い眠りから目を覚ますとユズロアが笑顔でこちらを眺めていた。
「人の顔を見えその言い草は随分な言われようですが、そう言っていられるのもここまでです」
「ここ……まで?」
「気づいていませんか? あなたの体に変化が起きている事を」
「私の体に……?」
特に何も違和感は感じない、と言おうとした時だった。全身を突き抜けるそれを感じたのは。
「え、な、何これ。身体が……」
突然熱に浮かされたように火照り出す身体。そして朦朧とし出す意識。俺はその中でなんとか意識を保とうするも、限界はすぐに訪れる。
「いいですか? あなたはこらから私達の、いえ、私の物になります。私の物になって、私の為にその力を使って頂きます」
「そんな事に……大人しく従う……とでも?」
「従いますよ」
「そんな簡単に私は……あなたの物になんか」
「なりますよ。いえ、なっているという言葉の方が正しいですかね。何故ならあなたは」
そう言って彼女は俺の顎をくいと持ち上げ、こう告げた。
「ここに連れられてきた時点で、既に私のものになっているのですから」
「私……は……」
その一言を聞くと共に、俺の意識は遥か彼方へと飛んで行った。
(ユニ、奏、美冬……)
俺このままだと本当にこいつの物になってしまう。だから、だからせめてその前に、俺を助けてくれ。そしてもし間に合わなかったら、
「ふふ、これで一つピースは手に入りました。あとは彼女達がこの場所に来るのを待つだけですね。三冊の預言者が集まれば、もうこの世界の未来は全て私の物に……ふふ」
その手で俺を殺してくれ。




