第80話 彼の為に
深い眠りに落とされ、再び俺が目を覚ました時はどこかの牢屋の中だった。
(ここは……)
両手は鎖で繋がれていて、動かすことはできない。しかも辺りは薄暗くて不気味で、まさに牢獄という言葉にふさわしい場所だった。
「目を覚まされましたか」
周囲を見回していると、突然声がする。薄暗闇から姿を現したのは、華やかなドレスを身に纏った女性だった。
「あなたは?」
「私は今回の件の張本人とでも言っておきましょうか」
そう言いながら何事もなく牢の中へ入ってくる女性。俺はそれに対して、真っ直ぐに彼女を見据えて、言葉を述べる。
「もしかしてユドリシア王国の女王?」
「ご名答。私はこの国を治めるユズロアと申します。そしてあなたと同じように預言書を集めている人間の一人です」
「同志とでも言いたいの?」
「いえいえ、そんな事は微塵も考えていません。同志ならばこのような形で捉える事はしませんから」
先ほどからずっと笑顔を崩さずにユズロアは言葉を続ける。しかしその端々には、とても冷たいが、確実に潜んでいる野望が見え隠れしている。
(王女ってもっと気品だと思っていたけど、こいつは明らかに違う)
「それで貴女の名前は?」
「……ユウ」
「ユウさんでしたか。ではこの度捕虜の身となったユウさんに質問です」
「質問?」
そう言うとユズロアは唯一自由の効く顔を掴んで、至近距離でこう囁いてきた。
「あなたはこれから、殺されるか私達のものになるか、どちらを選びますか?」
「ど、どちらって、そんなのどっちもお断りよ。私はここから脱出して」
「残念ですがそれは不可能です」
「なっ……ふぐ」
そして彼女の顔が目と鼻の先まで近づいた次の瞬間には、女性であるユウは女性であるユズロアに唇を奪われていた。
あまりの一瞬の出来事に、俺は惚けてしまうがすぐに意識を取り戻す。
「あなたは最終的にユドリシアに手を貸す事になります。これは確実に決められて未来なんですから」
「決められた……未来? この場所に……預言書はないはず」
「はい、ありません。しかし自分達の都合で作る事はできます」
「それって……」
「そうです。あなたがやろうとしている事ですよ、新たな預言書さん」
「どうして、それを」
その事に関してはまだ決まったばかりだ。なので情報としてそれが出回っている事自体があり得ない話。それなのにどうして……。
「私はもう全てを知っています。だからあなたがいくら何かを隠そうと、私には筒抜け。例えばあなたが転生してこの世界に来ているという事も」
「なっ!?」
初対面だというのにここまで見抜かれている事に俺は驚きを隠せず、素の自分が出てしまう。
(何者なんだ、こいつは)
どう見ても味方のようには見えない。一国の王女とは思えない言動だし、彼女が今していることはほぼ脅しだ。
(危険だ、危険すぎる)
二冊目の預言書で彼女を殺す事に関わるその理由、何となくだけど分かってしまった。
「さて、ひとしきり私がどういう者か理解して頂いたところで、あなたにはしばらく眠ってもらいます」
「眠るって、私……あ……」
ユズロアが指を鳴らすと、俺は突然眠気に襲われる。いつの間にこんな魔法をと思ったが、先ほどのアレがキッカケだと気づいた頃には、既に眠りについてしまっていた。
「さあこれであなたは私の物です。次に目を覚ました時は、既にあなたの心は……」
■□■□■□
「やっぱり戻らないと駄目だよ! ユウを探さないと」
「あの場所に戻るのは危険すぎる」
「ならユウを見捨てるというの?」
「そうじゃない。他の方法を探す」
ノアから脱出して三日。フリスがユウを助けに行くと何度も言い、私がそれを止めるやり取りを繰り返していた。
「別の方法って、何かあるの? そもそもどうしてユウだけあの場所から逃げられていなかったの?!」
「それは恐らくユウが私達を逃がすために囮になったから。そしてユウは……捕まった」
「捕まったってどこに? そういえば押しかけていた兵士はどこかの国の兵士みたいだったけど」
「捕らえたのは恐らく」
「ユドリシアじゃ。我を捕まえに来た彼奴らは、ユドリシアのものだと言っておった」
「ユドリシア?! そこって」
「そう。私達が本来向かおうとしていた場所」
まさかこんな形でユドリシアと関わる事になるとは思っていなかった。そして、ユウがこうなってしまった以上、二冊目に預言されていたことは少なからず避けられなくなってしまった。
「ユウは必ず助ける。けど、私達だけじゃ力が足りない」
「足りないって、じょあどうするの?」
「足りないなら借りればいい。その人達がスービニアにいる」
「サシャル達に力を借りるの?」
「そう。今の私達に出来ることはそれしかない」
そしてそれが唯一のユウを助ける方法。相手が一国なら、こちらも一国の力でぶつける。ユウを傷つけるような事をするなら、私が絶対に許さない。
「ユニって龍ちゃんの為にそこまで必死になっていますけど、もしかして好きなんですか?」
「ふぇ?」
ふと奏がそんな事を私に聞いてくる。聞かれた私はというと、不意打ちすぎて変な声を出してしまった。
「どうして突然そんな」
「だってどう考えても、ユニは龍ちゃんの事を好きとしか見えませんし」
「確かに。私もそう思ってた」
「見え見えじゃのう」
「ま、待って。私はそんな感情を持ったことは」
「ならどうして動揺しているんですか?」
「そ、それは」
私がユウの中にいる彼の事が好き? そんな馬鹿な話……。
「そんな馬鹿な話は……な、ない」
「頬を赤くしながら言われても、説得力ありませんよ」




