第77話 三つの顔を持つ妖精
その絶望はあまりにも大きかった。
失う事がないと思っていた時間、そして場所。それを一度全て失った時、俺は生きる理由も何もかも全てを捨てた。
「龍ちゃん、馬鹿なことを考えちゃダメだよ! 私達はあの子の分まで生きないと」
「その生きる事に俺は意味を見出せないんだよ」
「ど、どうしてそこまで……」
「大切な存在だったから。俺にとっては心の拠り所だったから」
「っ! じゃあ私は違うの? 私は龍ちゃんにとって何なの?」
「奏も一緒だよ。俺にとっては二人ともとても大切な」
「一緒車なんかじゃない! 龍ちゃんはいつもいつも、美冬の事ばかり考えていて、私の事を見てくれなかった」
「違うんだ奏、俺は奏の事を……」
「もう知らない!」
そして奏も俺の元から離れて、俺はいよいよ一人になってしまった。俺は彼女を傷つけるつもりなんてなかったのに、美冬を失ったショックから、彼女から目をそらした。
それが俺の弱った心に追い打ちをかけて……。
「思い……出した。俺は……大切な人を失って、それで……」
「そうです。自暴自棄になってあなたはその命をいとも簡単に絶ったんですよ」
「じゃあ奏も俺と同じで」
「彼女も相当苦しんでいました。短期間で二人も幼馴染を失ったのですから」
「何もかも俺のせいなんだな……。美冬も奏も……」
「そしてあなたは二人を今も縛り付けているんです。姿、形が変わっても」
「そうか、二人を……え?」
二人? 奏はともかくとして、美冬は違うのではないか?
「もしかしてまだお気づきではなかったのですか? 転生したのは二人だけではありませんよ?」
「まさか……美冬もなのか?」
「はい。そしてあなたは既に出会っています。まあ、本人は名乗り出してはいませんが」
「もう会っている……だと」
記憶を辿るがそんな気配がある人物なんて一人もいない。そもそもおかしいのは、俺はともかくとして奏や美冬までもがああして異世界にいる事だ。
死んでしまったとはいえ、こんな事望まなければ転移なんてすることもない。
「なあどうして二人は」
「そろそろ時間ですね」
「時間?」
「これであなたと会うのは最後になるでしょう。その命、今度こそは大切にしてください」
「もう転生するのか? まだ話したい事が」
「いえ、今度は転生するのではなく」
目の前から神様さが姿を消す。そして同時に俺の視界は光に包まれ……。
「……え?」
「ユウ……? 嘘……」
『私のサービスで生き返らせてあげます。これが本当に最後ですからね』
奏達の目の前で目を覚ました。
■□■□■□
「よかった! よかったユウ!」
俺が再び目を覚ました事に一番最初に喜んだのはフリスだった。
「どうしてまた……。龍ちゃん……」
「まさか生き返るなんて……。これもまた、誰かの力が」
そして奏、ユニがそれぞれの反応を示す。俺はというと、まさかまた生き返るだなんて思ってもいなかったので、しばらく呆然とする。
特にあの神様の言葉がずっと気になっていた事もあり、すぐに言葉が出てこない。
(もう既に会っているって言っていたが、本当に美冬はこの世界にいるのか? それならどうして)
「どうしたのユウ。さっきから黙って」
「あ、ごめん。色々ありすぎて困惑してた」
俺はあえて奏の方に目を向ける。事情は分からないが、奏は俺の命を奪った。一体何が彼女をそこまで突き動かしたのかは分からないが、少なからずそれは俺にある事は理解している。
だがそんな俺を無視して、奏は何も言わずにその場から立ち去ろうとする。
「待って奏。話がしたい」
「私は話すことなんてない」
「こっちは聞く権利があると思う。一度殺されたんだから」
「……」
俺は彼女に呼びかけるが、彼女は結局どこかへ去ってしまった。残された俺達は、ここから近くにある古の都へと向かう事にした。
「フリス、聞きたい事がある」
その道中、そう口を開いたのはユニだった。
「何?」
「奏は言っていた。あなたがミフユという人物であるという事を。それはどういう意味?」
「え?」
そして次の彼女の言葉に反応したのは俺。まさかユニからその名前が出てくるなんて思ってもいなかった。
「ミフユ? ユニ、どうしてその名前を」
「奏がその名前をフリスに向けて言っていた。だから私は聞いただけ」
「フリス、どういう事なの?」
「どういう事? それは私の方が聞きたいよ。私はそんな名前じゃない。ましてや妖精女王でもない」
フリスは淡々と答える。けど、その言葉の端々が微かに震えていた。
「フリス、君が本当に美冬ならば教えて。どうして美冬まで転生したの?」
「だから違うって言っているでしょ!」
フリスはその小さな手で俺に掴みかかってくる。俺は彼女を優しく受け止めながらも、ちゃんとした言葉で彼女に尋ねる。
「私隠し事は嫌だよ。ちゃんと話ができるなら、フリスと、美冬と、ちゃんと話がしたい」
「だから私は関係ないって」
「そしてちゃんと謝りたい。あの時の事を」
「っ! なら、どうしてあなたまで死んじゃったの。二人にはちゃんと生きてほしかったのに、どうして!?」
「フリス?」
「どうして自分の命を捨てるの? ねえ、どうしてよ」
フリス、いや、美冬は矢継ぎ早に言葉を並べる。それに対して俺は、夏目龍之介は……。
「それはお前も一緒だろ! 美冬」
久しぶりに素の自分の声を彼女にぶつけた。




