第76話 彼女の中の彼
「もうこうして会うのも何回目ですかね。夏目龍之介様」
「覚えてないよそんなの」
「一時的な記憶喪失になっていたんでしたっけ? なら覚えてないのも当たり前ですよね」
何度目か分からない死によって、完全にユウではなくなってしまった俺は、今神様と話をしている。もうかなり遠い記憶で、微かにしか覚えていないが、恐らく彼女が俺を転生させた張本人だ。
「なああんたは知っているんだよな。俺が、いや、俺達がどうしてこうなったのかを」
「達、とはもしかして奏様の事を言っていますか? なら私は知りませんよ」
「何でだよ。だってお前があの世界に俺達を送りつけたんだろ?」
「送りつけたとは人聞きが悪いですね。そもそもこれは、あなたが望んだんじゃないですか。本が沢山読める世界があると言ったら、食いついたのはそちらでしょ?」
「うっ、ま、まあ、それはそうだけど」
頼まれたとはいえ、断ることができたのは事実だ。でもそれはあくまで俺だけの話であって、奏は違う。
「俺はともかくとして奏は違うだろ。そもそも何で奏は死んだんだ? 俺もそうだけど、その辺りがはっきりしてないだろ」
「ちゃんと説明していませんでしたっけ。確か七度目の転生の時くらいに」
「覚えてるわけないだろ」
「仕方ありませんね、なら説明しますけど、一つだけ条件があります」
「条件?」
「奏様を守って罪を償いたいという気持ちはわかります。しかしそろそろそれも終わりにしませんか」
「終わりにするって、どういう事だよ」
「繰り返される転生は、あなたの中の奏様をへの罪償いの気持ちが引き起こしているんです。それはもう終わりにしましょうよ」
「俺がこの繰り返される転生の根本だっていうのか? なら、アーニスさんとかはどうなるんだよ。あの人だって関係ないだろ」
「あれはあらゆる偶然が重なって引き起こされた事態なんです。まあどうやら転生の輪を抜け出すことは出来たようですが」
「なら本当に俺は……」
でもそれは仕方がない事。そうし続けなければ、奏を守り続ける事なんて出来ない。もしかしたらあの奏は既に転生を繰り返した奏かもしれない。
だけど俺が好きな奏だという事実は何も変わりない。だから守り続けなければならない。一度救われたこの命がすたり続けようとも。
「あなたの命を奪った張本人だというのに、本当強情なんですね龍之介様は。しかし理解していますよね、それも永久には続かない事を」
「その話はユウに聞いたよ。だから可能な限りの話なんだよ」
「そうですか。なら本当に次で終わりにしましょう。あなた強い意志を持てば、この呪いのような魔法も自然と解かれます。今度こそ強く生きてください、夏目龍之介様」
「ああ、分かっているよ」
「では転生させます、と言いたいところですが、こちらの約束も守らなければなりませんね」
「話してくれるのか? 奏が死んだ原因」
「はい」
彼女は語り出す。どうして奏までもが、この世界に巻き込まれたのかを。
「後追い自殺ですよ」
「やっぱり自殺か……え? 後追いって」
「はい。龍之介様が本当に亡くなった原因は自殺ですよ」
「俺が自殺?」
「はい」
「いや、はいじゃないだろ」
更にそれを追って奏までもが死んだなんて、余計に理解できない。いや、そもそも俺が自殺だなんて余計に考えにくい。
(確かに本漬けの人生ではあったけど、決して不満はなかった。なのに、どうして)
「信じられませんか?」
「当たり前だろ! 事故とか病死が本当の原因なら、まだ納得できる。なのに、何で俺が……」
「その原因を考えましたか?」
「今考えたよ。けど、別に人生に不満なんてなかったし、まだ読みたい本も沢山あったんだぞ。よほどのことがなければ」
なければ……。
「余程の事があったんですよ。そしてあなたはさん肝心な部分を全て消しているんです。記憶喪失になった原因も、恐らくその余波でしょう」
「余程の事って何だよ。一体何があれば俺は……俺は……」
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最近よく夢を見るようになった
誰かの記憶の断片みたいな夢
その中には必ず決まって龍之介がいて、奏がいて、私がいて……。
私?
どうして二人と一緒に私がいるの? どうして私は二人の名前を知っているの?
どうして、
「ねえどうして! 奏、教えてよ! どうしてそんな事をずっと考えていたの?!」
「フリス、しっかりして」
「離して!」
答えてよ奏。どうしてそんな大切な事を隠すの?
「その声……もしかして……」
「何でそんなに大切な事を教えてくれなかったの?! どうして二人は、私……私なんかの為に……」
モヤモヤしていた夢が、鮮明になり始めた時、私はこれまでの全てを理解した。私が心の声が聞こえるようになったこの力も、ユウに抱いていたこの淡い気持ちも全部を理解した。
私はユウの中にいる彼を常に見ていて、ユウの中にいる彼を常に考えていた。それはどうしてなのか。それは……。
「二人がこんなことになる必要なんてどこにもなかった! それなのにどうして? ねえ教えて」
「美冬……」
それは私が美冬という人間だからだ。




